住宅を購入する際、「長期優良住宅」という言葉を聞いた方もいるのではないでしょうか。優遇措置のメリットも多い長期優良住宅は、2009年6月にスタートし、開始月に認定を受けた住宅は2,367戸。そこから初年度は約5万7,000戸が認定され、2020年3月までの累計では、約113万2,000戸まで増えました。

長期的に住み続けられる家に住みたいと考えている方にとって、長期優良住宅は有効な選択肢のひとつです。そこで今回は、長期優良住宅の条件やメリット・デメリットについて解説していきます。

目次
長期優良住宅とはどんな住宅?
 ・制度誕生の背景
 ・主な認定基準
長期優良住宅のメリット
 ・税制が優遇される
 ・「フラット35S」が適用されて金利が下がる

長期優良住宅とはどんな住宅?

制度誕生の背景

従来の日本の住宅では、建てては壊す“スクラップ&ビルド”が主流でした。

今後少子高齢化が進む日本では、新築住宅へのニーズは減少していきます。ニーズが減るのに作り続けるということは、供給過多の状態になります。

それに住宅を新築する際にはさまざまな種類の材料が必要となるだけでなく、取り壊すときには大量の廃材が発生します。つまり、スクラップ&ビルドの繰り返しは、環境の観点からも良い状況とはいえません。

そこで、「いいものを作って、きちんと手入れをして長く大切に使う」ストック活用型の社会への転換を目的として(住宅:長期優良住宅のページ - 国土交通省)、長期にわたって住み続けられる住宅を普及させる長期優良住宅認定制度が開始されました。

長期優良住宅認定制度は、戸建ての住宅や、マンションなど共同住宅どちらにも利用できます。2016年4月からは、新築住宅だけでなく増改築した場合も、所定の条件を満たすことで長期優良住宅の認定を取得することができるようになりました。

主な認定基準

まず長期優良住宅と認定されるためには、次の対策が講じられていることが必要とされています。

1. 長期に使用するための構造及び設備を有していること
2. 居住環境等への配慮を行っていること
3. 一定面積以上の住戸面積を有していること
4. 維持保全の期間、方法を定めていること
引用: 長期優良住宅認定制度の概要について[新築版]|一般社団法人 住宅性能評価・表示協会

これらの対策には基準が設けられていて、次の項目を満たす必要があります。

・劣化対策:数世代にわたり住宅の構造躯体が使用できること
・耐震性:極めて稀に発生する地震に対し、継続利用のための改修の容易化を図るため、損傷のレベルの低減を図ること
・省エネルギー性:必要な断熱性能等の省エネルギー性能が確保されていること。
・維持管理・更新の容易性:構造躯体に比べて耐用年数が短い設備配管について、維持管理(点検・清掃・補修・更新)を容易に行うために必要な措置が講じられていること
・可変性※:居住者のライフスタイルの変化等に応じて間取りの変更が可能な措置が講じられていること
・バリアフリー性※:将来のバリアフリー改修に対応できるよう共用廊下等に必要なスペースが確保されていること
・居住環境:良好な景観の形成その他の地域における居住環境の維持及び向上に配慮されたものであること
・住戸面積:良好な居住水準を確保するために必要な規模を有すること
・維持保全計画:建築時から将来を見据えて、定期的な点検・補修等に関する計画が 策定されていること
※可変性とバリアフリー性は共同住宅等(マンション)のみ
引用: 長期優良住宅認定制度の概要について[新築版]|一般社団法人 住宅性能評価・表示協会

長期優良住宅のメリット

長期優良住宅の認定を受けることに、どのようなメリットがあるのかを見ていきます。

税制が優遇される

長期優良住宅を購入した場合、一定期間、税金の負担を軽減できます。

住宅ローン控除

住宅ローンを組んで長期優良住宅を購入した場合、住宅ローン控除の控除額が100万円増えます。

住宅ローン控除とは、住宅ローンを組んだ人が所定の条件を満たした場合、所得税と住民税から減税を受けられる制度です。住宅ローン控除の控除額は、年末時点における借入残高の1%に相当する金額です。控除期間は最大で10年間ですが、2019年10月の消費税10%への引き上げにともない、所定の条件を満たすと控除期間が13年間に延長される特例措置が実施されています。

住宅ローン控除の控除額には、以下のような上限が設けられています。

対象となる年末時点の借入残高控除額(10年間の合計控除額)
一般の住宅4,000万円40万円(400万円)
長期優良住宅5,000万円50万円(500万円)

長期優良住宅と認定を受けた住宅を購入した場合、住宅ローン控除の上限額が年間10万円、10年間で100万円高くなります。所得税や住民税の金額を超える控除は受けられませんが、50万円より多く支払っているならば所得税や住民税の節税効果は高まります。

登録免許税

登録免許税とは、住宅を取得する際の所有権保存登記や所有権移転登記の際に支払う税金で、不動産の価額に税率をかけて算出されます。住宅を購入するときに支払う登録免許税は長期優良住宅の場合、以下のように軽減税率が適用されて税負担が軽減されます。

所有権保存登記所有権移転登記
戸建て0.15%→0.1%0.3%→0.2%
マンション0.3%→0.1%

不動産取得税

不動産取得税とは、不動産の購入時に1度だけ支払う税金です。

所定の条件を満たす新築住宅を購入した場合、不動産取得税額は固定資産税評価額から1,200万円を控除した金額に3%をかけて計算されます。購入した住宅が長期優良住宅であった場合、控除される金額が1,300万円までに増えます。

固定資産税

固定資産税とは、不動産を所有し続ける限りかかる、毎年1月1日時点で不動産を所有する人に対して課せられる税金です。

固定資産税は、固定資産税評価額に1.4%をかけて算出されます。新築住宅を購入すると税額が一定期間1/2となる減額措置を適用できます(要件あり※)。

※居住部分の床面積が1戸当たり50m2(一戸建て以外の貸家住宅については、1戸当たり40m2)以上280m2以下の住宅で、1戸につき床面積が120m2までが減額の対象となります。

長期優良住宅を購入した場合、減額措置の適用期間が以下のように2年間延長されるため固定資産税の負担のさらなる軽減が可能です。

  • 新築一戸建て:3年間 → 5年間
  • 新築マンション:5年間 → 7年間

「フラット35S」が適用されて金利が下がる

フラット35とは、住宅金融支援機構と民間の金融機関が提携して提供される住宅ローンです。返済が終了するまで変わらない全期間固定金利であるため、返済の途中で返済額が上がる心配がありません。

長期優良住宅を購入した場合、フラット35Sの金利「Aプラン」が適用され、借入れ当初の10年間は金利が0.25%差し引かれます。

例えば、2020年11月現在、借入期間が20年超、融資率が9割以下であるフラット35の金利が1.3%とすると、長期優良住宅の認定を受けフラット35Sが適用されると借入れ当初の一定期間は金利が1.05%になります。

30歳で借入額4,000万円、返済期間35年、金利1.3%、ボーナス返済なし、返済期間中の返済額を一定にする元利均等方式で借入れた場合、フラット35Sの適用の有無によって返済額が以下のように変わります。

フラット35のみフラット35Sの適用後
毎月の返済額118,592円〜返済10年目:113,848円
11年目以降:117,292円
返済総額49,808,848円48,849,328円
うち利息負担9,808,848円8,849,328円

フラット35Sの適用を受けられると、返済総額が約100万円減らせる結果となりました。

地震保険料が割引される

地震保険とは、地震・噴火や津波が原因によって住宅や家財が損害を受けた場合に保険金が支払われる保険です。

地震保険は、保険の対象となる住宅の耐震性能に応じた割引が受けられます。長期優良住宅の認定基準の中に耐震性能に関する項目があります。耐震性では、「建築基準法レベルの1.25倍の地震力に対して倒壊しないこと」「住宅品確法(住宅の品質確保の促進等に関する法律 )による免震建築物であること(免震建築物の場合)」などが求められます。長期優良住宅の認定を受けた結果として、地震保険料の割引を受けられる基準にも達することとなります。

耐震等級3で50%、耐震等級2で30%、耐震等級1で10%の割引が受けられます。