編集部がジャンル別で人気モデルを実機レビューする連載企画の第3回。今回注目したのは腕時計の原点とも言える最もスタンダードなジャンルである“3針モデル”だ。
3針モデルはシンプルなデザインであるため、デザインバランスや、ディテールのクオリティで大きく印象が変わる。時計の顔と言える文字盤は特にその効果が大きいため、使用している素材、装飾、加工の方法などに注目して時計を選ぶことをおすすめしたい。
今回はグランドセイコー、カール F. ブヘラ、ショパールと、時計好きの琴線に触れる実力派3ブランドに注目し、50万~100万円台までの価格帯からビジネスシーンで着けられるモデルを選出してみた。
【実機レビューモデル-其の1】
GRAND SEIKO(グランドセイコー)
SLGH005
最新のハイビート自動巻きムーヴメント、Cal.9SA5を搭載するグランドセイコーの次世代モデル。クロノメーターを凌駕する高精度、80時間のロングパワーリザーブを備えるなど実用性の高さに加え、型打ちの技法で製作された立体的な文字盤の造形が大きな魅力となっている。

■Ref.SLGH005。SS(40mm径)。10気圧防水(日常生活用強化防水)。自動巻き(Cal.9SA 5)。104万5000円
【問い合わせ先】
セイコーウオッチお客様相談室
TEL:0120-061-012
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2020年に60周年を迎えたグランドセイコー。限定モデルを発表したことで注目を集めたが、ムーヴメントに関しても革新的な次世代機を発表している。ここでレビューするSLGH005は、その次世代機のうち、自動巻きのCal・9SA5をレギュラーコレクションとして初めて搭載したモデルである。
搭載している自社製のCal ・9SA5は、デュアルインパルス脱進機(超精密加工技術MEMSにより軽量化されたパーツと独自設計を採用)により動力伝達のさらなる効率化を実現したほか、二つの香箱を備えることで80時間のロングパワーリザーブを確保。さらに、フリースプラング式のテンプ、約8万とおりものシミュレーションから最適解を導き出したという巻き上げヒゲを初採用し、毎時3万6000振動のハイビート機によって、静的精度は日差プラス5~マイナス3秒を実現している。外装の仕上がりも上々だが、デザイン面で特に目を引くのが文字盤だろう。岩手のグランドセイコースタジオ雫石の近くに群生する白樺の森がモチーフとなっており、木肌を想起させる独特の質感を生み出している。
この文字盤は、真鍮の文字盤に熱を加えて柔らかい状態にし、金型を使って模様を転写する型打ちと呼ばれる技法で製作されているのだが、厚さ0・5㎜の文字盤を立体的に仕上げるためには熟練職人の手作業が必要となるため、通常の型打ちの7倍以上の時間と労力が必要となる。繊細さと力強さを兼ね備えた有機的な質感が、ソリッドな植字インデックス、ダイヤモンドカットの針と絶妙なコントラストを生み出している。
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独自の水平輪列構造により厚さ5.18mmの設計を実現。ブリッジ、地板の優美なフォルム、工芸品的な仕上げも所有欲を満たしてくれる。

ヘアライン仕上げのベゼル、ザラツ研磨で仕上げた多面的なラグなど現代的な雰囲気を強めたデザインを採用。立体的で高級感のある質感に仕上げられている。

ケースの直径は40mmで、厚さは11.7mmと、3針モデルとしてはややボリューム感のある仕様。型打ちで仕上げられた存在感抜群の白樺文字盤と、ザラツ研磨により立体的に仕上げられたケースが絶妙なデザインバランスを構築している。
》編集部・堀内の総評

「最新のムーヴメントを搭載することで高精度とロングパワーリザーブを確保し、さらに型打ち技法による立体的な文字盤や機能的で美しいムーヴメントを楽しめます。エッジを際立たせた針、インデックス、ケースに比べるとブレスレットのエッジが緩めな点は若干気になりますが、機能とデザインの両面で高い品質を備えた次世代機にふさわしい力作です。(編集長:堀内)」
【実機レビューモデル-其の2】
CARL F. BUCHERER(カール F. ブヘラ)
マネロ ペリフェラル
外周に設置されたリング状のローターによりゼンマイを巻き上げる独自機構“ペリフェラル”を採用したマネロのベーシックコレクション。汎用性の高いクラシックな意匠に加え、クロノメーター認定の精度、55時間のパワーリザーブを備えており、オンオフを問わずに様々なシーンで活躍してくれる。

■Ref.00.10917.08.33.01。SS(40.6mm径)。3気圧防水。自動巻き(Cal. CFB A2050)。92万4000円
【問い合わせ先】
スイスプライムブランズ
TEL:03-6226-4650
》編集部・船平の総評

スイスのルツェルンで1888年に創業した時計宝飾店を母体にして創設されたカール F.ブヘラ。時計ブランドとしても100年以上の歴史を誇る老舗であり、2008年に自社製ムーヴメントを発表して以降は、マニュファクチュールとして独自のコレクションを展開している。このマネロ ペリフェラルは代表作マネロの入門機に位置付けられるモデルで、特許を取得しているペリフェラル機構を備えた自社製ムーヴメントが特徴となっている。
一般的に自動巻きの時計は半月形のローターでゼンマイを巻き上げるが、このペリフェラルは外周に設置されたリング状のローターによってゼンマイを巻き上げる。そのため、通常の自動巻きよりも薄型の設計となり、さらにリング状のローターにより手巻きのように、全体の造形を視覚的に楽しむことができるのが利点である。
先端を鋭角に仕上げた針、くさび型インデックスを配した文字盤など外装の作りも評価すべき点は多いが、筆者が目を奪われたのがケースだ。シンプルなラウンドケースに思えるが、ミドルケースは複雑に曲線を取り入れた3次元的フォルムを備え、ヘアライン仕上げと鏡面仕上げを組み合わせたラグは鮮明なエッジを持つ。逆テーパーの造形に仕上げたベゼルを丸みのあるミドルケースと対比させるように採用し、余計な装飾のない簡潔な意匠にメリハリを利かせているのも魅力的だ。
ビジネスシーンで幅広く着けられるデザイン、所有欲をくすぐる独自性を備え、さらに実用性を確保した時計を探しているならば、ぜひ選択肢のひとつに加えたいモデルと言えるだろう。
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緩やかな曲線を描くミドルケースに対して、ベゼルは逆テーパーのフォルム。真逆とも言える造形の組み合わせ、個性を主張している。

自動巻きでありながら手巻きのように機械の造形を楽しめる。パワーリザーブは約55時間、クロノメーター認定の高精度を確保しており実用性も申し分ない。

ケースの直径は40mm、厚さは11.2mmで快適な装着感を実現。曲面を巧みに取り入れた立体的なケース、ベゼルが手首の角度によって複雑な表情を見せ、コンパクトながらしっかりと存在感を主張する。手首に添うように角度を付けたラグがホールド感を高めている。
》編集部・堀内の総評

「ペリフェラルローターを備えた高精度の自社製ムーヴメントに注目が集まりがちですが、このモデルはとにかく外装の作りが丁寧で美しい。先端まで鋭角に仕上げドーフィン針、エッジを立たせたくさび形インデックス、逆テーパーのベゼルとグラマラスなケースのコンビネーションなど、立体的な外装が古典的なデザインにモダンなニュアンスを加えています。(編集長:堀内)」