衛星データは新しい妖怪を生み出すかもしれない

――前編、後編と「宇宙から鬼の住めそうな場所を探す」企画でしたが、振り返ってみていかがでしたでしょうか。

市川:妖怪研究というと、本を調べたり地元の人に話を聞いたり、地に足をつけて探すフィールドワークが一般的でした。今回は今までにない観点、データを使って妖怪を調べていくことで意外な発見もあって面白かったですね。伝承と乖離しているわけでもなく。夜間の光量で人々の暮らしがなんとなく想像できたり、現地まで行かずとも山の標高から妖怪の気配を探ったり、そういう切り口もあるんだなと。

鬼が住んでいそうな場所を衛星から探してみたら、47カ所見つかった
(画像=『宙畑』より引用)

市川:そもそも妖怪研究にはデータベース的な側面もあるんです。例えば前回の取材で、川の中でも水難事故が起こりやすい“淵”はかっぱの伝承が多いと話しました。そんな風にそれぞれの地域の特徴が、人々の暮らしの中で「この世ならざるもの」として表現され、場所ごとに結び付けられているのが妖怪だったりします。

今の時代に「衛星データ」のような新たな見方ができるようになったことで、新たな妖怪が生まれてくる可能性は大いにあるなと。衛星で見つけた地域の特徴から「こういう妖怪がいるかもしれない」と考え、実地で「妖怪採集」をしてみると、新しい伝承が生まれ、また「この世ならざるもの」を見つけるヒントになるかもしれません。

――Tellusの担当者が偶然、ある土地を解析中に不思議な特徴を見つけて、そこから新しい妖怪の手がかりになったり。

市川:まさにそうですね、面白いことになる。

――市川先生としては、衛星から探してみたい妖怪はいますか?

市川:ダイダラボッチのような「巨人伝説」ですね。日本各地に残る伝承なのですが、空から見るからこそ新たな発見があるんじゃないか、と思いました。

鬼が住んでいそうな場所を衛星から探してみたら、47カ所見つかった
(画像= 宮崎駿監督の映画「もののけ姫」にもダイダラボッチとして登場する、巨人神話(スタジオジブリ公式サイト「作品静止画」より)。ダイダラボウ、デーラボッチャなど場所によってさまざまな名称がある 、『宙畑』より引用)

――巨人が、空からだと探しやすい?

市川:巨人伝説があるところは、古代人が貝を食べて殻を捨てていた「貝塚」とリンクしていたりするんです。貝塚って海から離れた場所に貝殻が集まっていますよね。昔の人々は「なぜここに貝が?」という疑問から、「巨人が海で採った貝を食べて、殻を捨てていたから」と巨人伝説を生み出したりしています。

そういう観点から、海と貝塚の距離感、巨人伝説の場所を衛星から照らし合わせていくのはすごく調べてみたいですね。Tellusにある様々なデータを用いて大きな発見があるかもしれません。

*  *

現代に、妖怪の住めそうな土地があった方が絶対に世界は面白いだろう、という発想から始まった本企画。

今回Tellusが見つけた場所に本当に鬼が住めるかどうかはともかく、「現代の妖怪スポットと同程度の夜間光=旧街道沿いが多い」という共通項が浮かび上がるなど、解析結果をフックに各地で地理的な特徴が見つかっていったのは刺激的でした。

また企画提案時は、衛星データで妖怪を探すというハイスペックの無駄遣いぶりに開発者さんが鬼と化するのではないかとヒヤヒヤしましたが……すんなりOKいただけてほっとしました。私も気づけばさまざまな衛星データをかけ合わせて鬼探しを楽しんでおり、「宇宙データの民主化」を実感することに。

こんなに宇宙からの情報が当たり前に使えるようになっているなんて。市川先生の言う通り、人々が衛星データからさまざまな妖怪を発見してしまう、場合によっては生み出してしまう未来もそう遠くはないでしょう。

みなさんも自分の住む町をいろんな衛星データから見つめたり、推しの妖怪が出る条件を設定して全国を解析してみたりと“宇宙からの妖怪探し”を楽しんでみてください。

和歌山県海南市さん、鬼の誘致計画お待ちしております。

取材・文:黒木貴啓(ノオト)
編集:ノオト、宙畑編集部
データ解析:今村尚人

提供元・宙畑

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