相手からマウントを取るための脳細胞があるようです。
米国ハーバード大学(Harvard University)で行われた研究によれば、社会的な序列の決定にかかわる脳細胞をマウスで発見した、とのこと。
この脳細胞の活性を薬を使って強制的に変更したところ、マウスの攻撃性や意欲に影響を与えずに、競争力のみを増減させることができました。
どうやら社会的序列という概念は、単純な攻撃性や意欲とは別の、独立したシステムによって構築されているようです。
研究内容の詳細は2022年3月16日に『Nature』に掲載されました。
目次
目に見えない序列の概念を可視化する
脳細胞の強制的な活性化と抑制で序列も変化する
目に見えない序列の概念を可視化する
社会的な動物であるオオカミやライオンでは、社会的な序列の概念が存在します。
序列は集団においてさまざまな影響を与えますが、中でも最も大きな影響がみられるのは「エサを食べる順番」です。
エサを得るために最も貢献した個体であっても、序列が低い場合は空腹を我慢せねばなりません。
序列は目にみえない概念でありながら、動物たちの行動を支配しているのです。
しかし脳科学の分野において「概念」はみえない存在ではありません。
特定の「概念」が存在するには、脳内において対応する神経メカニズムの構築が必要であるとわかってきたからです。
そこで今回、ハーバード大学の研究者たちは社会的な序列や競争力の根源となる神経メカニズムをマウスを用いて解明することにしました。
マウスも社会的な動物であることが知られており、エサに対するアクセス権は序列に大きく影響されます。
そこで研究者たちは、マウスのさまざまな脳部位(のべ数千カ所)に電極を刺し込み、他の複数のマウスとエサをめぐる競争を行っているときの電気活動を記録しました。
(※エサ場は頭を突っ込むような狭い小屋の中にあるため全員がアクセスできません、そのため食べる順番は必然的に競争になります)
結果、前帯状皮質と呼ばれる脳領域において、社会的序列の「概念」を形成する脳細胞の一団を発見しました。
これらの脳細胞の活性レベルと競争結果が強く関連しており、研究者たちは脳細胞の活性レベルを調べることで、マウスたちの競争結果を事前に予測できるようになりました。
この結果は、マウス社会の序列が肉体的な強さや攻撃性といった精神的な要因によって決まるのではなく、神経的な表現(神経細胞の活性度)に支配されている可能性を示します。
そうなってくると気になるのが、この脳細胞群(序列細胞)の活性度を操作した場合、何が起こるかです。
脳細胞の強制的な活性化と抑制で序列も変化する
序列細胞の活性度を強制的に変化させた場合何が起こるのか?
答えを得るために研究者たちはマウスの遺伝子を改造し、特定の薬に対して特定の脳領域だけを興奮または抑制できるようにしました。
すると1対1の状況においては、序列細胞のある領域(前帯状皮質)の活性化が競争力を増加させ、逆に抑制によって競争力が減少することが判明します。
一方、複数のマウスが同時に競争を行う場合には、異なる結果をみせました。
複数のマウスがいる状況では、前帯状皮質の活性化は弱いマウス(集団下位)を強くしました。
また前帯状皮質の活性度を抑制した場合、強いマウス(集団上位)には弱くする効果を発揮しました。
一方、活性度の操作では、弱者をさらに弱くしたり強者をさらに強くすることはできませんでした。
この結果は、複数個体がいる状況では、序列細胞の活性度はマウスの属する条件(序列)に応じて異なる効果を発揮することを示します。