匿名性は悪影響を及ぼす可能性がある

”ストーカー心理を逆に利用” 警察官の個人情報を知らせるだけで犯罪率が減少した!
(画像=原始時代にはそもそも匿名が存在しなかった / Credit:Canva . ナゾロジー編集部、『ナゾロジー』より 引用)

なぜ人類は他人を知ると自分が知られていると感じるのか?

研究者は人類がそのように進化した理由について、匿名性の持つ否定的な影響をあげています。

これまでの研究で匿名性が非常に有害な社会行動につながることが示されています。

人は自分が特定されていないと感じると攻撃的になり、しばしば社会に対して破壊的な行動をとることがあります。

しかし攻撃対象となる「他人」を知ると同時に、自分の匿名感が薄れる場合、そのような破壊行動を未然に防ぐことが可能になります。

つまり「他人を知ると自分も知られたように感じる(匿名性が低下すると感じる)」のは、人類社会を保護するプロテクターのような機能があったと考えられます。

また匿名性の低下によって得られる誠実さは、共同体の維持や発展において重要な要素になりえます。

そのため人類は進化のある段階で、自らの匿名性を感じにくくなるように変化した可能性があります。

一方で、人類の社会が複雑化して都市が作られるようになると、有名人などに対しては自分の匿名性を維持したまま一方的に情報を仕入れることが可能になります。

しかし本能に根付いた心理は簡単に消し去れるものではなく、結果として「錯覚」に陥ってしまうと考えられます。

好きな人には自分を知ってもらうことからはじめたほうが科学的

”ストーカー心理を逆に利用” 警察官の個人情報を知らせるだけで犯罪率が減少した!
(画像=好きな人には自分を知ってもらうことからはじめたほうが科学的 / Credit:Canva . ナゾロジー編集部、『ナゾロジー』より 引用)

今回の研究によって、他人の情報を知ると他人も自分を知っていると錯覚してしまう「情報対象性の勘違い」が再確認され、この現象が現実世界での犯罪抑止に有用であることが示されました。

警察官の個人情報が書かれたカードを受け取った住民たちは警察官の情報を知ることになり、結果として自分のことも警察官に知られたと錯覚するようになります。

冷静になって考えればそのようなことが起こるはずもありませんが、本能に染みついた心理を否定することは困難です。

そのためカードが配られた地域の住民たちは警察官に対して「正直」や「不正行為の抑制」を無意識レベルで行うようになり、結果的に犯罪率が抑制されたと考えられます。

また研究者たちはこの効果が、個人情報に触れることで感じる親近感にもかかわっていると予測しています。

人間はまったく接触のない相手であってもその情報を仕入れることで親近感を持つことが知られているからです。

そして親近感を維持するために無意識的にも警察官が好まない行い(犯罪)を避けるようになっていたと考えられます。

どうやら人類にとって他人を知ることは単に情報を脳に入れてるだけにとどまらず、さまざまな本能や心理、感情に影響を与えるもののようです。

新しい職場に赴任した際には、自分の情報を積極的に開示することで錯覚を誘発できれば、人間関係の構築に役立つかもしれません。

あるいは、面識がない人に一目ぼれをしているならば、いきなり告白する前に、自分の情報を伝えたほうがいいでしょう。

そうすれば、相手に本能的な「情報対象性の勘違い」を誘発させて、関係性の向上に役立つかもしれません。


参考文献
Letters and cards telling people about local police reduce crime

元論文
Knowledge about others reduces one’s own sense of anonymity


提供元・ナゾロジー

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