言語は、単体では無意味な文字を組み合わせることで、意味のある単語を作ります。
この関係性を理解することが言語を理解するための最初の一歩です。
新潟⼤学の研究グループが行った新しい研究は、この言語理解につながる能力がニホンザルにも備わっていることを初めて実証しました。
これは、文字言語を扱う進化の起源が人間とニホンザルの共通の祖先にあったことを示唆しています。
研究の詳細は、2022年3月4日付けで科学雑誌『Scientific Reports』に掲載されています。
目次
「意味のない文字」と「意味を持つ単語」
簡単な図形を文字に見立てたテスト
ニホンザルは文字で単語が綴れた
「意味のない文字」と「意味を持つ単語」
ヒトの扱う言語にはさまざまな種類がありますが、ある共通した特徴があります。
それは、無意味な文字(記号)の組み合わせから意味のある単語を作っているということです。
例えば、「ネコ」という単語は「ネ」と「コ」という2つの文字から構成されます。
「ネコ」には当然、生物の種類を示す意味がありますが、文字単品の「ネ」も「コ」も特定の意味は持ちません。
英語においても同様で、「CAT」はネコのことですが、「C」「A」「T」というそれぞれのアルファベット自体が特定の意味を示しているわけではありません。
人間の扱う言語(文章)は、このように、意味を持った単語と、意味を持たない文字という二重の分節から構成されています。
そのため、人間の言語が持つこの特徴のことを「二重分節構造」と呼びます。
この構造によって、人間は有限の文字(ひらがななら50個、アルファベットなら26個)から、数万を超える無数の言葉を生み出しているのです。
つまり、人間が複雑な言語を操れるのは、こうした文字と単語の関係性を理解する能力に秘密があると考えられます。
そして、この能力はヒト以外の霊長類では、進化的にもっともヒトに近いグループであるチンパンジーだけから確認されていました。
しかし、言語獲得につながるこの二重分節構造を解析する能力が、実際には霊長類のどの範囲にまで存在しているかは明らかになっていません。
そこで今回、新潟大学の新たな研究は、チンパンジーよりはヒトから遠いグループであるマカクザル(ニホンザル)に、文字から単語を組み立てる能力があるかどうかということを検証したのです。
簡単な図形を文字に見立てたテスト
研究では、実際に人間が扱う文字ではなく、簡単な図形を文字に見立てた「図形文字モデル」を使用しました。
当然「文字」となる図形は、単独では意味を持ちません。
単純な図形2つを組み合わせたときだけ、特定の対象を示す単語になります。
研究ではサルに、タッチパネルの画面を渡し、次の3つのステップで実験を行いました。
まずサルには、この架空言語の単語とそれが指し示す対象の関係性を学習させます。(ステップ1)
次に、その単語が2つの文字(図形)から構成されていることを教えます。(ステップ2)
ここまでが擬似言語の学習過程です。
最後に、ここまでの学習内容を元にして、サルに対象だけを見て、図形を選択させ対象を示す単語を構成できるかテストしました。(テスト)
ここでサルがやっていることは、私たちがキーボードを使って文章を入力する作業のアナロジーといえます。
そしてこのテストで、サルは初めて行う操作に、偶然では起こり得ない確率で正解することができたのです。