数学者アンドリュー・ワイルズは日本の2人の数学者によって提唱された「谷山-志村予想」を証明することで、「フェルマーの最終定理」を解決させました。

その「谷山-志村予想」が示す内容とは「すべての楕円曲線はモジュラーである」というものです。

それは一体何を意味するのでしょうか?

まずはこの一文に含まれる2つの用語、「楕円曲線」と「モジュラー」がなんであるのか解説していきましょう。

前編の記事はこちら↓

目次
フェルマーの最終定理 解決の重要鍵1 「楕円曲線」
フェルマーの最終定理 解決の重要鍵2 「モジュラー形式」
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フェルマーは本当に証明を見つけていたのか?

フェルマーの最終定理 解決の重要鍵1 「楕円曲線」

楕円曲線とは、ある方程式の性質を調べる数論の問題です。

数論とはただひたすらに数の性質を調べるだけの、極めてストイックな数学の分野です。ある意味もっとも純粋な数学かもしれませんが、数学者以外から見たらなんの意味があるのかさっぱり意味不明な研究分野でしょう。

y^{2}=x^{3}+ax+b\ .

これが楕円曲線の基本となる方程式です。別にこの式自体は理解しなくても構いません。

楕円曲線論はこの方程式のaやbにいろんな数字を当てはめて、そのとき方程式から整数解が得られるか、解はいくつ存在するか、という性質を調べます。

紛らわしいですが、楕円も曲線もあまり関係ありません。もともとは、この方程式が楕円や惑星軌道の長さを計算するために使われていたことが名前の由来ですが、現在はそういう枠は超えて、ただこの方程式の性質を調べる学問になっています。

整数解があるかどうか、という聞き方でピンと来た人もいるでしょうが、フェルマーの最終定理も「xn + yn = zn」という方程式の性質を調べる数論の問題です。

数論の問題は、その研究の第一人者だった紀元前の数学者ディオファントスにちなんでディオファントス問題と呼ばれることがあります。実はフェルマーはこのディオファントスの大ファンで、楕円曲線についても研究していました。

アンドリュー・ワイルズも大学院生のとき、この楕円曲線を研究テーマに選んでいます。このことは後に重要な意味を持ってきます。

楕円曲線は、無限に存在する整数の組み合わせで、方程式の性質を調べていきます。そのため、ある程度使う数字を限定した時計演算という方法を使って調べるのですが、そのとき方程式の性質を表す要素としてE系列という数列の答えを得ることができます。

E1=1 ,E2=4 , E3=4 , …

例えばこんな感じです。

これはいわば数学的DNAと呼べるもので、ある楕円曲線のもつエッセンスがこの数列の中に込められているのです。

フェルマーの最終定理 解決の重要鍵2 「モジュラー形式」

モジュラー形式というのは4次元空間で極めて高い対称性を示すパターンに関する問題です。

数学の対称性は、私たちが一般的に使うのとは少し違う意味を持っています。数学のいう対称性とは、ある変換をしても変化が生じないことを意味します。

例えば監視カメラで、テーブルに置かれた食器を真上から監視しているとしましょう。

「フェルマーの最終定理」解決の裏に潜む数学ドラマ【後編】
(画像=円は回転に対して高い対称性を示す。 / Credit:canva、『ナゾロジー』より 引用)

この中央の丸いお皿を、あなたが目を離した隙に誰かが回転させた場合、あなたはその事実に気づくことはできるでしょうか?

おそらく無理でしょう。なぜなら円は回転させても何も変化が起きないからです。けれどその横にあるフォークやナイフなら反対向きにされればすぐに気が付きます。

この場合数学では、円は回転という変換に対して極めて高い対称性を持つ、と表現されるのです。もしこれが正方形のお皿だったら、90度の回転に対しては対称性を持つことになります。

これが数学の対称性の意味です。そのため、回したりずらしたりしても形が変化しないような図形やパターンを作るというのが高い対称性の研究だと思えばいいでしょう。

さてそこでモジュラー形式ですが、モジュラーは上のお皿のようなX軸Y軸だけの二次平面ではなく、それぞれの軸が複素数(実数の軸と虚数の軸)になった4次元の軸上で議論されます。これを双極空間といいます。

双極空間は4次元なので人間の頭でイメージすることができません。しかし、天才画家のエッシャーはこの双極空間を二次元に埋め込んだ絵画をモジュラーの理論を利用して描いています。

「何言ってんのかわかんない」と思った人が多いでしょうが、モジュラーとは下の絵のような複雑な対称パターンを描く研究だと思ってもらえばいいでしょう。

「フェルマーの最終定理」解決の裏に潜む数学ドラマ【後編】
(画像=エッシャーの絵画「サークルリミットⅣ」。 / Credit:mcescher.com、『ナゾロジー』より 引用)

このモジュラー形式にも、その構成要素を表すM系列という数列があります。

M1=1 , M2=2 , M3=3 , …

という具合に、高い対称性のパターンを生み出すためのモジュラーのDNAとなる数列があるのです。構成要素をどのような値にするかによってさまざまなモジュラーが生まれます。

この構成要素に適当に数値を選んだ場合、たちまち対称性は失われそれはモジュラーではなくなってしまいます。