私たち人間には触覚による空間認識能力が備わっています。

突然暗闇になったとしても、手を使って壁や物を触り、「空間をイメージ」できるのです。

では昆虫も同様の能力をもっているのでしょうか?

北海道大学・大学院理学研究院に所属する小川 宏人(おがわ ひろと)氏ら研究チームは、コオロギもショッカクを使って空間認識していると発表しました。

コオロギの進路は、触覚入力で反射的に決まるのではなく、空間を認識してから障害物を避けるように決定されていたのです。

研究の詳細は、2022年2月25日付の科学誌『Journal of Experimental Biology』に掲載されました。

目次
昆虫は空間をイメージできているのか?

昆虫は空間をイメージできているのか?

昆虫は触角を使って「空間をイメージ」していたと判明
(画像=コオロギはショッカクを使って空間を認識しているのか? / Credit:cory(Wikipedia)_コオロギ、『ナゾロジー』より 引用)

夜行性もしくは暗所で生活する動物は、視覚よりも触覚(触刺激による感覚)に頼って行動しています。

例えば昆虫は頭部に長いアンテナ(触角:「触覚」と紛らわしいため以後「ショッカク」)が生えており、このショッカクを動かすことで物体の存在を検知できます。

しかし、触覚で「物体を検知できる」だけでは、「周囲を認識できている」とは言えません。

人間の例で考えてみましょう。

私たちは、非常に熱い物体を触ると反射的に手を引っ込めます。

これは「反射」と呼ばれる機能であり、強い刺激を受けたときに瞬時に生じる体の反応です。

また、後ろから急に自分の体を触られると、どう反応するでしょうか。きっと逃げる方向に、ビクッと体が素早く動くはずです。

これらは確かに物体を検知している証拠ですが、頭の中で「熱い物体の形」や「触ってきた手の大きさ」をイメージしているわけではありません。

昆虫は触角を使って「空間をイメージ」していたと判明
(画像=触って空間を認識する能力 / Credit:Depositphotos、『ナゾロジー』より 引用)

対称的に、私たちが暗闇で手を伸ばして壁や物を触っているときには、頭の中で周囲の空間をイメージしています。

単純に触れた感覚だけで終わるのではなく、その結果から空間の構造を認識して、正しいルートを導き出し、障害物を避けて移動できるのです。

お寺にある「胎内めぐり」などを経験したことがある人は、こういう感覚がよくわかるのではないでしょうか。

つまり触覚に基づいた行動には、「反射」と、「空間認識」のイメージの2つがあるのです。

これまでの研究では、昆虫がショッカクを使って物体を検出し、逃避行動に結びつけることは分かっていましたが、これが単なる反射なのか、それとも空間を把握した結果なのかは判別できていませんでした。

そこで研究チームは、コオロギで実験を行い、昆虫がもつ空間認識能力の有無を確かめることにしました。