「手放す」という新たな選択肢を顧客に提供

製造拠点持たない小売はサステナビリティにどう取り組むか? 三越伊勢丹の答え、think goodとは
(画像=「リ・スタイル」が展開する「KUROZOME REWEAR」、『DCSオンライン』より引用)

この「think good」のメッセージを軸に、同社では独自のサステナビリティのプロモーションを展開。2021年4月に開催した第一弾キャンペーンでは、日本最大規模のサステナビリティの祭典「アースデイ東京」とタッグを組み、同年4月22日のアースデイ当日に、三越銀座店を会場に気候サミットをライブ配信。この日、三越銀座店には国内の環境NGOやZ世代の環境アクティビストが集まり、気候対策に対する声を全世界に発信した。

それだけでなく、「think good」を合言葉に、売場の担当者やバイヤーなどが、次々にユニークなサステナビリティの取り組みを展開していった。その一例が、着られなくなった衣服、バッグ、宝飾品などの買取・引取サービスの「i’m green(アイム グリーン)」である。日本橋三越本店で実施したところ好評となり、2021年10月には伊勢丹新宿店にもオープンした。商品を買うだけではなく「捨てない」という新たな手放し方の選択肢を顧客に提供している。

伊勢丹新宿店の自主編集ショップ「リ・スタイル」が展開する「KUROZOME REWEAR」もユニークな取り組みの一つだ。愛着のある衣料品を、京都の老舗黒染め屋「京都紋付」が黒色に染め直すアップサイクルプロジェクトで、“ファッションの殿堂”伊勢丹新宿店に新風を吹き込んでいる。「それぞれの部署や社員が『think good』について考え、取り組んだことが、結果としてお客さまや取引先にとっても『think good』なものになる。この合言葉が、サステナビリティの基本方針を現場の営業活動へとつなぐ役割を果たしてくれた」(鳥谷氏)。

さらに同社では、「think good」の社内認定制度を創設。それぞれの売り場や部署が立案し、認定されたサステナビリティの取り組みは480件を超える(2021年10月現在)。

一つの正解を押しつけず、社員の「think good」を尊重

三越伊勢丹グループ内にサステナビリティの意識を根づかせ、ボトムアップでの施策を生みだすメッセージとして浸透した「think good」。そのメッセージを、同グループではさらに顧客、そしてテナントや取引先など多くのステークホルダーへと広げようとしている。

顧客に対しては、年1回のサステナビリティアンケートを実施し声を拾い上げるとともに、伊勢丹新宿店の「イセタニスタ」と呼ばれる約90名の公式サポーターへ個別にヒアリングや、共創企画も計画している。 

「お客さまからは『好きなお店がサステナビリティの取り組みを頑張っているのはうれしい』などといった好意的なお声を頂いている。それとともに、例えば『アイム グリーンでリサイクルできる品物や、手放し方のバリエーションを増やしてほしい』といったご意見も頂いている」(塚田氏)。

また、メインの取引先であるアパレルブランドも、近年ではサステナビリティへの配慮に取り組む企業が増えており、おおむね協調関係が築けているようだ。「当社としても、サステナビリティの取り組みはまだ緒に就いたばかり。取引先とも、どうしたらよりよい提案がお客さまにできるか、伴走しながら考えたいと思っている」(鳥谷氏)。

一つの正解や価値観を押しつけず、社員一人ひとりの「think good」を尊重し、“多様=百貨”なアイデアを生みだす三越伊勢丹HDのアプローチ。サステナビリティの方針を打ち出しづらいとされる小売業界に、大きなヒントを与えてくれるのではないだろうか。

提供元・DCSオンライン

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