企業にとって、もはやまったなしの経営課題となったサステナビリティ。しかし、製造拠点を持たない小売業においては、自力で取り組める領域が少ないのが実情だ。独自のサステナビリティの方向性を打ち出せず悩んでいる経営層や担当者も多いのではないだろうか。

その中で、売場担当者やバイヤーなど社員自らがサステナビリティ施策を考え実践しているのが、百貨店最大手の三越伊勢丹ホールディングス(以下三越伊勢丹HD、東京都/代表執行役社長CEO 細谷敏幸)だ。ボトムアップでユニークな施策を次々に生みだすカギは、日本の百貨店の歴史を築き上げてきた同社のルーツと、ある“キーワード”にあった。

歴史の中にあった「三越伊勢丹らしいサステナビリティ」

製造拠点持たない小売はサステナビリティにどう取り組むか? 三越伊勢丹の答え、think goodとは
(画像=グループ総務部 プランニングスタッフの塚田理恵子氏、『DCSオンライン』より引用)

三越伊勢丹HDでは、もともとCSR(企業の社会的責任)の一環として取り組んできた一連の施策と体制を2018年に大幅に見直し、サステナビリティ基本方針を設定。さらに、企業として取り組むべき社会課題を洗い出し、サステナビリティ重点施策(マテリアリティ)として再編。その重点施策を、グループの経営方針の一つへと発展させたものとして、2021年に「サステナビリティレポート」を打ち出した。

同社のサステナビリティ活動を推進する、グループ総務部 プランニングスタッフの塚田理恵子氏は「三越伊勢丹を象徴するような取り組みを打ち出せない難しさがあった。百貨店という総合小売業の特性上、多様なお客さまがいらっしゃり、取引先の業種も多岐にわたるため、どうしても総花的になってしまう。メーカーのように自社で完結できる領域も少なく、方向性を絞りきれずにいた」(同)。

社内で議論を重ねる中で、自社のルーツにヒントはあった。三越のルーツである越後屋の創業者・三井高利は、それまで裕福な商人や大名などを相手にしていた呉服店の販売から「店前現銀掛値なし(たなさきげんきんかけねなし)」の店頭での正札販売に転換し、「誰もが同じ価格で商品を買える店」を世界で初めて創った。また、伊勢丹の歴史において、戦後は他百貨店と共同で、女性既製服サイズ体系統一を図るなど、顧客のニーズに応え、イノベーションを興してきた歴史がある。「百貨店という業態を日本に根づかせ、ファッションを通じて多様性を尊重する社会を実現してきたその歩みは、実はサステナビリティと親和性が高いことに気づいた」(同)。

特定の価値観を掲げるのではなく、多様な顧客の声に耳を傾け、それに応えることが三越伊勢丹らしいサステナビリティだ――そこに気づいてから、経営層を中心に社内でサステナビリティの議論が加速。「サステナビリティレポート」へと結実した。

三越伊勢丹のサステナビリティを表現した合言葉「think good」

製造拠点持たない小売はサステナビリティにどう取り組むか? 三越伊勢丹の答え、think goodとは
(画像=MD統括部ストアクリエイショングループの鳥谷悠見氏、『DCSオンライン』より引用)

三越伊勢丹の歴史の中に、サステナビリティのヒントはある。その気づきを社内に与えたのが、MD統括部ストアクリエイショングループの鳥谷悠見氏だ。それは、2020年の1回目の緊急事態宣言期間中のことだった。「全館が一斉に休業を余儀なくされる中、当社のブランディングについて考えようと、三越と伊勢丹に関する文献を読んだ。そこで、数百年にわたる先人の歩みには、今日のサステナビリティに通じる普遍的なメッセージがあると感じた」(鳥谷氏)。

鳥谷氏が中心となりそのグループの歴史を社内にシェアしたところ、10日間で160人もの社員からメッセージが寄せられるなど大きな反響があったという。歴史が教えてくれたメッセージをヒントに、グループ全社でサステナビリティに取り組む上での合言葉が生まれた。それが「think good」である。

「一つの価値観を大切にするというよりは、お客さまや取引先も含めて、多様な価値観を大切にする。そのために、多くの選択肢を用意する。それこそが、三越伊勢丹が提案するサステナビリティらしさだと考えた」(同)。

「think good」のロゴマークには吹き出しのアイコンをデザイン。「一方的に正解を押しつけるのではなく、一緒に問いを立て、未来を創造していきたい」(鳥谷氏)という思いを込めた。