「週末泊まろうと思ってたあの宿。イベントと重なって、料金が5割増しになっちゃった…」
こういった経験をお持ちの方は多いのではないでしょうか。
連休やイベントなど繁忙期は高く。シーズンオフなど閑散期は安く。「需給状況」に応じて価格を変える手法、ダイナミックプライシングです。

目的は、繁閑差を小さくし、従業員負担を減らすこと。利用客数を均一化し、利益を最大化すること。最近では、ライブやスポーツ観戦にも導入が広がっています。中には、チケット収入を1.5倍に伸ばしたイベントも。コロナの影響で、ディズニーランドが導入に踏み切ったことは記憶に新しいでしょう。
では、もし「需給状況」ではなく、「人によって」価格が異なるとしたら?
「同じ弁当を買ったのに、アイツより、オレの方が値段が高い」
そんなことが起こるかもしれません。
今年3月、スーパーマーケット大手チェーン「いなげや」もダイナミックプライシングを導入しました(※1)。
ダイナミックプライシングを活用することで、これまでタブーとされてきた「人によって価格が異なる販売方法」を考えています(いなげや販売促進部長 堀合洋介氏)
コロナ禍で変わった いなげやのデジタルマーケティング _小売・物流業界 ニュースサイト【ダイヤモンド・チェーンストアオンライン】
「いなげや」が導入したのは、「需給状況」ではなく「人」によって価格を変えるダイナミックプライシングです。これは従来とは、大きく異なるものです。
今回は、浸透するダイナミックプライシングについて考察したいと思います。
ダイナミックプライシングとは
ダイナミックプライシングは、日本語では「変動価格制」と訳されます。特に目新しいものではありません。宿泊施設やイベントはもちろん、スーパーの消費期限間近の食品値引きも、その1種と言えるでしょう。
「いなげや」が導入した理由は、ポイントカードなどFSP(利用頻度を高める施策 ※2)の効果が小さくなったことです。
ポイントカードの目的は顧客の「囲い込み」です。ポイントのお得感により来店頻度を高め、囲い込みを図ります。ところが、ポイント還元による値引きが当たり前となり、囲い込みにつながらない。その打開策として選ばれたのが、「人により価格」を変えるダイナミックプライシングでした。
同一価格で販売する「平等」がこれまで小売業の常識と考えられていましたが、本当にそれが平等なのでしょうか。いなげやに毎日買物に来てくれるお客さまと年に1回だけくるお客さまがいれば、毎日来店いただいている方に多く還元する方が「平等」ではないかという考え方もできます。ダイナミックプライシングを導入することで、普段からいなげやで買物していただいているお客さまにより多く還元できるようにしたいと考えています(いなげや販売促進部長 堀合洋介氏)
コロナ禍で変わった いなげやのデジタルマーケティング _小売・物流業界 ニュースサイト【ダイヤモンド・チェーンストアオンライン】
来店頻度が高い顧客は、他の顧客より安く商品が購入できる。結果、さらに来店頻度が増える。ますます、お得になる。この循環は「囲い込み」につながることが期待できます。
では、なぜ多くの企業が、ダイナミックプライシングを導入せず、同一価格を維持してきたのか?
同一価格のメリット
「効率」が良く、「安心感・公平感」があるためです。
同一価格が導入されたのは350年前のこと。それ以前は、都度「交渉」し、価格を変動させて決める、まさにダイナミックプライシングが行われていました。
そんな時代に、同一価格(正札販売)を導入したのは、呉服を販売する越後屋(現在の三越)です。
同一価格により、時間のかかる「価格交渉」が無くなったため、企業には「高い効率性」を。一定の価格で購入できるため、顧客には「安心感・公平感」をもたらしました。
ところが、現在は様相が変わりつつあります。
顧客が何を欲しているか。それに、どの程度お金を払うか。ビッグデータ・AIなどテクノロジーによって、煩雑な計算が一瞬で行えるため、「価格交渉」しなくとも価格変動が可能になりました。
「アイツだったら、このくらいの金出すよ」
と、顧客から取れる最高価格を一瞬で算出・設定し、利益を最大化できる。非常に「効率的」です。企業がダイナミックプライシングに回帰するのは当然と言えます。しかし、「安心感・公平感」の面ではどうでしょうか。