ヤマダ、第三の思惑と内包するリスクとは

呉越同舟かそれとも… ヤマダが”仮想敵”アマゾンと組んで「Fire TV搭載テレビ」を売る深謀とは
(画像=ヤマダ電機は新業態「家電住まいる館」を急増させ、「住」分野を強化している、『DCSオンライン』より引用)

第三に、家電のネットワーク化に対する足掛かり作り。ヤマダHDにとって「暮らしまるごと」戦略の基盤は家電にあると思います。ここで家電がスマート化し、ネットワーク化していくとするとどうなるでしょうか。

そのひとつのシナリオとして、スマホ/スマートスピーカー/スマートリモコンを起点としてさまざまな白物・黒物家電を操ることができる世界が考えられます。冷蔵庫の中身を踏まえたレシピ提案とオート・セミオートの補充発注、外出・帰宅・起床・就寝にあわせた簡便な室内環境の管理、あるいは価格動向をリアルタイムで踏まえた蓄電などを、スマートスピーカーに声をかけるだけで簡単に実現する、そのような世界がそろそろ実現しそうに思います。

こうした世界の実現性は、技術の問題というよりもプライバシーに対する消費者の考え方次第だと言えます。そしてプライバシーをある程度外部に晒すことになっても対価となる利便性を享受したいのであれば、プライバシーを託す先は実績のある企業になることでしょう。そうなるとアップル、グーグル、そしてアマゾン(あるいはメタ・プラットフォーム<旧フェイスブック>)、日本でいえば通信キャリアなどに一日の長があると思われます。

仮にアマゾンがアマゾンエコーとECを連動させることができる家電を本格的に投入するとすると、その主導権はアマゾンが握ることになり、対応する家電の販売チャネルもアマゾン経由、そしてその価格も低廉なリース形式(いわゆるサブスクリプション)になろうと思います。

この場合、「暮らしまるごと」家電の主導権はアマゾンに握られることになるのではないでしょうか。ゆえに、ヤマダHDとしては、いずれ訪れる家電ネットワーク化に対する対策として、ポテンシャルの高いアマゾンと接近し、ヤマダHDの販売力と総合力を誇示しておくことが大切だと判断していると推察します。アマゾンが家電量販店の他社と協業を進めることを牽制する意味もあるでしょう。

アマゾンの思惑と協業深化のゆくえ

呉越同舟かそれとも… ヤマダが”仮想敵”アマゾンと組んで「Fire TV搭載テレビ」を売る深謀とは
(画像=2022年 ロイター/Pascal Rossignol、『DCSオンライン』より引用)

では、アマゾン側の思惑を考えてみましょう。

アマゾンは、ECの浸透を基本に考えており、アマゾンエコーがそのフックの役割を担うことになると思われます。しかしアマゾンにはリアル店舗がなく、他の主要なECサイトである楽天・ヤフーショッピングのような通信事業者との接点が薄いのが現状です。また、グローバルプラットフォーマーであるアップルは自社店舗網に加えて既に通信事業者・量販店との接点が強く、グーグルも通信事業者・量販店との接点を築いています。

したがって、アマゾンにとってヤマダHDの販売網は、設置・施工などのアフターサービス力を含め、大変魅力的な援軍に映っていると思います。

では、今後協業の深化はありうるのでしょうか。筆者は、今回の協業の成果次第ではその先は十分あると考えます。

まずアマゾン側から見れば、全国にわたるヤマダHD店舗をアマゾンのプライベートブランド(PB)のショールームおよび在庫スペースとして活用する可能を無視できません。

ヤマダHD側から見ると、競合が扱わない商品群が増えることによるメリットは大きいと思います。さらに資本提携に発展すれば(ディスシナジーの精査は必要ですが)事業上のメリットに加え、経営層の充実という積年の課題に対する手当てにつながるかもしれません。

本件は、ヤマダHD側が成果を出すほど、アマゾンに塩を送ることになり、最後にはアマゾンエコーに母家をとられる危険を内包しています。ヤマダHDの株価が高くない(2022年3月2日終値ベースで1株当たり390円、2022年3月期コンセンサスベースPER6倍、PBR0.5倍)ため、アマゾン側には現状の提携から買収に至るまで合理的な選択肢が幅広くありますので、両社が今後膝を突き合わせてさまざまなシミュレーションを進めることになっても違和感はない、というのが筆者の見解です。

プロフィール
椎名則夫(しいな・のりお)
都市銀行で証券運用・融資に従事したのち、米系資産運用会社の調査部で日本企業の投資調査を行う(担当業界は中小型株全般、ヘルスケア、保険、通信、インターネットなど)。
米系証券会社のリスク管理部門(株式・クレジット等)を経て、独立系投資調査会社に所属し小売セクターを中心にアナリスト業務に携わっていた。シカゴ大学MBA、CFA日本証券アナリスト協会検定会員。マサチューセッツ州立大学MBA講師

提供元・DCSオンライン

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