ドイツのショルツ首相は、ロシアからのパイプラインで供給されている天然ガスへの依存度を下げるため、エネルギー政策を大きく転換する方針を示した。ハーベック経済・気候保護相(緑の党)は、原発の運転期限延長を検討していると明らかにし、石炭火力の運転延長についても「検討においてタブーはない」と強調した。

ロシアからのパイプラインが途絶するとドイツ経済は壊滅する

これは当然である。図のようにドイツの1次エネルギー消費の約30%は天然ガスであり、そのほとんどがロシアからパイプラインで輸入するガスである。これが途絶えると、ドイツ経済は成り立たない。

LNGに依存したエネルギー政策を転換するとき
(画像=ドイツの1次エネルギー消費(2021年)Clean Energy Wire、『アゴラ 言論プラットフォーム』より引用)

このような不安定なエネルギー構成になった原因は、ドイツが「2050年カーボンニュートラル」という目標を打ち出して石炭火力をゼロにする一方、2022年末までに最大の非化石燃料である原発をゼロにする支離滅裂な政策を決めたことだ。

ロシアがウクライナ国境で軍を増強ししていた昨年末に、ドイツの3基の原子炉が停止され、今年中にさらに3基停止されて、ドイツは原発ゼロになる予定である。

LNGに依存したエネルギー政策を転換するとき
(画像=毎日新聞より、『アゴラ 言論プラットフォーム』より引用)

その結果、石炭火力の廃止による化石燃料の超過需要が天然ガスに集中してガスへの依存度が上がり、ガスのスポット価格は10倍以上に跳ね上がった。ロシアがパイプラインを遮断したら、産業用エネルギーの半分近くが失われ、ドイツ経済は崩壊する。

ドイツより高い日本のガス依存度

他方、日本の化石燃料比率(熱量ベース)は88.6%とドイツより高く、図のようにそのうち22.4%が液化天然ガス(LNG)である。LNGの単価はパイプラインの5倍以上なので、価格ベースのガス依存度はドイツより高い。

LNGに依存したエネルギー政策を転換するとき
(画像=日本の1次エネルギー構成比(エネルギー白書)、『アゴラ 言論プラットフォーム』より引用)

このうちロシアからの輸入は8%程度だが、それが経済制裁でゼロになり、LNG価格が上がると、さらにエネルギー供給は不安定になる。

このようにバランスの悪いエネルギー構成になった原因は明白である。2010年まではLNGとほぼ同じ約12%のエネルギーを供給していた原子力が、2011年の原発事故で激減したからだ。今はようやく0.5%になったが、これでエネルギー基本計画のように2030年に電力の20%を供給することは不可能である。

再エネは(水力を除くと)8.8%で、土地集約的な太陽光や風力はもう増やす余地がない。混同する人が多いが、電力は1次エネルギーの26%しか供給できない。発電しかできない再エネは、化石燃料の代わりにはならないのだ。