トヨタが開発した「レーザースクリューウェルディング」は、クルマの操縦安定性や乗り心地を左右するボディの接合剛性を向上させる技術です。従来の溶接方法である「スポット溶接」や「レーザー溶接」に対して、どのような違いがあるのでしょうか。

文・吉川賢一

Chapter
これまでの溶接技術とその課題
レーザースクリューウェルディングとは
クルマにとって、どんなメリットがある?

これまでの溶接技術とその課題

剛性60%アップ!? ボディの接合剛性を向上させるトヨタの技術「レーザースクリューウェルディング」とは?
(画像=『CarMe』より引用)

クルマのボディ溶接の方法として広く採用されているのが、「スポット溶接」です。2枚の鋼板を電極で挟み、通電した際の電気抵抗による発熱で鋼板を溶かし、点接合をします。短い時間で接合ができるのですが、近接するスポット間の電流リークを避けるために、短いピッチで溶接ができず、高い接合剛性を実現することは困難です。

一方「レーザー溶接」は、レーザーを集光した熱で鋼板を溶かして接合します。点ではなく、線で溶接ができるので、スポット溶接に対して接合剛性を上げることができます。

ただし、2枚の鋼板間に微妙な隙間があると溶接がうまく行きません。また隙間が大きい場合は、溶け落ちや穴空きといった溶接不良が発生するため、溶接条件によっては品質が安定せず、適用できる範囲が限定されるという課題があります。

そのため「レーザー溶接」は、「スポット溶接」した点の間を補強するカタチで使われるのが、一般的です。

レーザースクリューウェルディングとは

2012年にトヨタが公開したレーザースクリューウェルディング(LSW)とは、ロボットの先端に装着したレーザー発振器からレーザを照射して、重ねた鋼板を溶接する手法です。「スポット溶接」の補強的な役目ではなく、代替となる溶接技術です。従来の「レーザー溶接」に対して優れている点は、課題であった板隙による品質低下を、レーザー出力や走査パターンの適正化によって、解消していることです。

具体的には、次のような成果があります。

  • スポット間隔を狭くでき、密度の高い溶接ができる(接合剛性の向上)
  • スポット溶接の約3倍の速さで溶接が可能(生産効率の向上)
  • 片側からの溶接アクセスができるので、スポット溶接では困難な、狭い箇所や構造も溶接可能

ちなみに、4代目の現行プリウスに採用した効果は、打点ポイント数を旧型車に比べて30%増やすことができ、車両のねじり剛性は60%向上しています。