月面開発は手に届く時代へ
―アルテミス計画が進められていくうえで、民間企業にも参入のチャンスはあるのでしょうか。
月面開発の初期段階では、各国の宇宙機関が活動の主体となりますが、日本のispace社を含め、民間企業が月面探査ミッションの準備を着実に進めています。人類の活動領域を一過性でなく広げていくには、やはりビジネスにならなければいけませんよね。民間企業が主体的に参加して、ビジネスモデルを成立させて月面社会が広がっていかなければ、持続的な宇宙探査の進展はないと思います。
いま地球低軌道を経済活動の場にするために、各国がいろいろな取り組みを行っていますが、同じように月面の利用においても民間企業の参画を促すための取組みを進めていく必要があります。
―具体的には今後どのような技術が求められていますか?
例えば、月面には寒暖の差が250℃以上もある過酷な環境もあり、有人与圧ローバー、つまり月面車がクルーを載せて安全且つ安定して動くようにするには、走行系やエネルギー系を初め、さまざまな分野の技術が必要になります。
ただ、月面は重力が1/6Gと小さいですが、無重力ではないので、実は我々が日常生活で使っている技術がそのまま使える場合もあります。重力環境としては、感覚的には、月は地球低軌道よりも地球に近いと感じます。
そのため、数え切れない分野の現存する「日常の技術」に期待をしていて、ぜひ企業の皆さんには宇宙探査のために「探る」、「建てる」、「支援する」、「作る」、「住む」といった分野の技術やノウハウを展開していただき、同時にそうした技術を更に高めて地上での事業にも繋げていただきたいと思います。
―宇宙に行くための技術となると狭き門のように思えますが、「日常の技術」と言われていると様々な企業にチャンスがありそうですね!
月面に存在する水や氷を効率よく見つけて取り出し、燃料として活用できるようになれば、月面探査を効率的に進め、そのノウハウは火星の探査にも直接役立つものといえるでしょう。
―宇宙開発に飛び込んでみたいと考えた場合、何かサポートプログラムや問い合わせ窓口はありますか?
JAXAには、宇宙探査イノベーションハブやJ-SPARCというプログラムがあり、JAXAの持つノウハウを活かして企業との共同研究を進めたり、新規事業の創出等に繋がる取り組みを行っています。
宙畑メモ
・宇宙探査イノベーションハブ(TansaX)
従来の発注型ではなく、課題設定の段階から企業・大学・研究機関が参画してオープンイノベーション型で宇宙探査を進める研究開発プログラムです。
・J-SPARC(宇宙イノベーションパートナーシップ)
JAXAと企業の間でパートナーシップを結び、共同で宇宙に関する新しい事業の創出を目指す研究開発プログラムです。
―最後に、若田さん自身も月に行ってみたいと思われますか。
ぜひ行ってみたいです。私を宇宙活動へと心を動かしてくれたのがアポロ11号の月着陸でした。JAXAの定年は60歳ですが、現役の宇宙飛行士としてこれからも有人宇宙活動の現場で挑み続けていきたいと思います。
1960〜1970年代に「宇宙飛行士になりたい」と言うのは、当時の日本の子供には叶わない夢のように思われましたが、いまは実現可能な目標の一つとして捉えてもらえる時代になったのは嬉しいですね。

私が5歳のときに憧れた月面着陸が現実味を帯び、どこかで皆さんの力を発揮できて、それが世界の有人宇宙開発の拡大に重要な役割を果たせる、皆さんの手でも触れられるところにある、というように国際宇宙探査を捉えていただければ幸いです。JAXAは来年秋頃、月探査に向け、新しい宇宙飛行士の募集を行います。是非多くの方々に応募していただきたいと思います。
若田宇宙飛行士に話を伺い、アルテミス計画で日本が強みを発揮していける分野の多さに驚かされました。
日本の企業や団体も月面に挑戦していくことで、新たな技術や知見を獲得し、結果的にそれが私たちの日常の暮らしにも活かされていけば嬉しいですね。
提供元・宙畑
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