不動産投資をしていると、専業でも副業でも税務調査の対象者となります。税務調査の結果、提出した確定申告書よりも納税額が増加する結果となった場合、その結果に納得ができないならば裁判に持ち込みとなることがあります。この記事では、結果的に経費として認められなかった否認事例を紹介します。国税不服審判所に審査請求をした判例を参考にすることによって「不動産投資の経費とは何か」の理解を深めていただくことができます。
目次
修正申告と更正処分
国税不服審判所の否認事例
・平成23年3月25日の裁決事例
修正申告と更正処分
税務調査は、事前に電話で通知が来るのが原則となっています。その調査が実施された結果は、電話による口頭説明や書面で通知が来ます。申告した内容に問題がなければ「是認」となり調査は終了です。
一方、申告漏れなどを指摘され、誤りに気づいたり指摘に納得した場合には、「修正申告」をして追加の納税をする必要があります。その場合、「修正申告書」提出とともに納税をします。税務調査の事前通知のあとに修正申告する際には、過少申告加算税がかかります(50万円までは10%、50万円を超える部分は15%)。延滞税もかかります。
しかしこの結果に納得できず「修正申告」に応じたくないという場合には、税務署に「更正処分」をしてもらうことになります。日本は「申告納税制度によって自らが納税額を決める」ルールですが、そうではなく「行政機関によって税額を決める」ことをまずしてもらいます(処分)。
そしてこの課税処分を受けて、税務署長に対して不服申し立てとして「再調査の請求」を行う(処分の通知を受けた日の翌日から3カ月以内)か、「国税不服審判所長に対して審査請求」を行うことができます。
国税不服審判所の否認事例
確定申告の内容が正しいかどうかの審査を請求することとなり、国税不服審判所に改めて審査をしてもらい、結果として否認された1事例を詳しく見ていきましょう。具体的に「経費とは認められない」とされた4つの争点を見ていきます。
平成23年3月25日の裁決事例
まずオーナーの職業と、所有する物件について見ていきます。
【概要】
会社員で5つの建物の不動産賃貸業を営む人が、不動産所得で損失が発生したとして給与所得と損益通算をして所得税の申告をしたところ、必要経費に当たらないとされた。
【基礎事実】
会社員は4人家族(本人、妻、子ども2人)で、木造2階建て4LDKの建物に居住。H社に勤務(平日8時45分〜17時15分、休憩1時間)する執行役員で、下記の物件のオーナー
・軽量鉄骨造2階建て1棟8室(g物件)
・木造2階建て2棟合計16室(h物件)
・マンション1棟(i物件)
・区分マンション1室(k物件)g物件とh物件の管理等業務を委託
上記の不動産経営で生じた経費として、以下の内容を計上していました。
【経費計上していたもの】
- 車に係る経費(租税公課、損害保険料及び減価償却費等)
- 「家族で暮らす家」の家賃・水道光熱費の50%、インターネット利用料及び電話代
- 旅費交通費など(会議費、接待交際費、タクシー代及び家族旅行の費用等)
- 妻に対する青色事業専従者給与
上記がいずれも認められなかったのですが、オーナーの主張と税務署の調査結果を見比べます。
【経費に関する争点】
- 車両に係る経費
オーナーの主張:
- 「車両の総年間走行距離約7,000km」のうち、不動産賃貸業に約98.5%使用した。不動産賃貸業以外の年間走行距離は約100km(約1.4%)
税務署の解釈:
走行距離に対して、具体的かつ客観的な根拠を示していない。車両に係る経費のうち、不動産賃貸業の遂行上必要である部分が明確に区分されたといえない
住居に係る経費(家賃、水道光熱費の50%)、インターネット利用料及び電話代
オーナーの主張:
- 自宅(約80m2)のうち、2部屋の約40m2(約50%)を、不動産賃貸業用に使用していた。家賃の全額(41,666円)を必要経費として計上
- 自宅の半分を不動産賃貸業用に使っているので、その建物で使用する水道光熱費の50%が必要経費
- また、不動産物件の取得を目的とした調査と、入居者や修繕等の業者との連絡で、電話とインターネットを使用しており、インターネット利用料・電話代は、必要経費に算入 税務署の解釈:
- 不動産賃貸業のうち、40m2もの空間を常に利用して行うべき業務があったとは認められない。認められたとしても、その必要性は極めて限定的であっただろう。家事上の経費または家事関連費に該当し、必要経費に算入することはできない
- 電気・ガス・水道は、家族4人のために消費される部分が多くなるのは明白。不動産賃貸業の来客や記帳のためにこれらを使用することがあったとしても、その使用量はごくわずかにとどまるものといわざるを得ない。そのため水道光熱費の50%を経費とすることは合理的ではない
- 不動産物件の取得に関する調査の具体的内容が明らかでなく、不動産物件を新たに購入した事実もない。また、g物件とh物件は、不動産業者に管理を委託しているから、電話を使用したとしても、電話代のほとんどを不動産賃貸業に使用しているとは認められない
- 住居の賃借料と水道光熱費・インターネット利用料と電話代について、不動産賃貸業の遂行上必要である部分が明確に区分されていたとはいえないから、必要経費に全額算入することができない
3.旅費交通費などについて
オーナーの主張:
- 賃貸の見込める不動産物件をいかに安価に購入できるか、物件調査のため、業務の一環としての調査費用(接待交際費、タクシー代等)を必要経費に算入
- 祈祷料、宅配便代、電子機器代、事務用品代、カード年会費、スーツ代、作業着代、廃品処理代、備品代、自転車代、コンタクトレンズ代・コンタクトレンズ購入に際しての診察代も、支出先が明らかであるものは必要経費に算入
税務署の解釈:
- 不動産物件の取得を目的とする調査の具体的内容が明らかでない。物件調査費その他の費用は、不動産所得の総収入金額に相当する多額の支出にもかかわらず、その具体的内容が何ら明らかにされていない。よって不動産賃貸業に直接関連し、かつ、通常必要な支出であると認めることはできない
4.妻に対する青色事業専従者給与
オーナーの主張:
- 妻は、入居者や修繕業者等との業務連絡、また不動産物件の新規取得を目的とした調査等に従事。不動産賃貸業に専ら従事しているので、妻に対する給与は、不動産所得の金額の計算上控除されるべき
税務署の解釈:
- 不動産物件の取得を目的とする調査の具体的内容が明らかでない。また、不動産所得に関連する電話や郵便物の取次ぎが日常的に必要であるとは到底認められない。妻が郵便物の受渡しや電話の応答をしても、単なる取次ぎにすぎない。よって不動産所得を生ずべき事業に専ら従事する者には当たらないから、妻に対する給与を経費に算入することはできない
どのような点が問題となったのか見ていきましょう。
【争点の判断】
必要経費として申告した支出の金額を合計すると、不動産収入の約2倍から3倍の金額となり、これは異常な金額であるといわざるを得ない。調査の結果では、家族の食事代、支出のなかった家賃についても自己負担したことになっている。
オーナーは、具体的内容を明らかにし、ある程度合理的に裏付ける立証をしなければ経費計上は認められない。家事関連費について、業務の遂行上直接必要であった部分を明らかにしなければ、その全額について必要経費に算入することができない。
オーナーが提出した資料は、経費計上した年と、領収書などの年数が異なっていたり、裏付ける証拠として不十分なものだった。
タクシー代の支払が年間200件を超え、同日に飲食店で飲食をしていて、また平日は会社勤務していることと併せて考慮すると、飲食代とタクシー代の多くは、同僚などとの飲食に際して支払った飲食代及びその際のタクシー代であったとも考えられる。
「祈祷料、宅配便代、電子機器代、事務用品代、カード年会費、スーツ代、作業着代、廃品処理代、備品代、自転車代、コンタクトレンズ代及びコンタクトレンズ購入に際しての診察代」の経費計上について、これらは通常、家事上の経費としても必要な支出であると解釈されるのに、これらの経費が不動産賃貸業と関連しているという主張に関して、関連性を示す証拠が見当たらなかった。
参照:(平成23年3月25日裁決) | 公表裁決事例等の紹介 | 国税不服審判所