前回の記事では、D2Cの文脈における新たな流通スキームの必要性についてご紹介しました。そんな小売業全体の変化が進むなか、今後10年先の買物を見据えて小売が練るべき戦略はどのようなものになるのでしょうか。今回は米国や中国などの状況を踏まえ、「消費者」「メーカー」「小売」の3者を軸に10年後の小売業界の未来を予測してみます。

「デジタル化と小売業の未来」#17 小売とメーカーの境目がなくなる?10年後の小売業界未来予測
(画像=Blue Planet Studio/istock、『DCSオンライン』より引用)

10年後に予測される消費者・メーカー・小売の変化

「デジタル化と小売業の未来」#17 小売とメーカーの境目がなくなる?10年後の小売業界未来予測
(画像=『DCSオンライン』より引用)

 今後10年間で「消費者」「メーカー」「小売」はどう変化するのでしょうか。まず「消費者」の購買行動を見ると、1人1人が豊富な情報から取捨選択を繰り返し、より自分にピッタリ合うブランド・商品を探し求める時代になるでしょう。そうなると、「みんなが持っていてみんなが知っている有名ブランド」というものは、徐々に少なくなることが予測されます。「自分は好きだけど、隣の人は知らない・持っていない」というブランドが乱立するため、1ブランドの規模もだんだん小さくなっていきます。

 すでにこの兆候は表れており、売上100億といった大規模なブランドは減っています。また、情報収集においてはデジタルが主力になりつつあります。そのため、すでにそうなっていますが、テレビCMをはじめとしたマス広告もさらに見られなくなっていくでしょう。

 「メーカー」側では、昔のように商品開発の期間を2年くらいかけて、自社の商品ラインでじっくり認知を図るというビジネスモデルは苦戦すると予測できます。顧客の要望にスピーディーに応えるために、もっとリードタイムを縮めて商品を市場に出す必要があります。たとえ従来の手法で続けたいと思っていても、市場からはより早く届けることが求められるようになります。

 このような動きはすでに世界的な潮流となっています。とくに米国では多くの関係者が「大手メーカーで一番変わったのは、商品の発売までのリードタイムだ」と語っており、米国では長い時間をかけて商品をつくることはなくなっています。日本ではまだ2年のリードタイムでも顧客の要望に応えられるよい商品が出ていますが、今後はすべてのカテゴリーにおいて米国と同様の変化が起きるでしょう。

店舗競争=商品開発競争

 「小売」側を見ると、インフラ的なポジションになる会社は今後も残ると考えられます。「店舗に行けば自分が使っているものが必ずある」という状態が求められるため、コンビニやドラッグストア、イオングループなどの生活インフラのような店舗がさらに強く根付くでしょう。

 その一方で、これまでの連載で見てきたように、今後は情緒的・体験型の店舗が注目されるようになります。むしろ、変化がなければ従来型の店舗形態は淘汰されます。体験のような価値が上乗せされたり、非日常の体験ができる店舗が増えたりすると、お店の使い分けが進み、月に一度は友人や家族と必ず行くという使われ方になっていくでしょう。

 また、すでにメーカーだけではなく、PB(プライベートブランド)のように小売がモノを作る時代に入っています。今後もこの流れはさらに広がり、「小売の能力=売れるブランド商品をつくる能力」になりつつあります。つまり、小売としてはお店を出してオペレーションする能力も大事ですが、それ以上にメーカーとしての機能をどう拡大するかという点がより重要になると考えられます。

「デジタル化と小売業の未来」#17 小売とメーカーの境目がなくなる?10年後の小売業界未来予測
(画像=『DCSオンライン』より引用)

 世界的にも「店舗競争=商品開発競争」だと言われています。唯一無二の店舗をつくるということは、その店舗にしかないブランドをつくることにほかならないのです。こうなると、メーカーと小売の境目はより曖昧になります。どちらにせよ優れたモノをつくらなければなりません。

「デジタル化と小売業の未来」#17 小売とメーカーの境目がなくなる?10年後の小売業界未来予測
(画像=『DCSオンライン』より引用)

 そうなると当然、消費者に商品の情報をデジタルでうまく届ける能力も必要です。物流やブランディングなどの課題も浮き彫りになるでしょう。そしてこれらは、D2Cブランドが今まさに抱えている課題でもあり、それらを解決した先に小売のマクロ的な全体像が浮かび上がるのです。