材料は人間の心筋細胞のようです。
米国ハーバード大学(Harvard University)で行われた研究によれば、人間の心臓の細胞を材料にして、水中を効率的に動く魚ロボットを開発した、とのこと。
心臓の細胞は魚ロボットの尾部に設置されており、水中に溶け込んだ糖などの栄養分を表面から吸収することで成長していき、最大で108日間におよび遊泳を続けることができました。
研究内容の詳細は2022年2月10日に『Science』で掲載されました。
目次
人間の心臓で人工魚を作ることに成功!
近年の生物工学の飛躍的な進歩により、生物の細胞を部品として利用する生体ロボットの開発が行われるようになっています。
ハーバード大学でも以前から生体ロボットの開発が行われており、2012年にはラットの心筋細胞を使って遊泳するクラゲ型のロボットを開発しました。
また2016年には同じくラットの心筋細胞を使って人工マンタ(エイ)を作成することに成功し、遊泳能力を飛躍的に進歩させることに成功します。
しかし現実世界と同じく、クラゲやマンタのような遊泳速度は、一般的な魚に比べて大きく劣ります。
そこで今回、同大学の研究者たちは人間の心臓の細胞を材料に、魚型の生体ロボットの開発を行うことにしました。
開発にあたってはまず、ヒト幹細胞を再プログラムして心臓の細胞からなる2枚の薄い心筋のシートが作られました。
研究者たちはこのシートを適度な長さに切り取り、片方を左そしてもう片方を右に設置しました。
結果、生体ロボットに本物の魚のような動きをさせることに成功します。
しかし、2枚の心筋シートはどのようにして協調した動きを可能にしているのでしょうか?
栄養を吸収して108日間泳ぎ続ける
まるで魚と同じように遊泳していますが、どのような仕組みで魚ロボットは規則正しく動いているのでしょうか?
答えは心筋の性質にありました。
心筋を構成する細胞には物理的な「伸び」を感知して内部のイオン濃度を変化させる性質(イオンチャンネルの解放)が存在します。
イオン濃度が変化すると今度は心筋は収縮に転じます。
この魚ロボットは2枚の心筋を張り合わせることで左右交互にイオン濃度が変化して、伸びと収縮を繰り返すので、まるで魚が尾を振るように動き続けるわけです。
また研究者たちは魚ロボットの泳ぐ水槽に糖などのカロリーを与えることで、遊泳期間を最大で108日間持続させることに成功しました。
この結果は、魚ロボットに植えられた心筋が外部からエネルギーを摂取して、活動源に変換できることを示します。
しかしより興味深い点は、この魚ロボットに起きた「成長」にありました