地平線の位置の歴史的変遷
次に研究者たちは、横の分割ラインを集中的に分析することにしました。
一番際立った横の分割ラインは、多くの風景画において地平線になっています。
研究者たちは、この地平線のラインもまた、時代によって偏りがあると考えたからです。
分析を行った結果、予想は的中しました。
上の図は、20年ごとに、その時代で描かれた作品の地平線の位置であり、時代によって大きく上下に動いていることがわかります。
1500年代は概して地平線が高いラインにあり、地面を描く割合が高くなっています(図の1)。
1700年代から1800年代の半ばまでは地平線が中央に描かれることが多くなりました(図の3)が、1800年代後半から現代にいたる時代では、再び地平線の位置が高くなり、地面側が多く描かれるようになります(図の4)。
ですが特出すべきは1650年に前後する時代です。
この時代は地平線の位置が全期間を通して最も低く「人類が最も空を描いた時代」となりました(図の2)。
さらに興味深い点は、ほとんどの時代において、分布が山のようになっていることです。
もし画家たちが自分たちの独創性のみで絵画を描いた場合、複数の放物線からなるデコボコした形になるはずです。
しかし、この事実は「地平線」のような中立的な分割線にも、時代によって支配的な流行があることを意味します。
各時代にある隠された何かが、画家たちの描く風景画の地平線の位置を、特定の位置に誘導しているようです。
そして画家たちは意識的・無意識的にも、この支配から逃れられられませんでした。
時代からの逸脱
今回の研究により、風景画における地平線をはじめとする分割ラインが、時代ごとに支配的なパターンをつくることが明らかになりました。
各時代における文化や科学、信仰などの要因が芸術家の精神に大きく影響し、画家たちの美意識に国籍を超えた影響を生みだしていたようです。
しかし画家たちは常に時代の流れに従っていたわけではありません。
特定の画家たちは、時代の趨勢から大きく逸脱していました。この「流行破壊」とも呼べる逸脱は、時に新しい時代の標準として取り入れられることもありました。
研究者たちは今後、同様の分析を、オンライン上に存在する写真に対しても行っていく予定です。
私たちが何気なく写真に収めた風景の構図もまた、今という時代の支配を受けているかもしれませんね。
参考文献
inverse
提供元・ナゾロジー
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