■2021年にメディアに登場した衛星画像
2021年は、昨年から続くCOVID-19への警戒から遠隔で画像を取得、観測ができる衛星画像の有用性が広く認識され、ニュースに多く登場したように思います。記憶に残るニュースと衛星画像を紹介しましょう。
3月、エジプトのスエズ運河でコンテナ船「エバーギブン」の座礁事故が発生し、物流への深刻な影響がありました。運河の両岸から撮影された画像も多くありましたが、全長400メートルにおよぶ大型コンテナ船の全容、また運河全体の状況は衛星画像のほうが把握しやすいといえます。Maxarの高精細なコンテナ船画像に加え、欧州のSAR衛星Sentinel-1がモニタリングを続けていたスエズ湾の「渋滞」も衛星ならではのメディア利用です。

7月、中国がゴビ砂漠で再利用宇宙輸送機の試験を行っている様子が、欧州のSentinel衛星の画像から明らかになりました。米空軍のX-37 Bは繰り返し、非公開の長期宇宙飛行実験を行っていますが、中国で行われている実験も「将来的に有人、無人両方に対応する」ということ以外は詳細が明らかになっていないようです。
また、11月には中国のタクラマカン砂漠にアメリカの空母を模したモックアップが作られているという事実がMaxarの衛星画像から明らかになりました。米国海軍協会(USNI)は、軍事演習の標的として作られたという見解を示しています。宇宙や海洋で米中の対立が続く中で、衛星画像は設備や地上の変化から動向を探るインテリジェンスに利用されています。1960年代から続くスパイ衛星の時代に戻ったような印象ですが、現代のSentinel衛星では、民間によるオープンインテリジェンスにも利用でき、宇宙基地や空母モックアップの場所を民間が独自にモニタリングすることが可能になっています。
9月、スペインのラ・パルマ島でクンブレビエハ火山が噴火し、現在も噴火が続いています。火山噴火のように危険で人が立ち入ることができない地域では、衛星が観測の決め手となります。欧州はSentinel衛星で観測を続け、10月に発生した新たな溶岩流の画像を公開しているほか、地元スペインのHisdesatは、商用SAR衛星PAZの観測による地形データをコペルニクス計画に提供し、溶岩流のマップ作成に協力していることを明らかにしました。

10月には、小笠原諸島の海底火山「福徳岡ノ場」から噴出した軽石が日本近海に漂着。漁業や船舶の航行に影響しています。JAXA、気象庁はそれぞれ運用する「しきさい(GCOM-C)」やSentinel-2、「ひまわり」による観測画像から漂着の情報を公開しており、日本のメディアのニュースソースとなりました。広域の海洋の観測データを提供できるのはまさに衛星ならではであり、メディア利用を一段と進めた事例となりました。
11月、ロシア、ウクライナとの国境付近でロシア軍が軍備を増強している様子がMaxarの画像で公開され、緊張が高まっています。車両や装備を数えることもできる高精細な画像はMaxarならではといえます。
2021年のニュースと衛星画像からうかがえることは、世界で大きく報道されるニュースに登場する超高解像度の衛星画像といえばMaxar一強という点でしょう。高精細なWorldViewシリーズのインパクトは非常に大きいといえます。しかし、まだ補完的な役割にとどまるとはいえ、SAR画像や海洋のデータでは欧州のセンチネル衛星シリーズの存在感が感じられます。2021年はエアバス・ディフェンス&スペースがプレアデス・ネオ衛星シリーズの打ち上げを開始、分解能30cmの画像提供をはじめました。欧州はSentinel-hubという配布プラットフォームを持っていることは大きな強みですから、今後はニュースに登場するコペルニクス衛星画像も増えると予測されます。
■2022年、衛星画像とメディアはどうなる?
1年を振り返ってみると、報道の中に衛星画像やデータも浸透してきていることがうかがえます。2022年は、JAXAの先進光学衛星「だいち3号(ALOS-3)」が打ち上げ予定です。新たな衛星からの画像をきっかけに、日本でも衛星画像がニュースに登場する頻度向上に期待しています。
登場する画像はわかりやすい光学画像が中心と思われますが、フィンランドのICEYEが衛星オペレーターにとどまらずプラットフォーム化を表明するなど、解析サービスが多様化すれば画像提供の幅も広がるでしょう。SAR衛星の充実と相まって、夜間の水害や火山など、SARが活躍する局面での画像が増える可能性があります。
野生動物の生息地保護、環境変化による干ばつや塩害といった監視など、気候変動に関連する問題では、研究分野で活躍していた衛星データがメディアにも登場すると思われます。地球観測衛星の代表であるLandsatシリーズは9号機が打ち上げられ、長期的な変化を捉えたビジュアルをストーリー化できるようになります。また、高分解能衛星の拡大で利用が広がり、アフリカゾウの生息域に違法な住宅が増えていることを明らかにした研究や、南極でウェッデルアザラシの個体数を数えた研究などが可能になっています。こうした衛星ならではの手法にはインパクトがあり、メディアの関心も増えていくのではないでしょうか。
気候変動のテーマは、なかなか利用がすすまない光学以外の衛星データの利用につながる可能性もあります。英グラスゴーで開催されたCOP26ではメタン排出のモニタリング強化が決定されており、2022年10月には国別のメタン排出をモニタリングできる米豪共同プロジェクト「MethaneSAT」が打ち上げ予定です。光学画像や地図と観測データを組み合わせ、「衛星が見た○○国のメタン不適切排出」のようなニュースが登場するかもしれません。パームオイル(アブラヤシ)の生産に伴う森林伐採にも同様のモニタリング情報がニュースソースとなる可能性があります。
紛争、人権問題に関連するニュースソースになりうることは言うまでもありません。地上から接近できない現場をモニタリングするには衛星データが欠かせない存在ですが、地上のデータで検証できない場合、正確性を担保することが難しい分野でもあります。専門の研究機関との連携がますます重要になる分野といえます。
提供元・宙畑
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