傾聴をする上で最も重要なこと
世の中には小手先の技術ばかりが取り沙汰されがちで、うなづき方や表情などのテクニックが重要と言われる。だが、筆者の持論でいえば、相手の話を正確に聞くための最重要ポイントは「自分は相手のことを何も知らない」としっかり自覚することだと考えている。この認識さえ捨てなければ、その他の傾聴のテクニックなどは自然に備わる。
相手の話を勝手に思い込みをしたり、共感を求める相手に正論でアドバイスするようなケースは、いずれも「自分は相手の話はとっくに理解している」という誤認から来ている。その逆に相手の話を理解していないと認識すれば、「相手が何を言いたいのか、理解するためにしっかり聞かなければ」と身を乗り出して集中して聞くことになる。つまり、「相手はこう言いたいのだろう」という自身の思い込みを外すことが重要なのだ。
よくあるケースが「話を黙って聞き、共感してほしい」と思っている相手に対して、途中で話を遮り、グダグダと聞かれもしないアドバイスをしてしまうケースだ。こうした場合、聞き手は「自分はよくわかっている」と勘違いしているし、話し手は「この人は自分をわかってくれない。もう話したくない」というスレ違いが起きている。
筆者は英語を教えている立場であり、よく受講生から悩み相談を受ける。本当に英語学習技術を教わりたいと、具体的なアドバイスを求める人もいるが、中には辛い現況に共感してほしい人もいる。話を聞く前に「自分は相手のことを何もわかっていない。最後まで話を聞き、相手が求めることをまず理解する」ということを何度も反芻した上で会話をスタートするようにしている。相手の話を最後まで聞き、その結果相手は共感を求めるならまずは共感を示すし、具体的な技術的ソリューションを求めるならそれを提供するようにしている。
傾聴に最重要なのは、「自分は相手のことはわかっていない」と認識することだ。
傾聴は難しい。それがテキストでも音声でも等しく同じだ。我々は母語である日本語を完璧に操れると思いがちだが、その実「正確に聞く」という行為は実際かなり難しいのである。
文・黒坂 岳央/提供元・アゴラ 言論プラットフォーム
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