人の手いらずの自律型ロボットによる手術が成功しました。
ジョンズホプキンス大学(JHU・米)の研究によると、AIを搭載した自律ロボットが人間の操作なしに、腹腔鏡(ふくくうきょう)手術によって「ブタの腸」の縫い合わせに成功した、とのこと。
また、ロボットの行った手術跡を医師たちが調べると、「人間よりも大幅に優れた結果(完璧な縫い合わせ)」だったことが判明しました。
ロボットによる自動化された手術はSF作品などでよく見られる光景ですが、もはやフィクションではなく現実の技術になりつつあるようです。
研究の詳細は、2022年1月26日付で科学雑誌『Science Robotics』にて公開されています。
目次
人間の操作なしに自律ロボットがブタの腸を縫い合わす
改良型の自律ロボットは腹腔鏡手術が可能
将来のなくなる職業リストに「外科医」が追加される?
人間の操作なしに自律ロボットがブタの腸を縫い合わす
現在、人間の代わりに労働をこなすロボットは、自動車製造をはじめ様々な分野に取り入れられています。
決められた距離を移動し、決められた角度で操作を行うロボットは、人間の労働者に比べて安価で精度の高い作業を行うことが可能です。
しかし、現在の製造業で用いられているロボットは事前にプログラムされた内容を実行するだけであり、自らの判断で作業工程を計画・変更する能力は持ちません。
そのため、予測できない動きをする「生きている動物の腸(蠕動運動)」を縫い合わせるなど、常に変化する対象へのアプローチは苦手としていました。
ところが2016年、大きなブレイクスルーが起きました。
新たに開発された自律型ロボットは、優れた視認力を持ち、変化する内臓の動きに応じて操作手順を再計画する柔軟な判断力を備え、生きているブタの腸を見事に縫い合わせる(吻合する)ことに成功したのです。
ですが、この手術には1つ問題がありました。
改良型の自律ロボットは腹腔鏡手術が可能
実は2016年に行われた手術では、ロボットが手術しやすくするため、ブタの腹部を皮膚や筋肉を含めて大規模に切開していたのです。
現在の外科手術では可能な場合、大きな切開をともなわない腹腔鏡(ふくくうきょう)手術が好まれます。
腹腔鏡手術では腹部の数カ所に小さな穴をあけ、メスやハサミを搭載したロボットアームとカメラを挿し込んで、人間がそれらアームを主導で操作することで行われます。
大規模な切開をしないので体への負担が少なく、患者の早期回復につながるとして、将来の外科手術においても標準的な手術方法になると期待されています。
そこで今回、ジョンズホプキンス大学の研究者たちは、2016年に開発された自律型の外科手術ロボットを腹腔鏡手術に対応できるようにアップグレードしました。
大規模な切開が行われた以前の手術とは異なり、腹腔鏡手術では視界が制限されます。
そのため、新たに開発された自律型ロボットは自己判断能力が強化されており、より複雑な状況に適応できるように改良されました。
また限られた視野でも操作が可能になるよう、周囲の臓器の位置を把握する最新の3Dイメージングシステムも搭載されています。
さらに、腹腔鏡手術に対応した専用のロボットアームの開発も合わせて行われました。
手術対象となったのは今回もブタでした。
しかし健康なブタでは手術ができません。
そこで研究チームはロボットの投入に先立って、4匹のブタの腸を切断し「患者」になってもらいました。
「患者」が用意できたら、いよいよ実験開始です。
ブタの腹部にあいた穴からロボットアームが挿し込まれ、4匹のブタの腸に対して合計で86針の縫い合わせが行われ、一週間後に縫い目がチェックされました。
結果、自律型ロボットによる手術は「同じ手順を実行する人間よりも大幅に優れていた」と判断されました。