昔と比べるとブラック経営は難しくなった

企業側に問題があるケースもゼロではない。しかし、日本の雇用の法制度上、会社は正社員をクビにするのは非常に難しい一方で、従業員は自由に退職できる権利がある。会社の責任でまっとうな人物がブラックに染まるようなケースがあるなら、やめるという選択肢を取ればいい(過酷な環境下では冷静な判断力が奪われているという反論もありそうだが、それは別のテーマでの議論が必要だろう)。

今どきはブラック経営などやってしまえば、すぐにSNSに流出したり労基に報告が届き、瞬時に社会問題化する。問題がある会社として、名前を出されてしまえば即座にビジネスが成り立たなくなるだろう。筆者は経営者の立場なので分かるのだが、従業員を大事に取り扱わないと退職され、そうなると困るのは自分自身である。社員がイキイキと仕事をしなければ、労働生産性がかえって低くなり、そうなればリターンが皆無となる。まともな経営者は、ブラック経営などやろうとも思わないだろう。

現代は「24時間働けますか?」の標語があった昭和時代ではない。もちろん、未だにブラック企業はある。それはよく分かっている。だが、昔に比べれば状況はかなり改善しているし、今後の未来は更に良くなるだろう。

ブラック企業より恐ろしいのはブラック社員

会社ばかりが目の敵にされがちだが、個人的にはブラック企業以上にブラック社員の方が恐ろしいと思っている。

件の通り、ブラック企業への風当たりは強く、時間の経過で自然淘汰していく運命にある。筆者も運悪くブラック企業にあたり、毎日夜中3時まで違法行為を繰り返す問題企業で就労した経験があったが、数ヶ月で自主退職した。問題のある会社はやめればいいし、就業前にリサーチをすることで情報を得ることもできる。

だが、ブラック社員を抱えてしまった企業に同じ選択肢は取れない。仕事をせず、スキル向上の意欲もなく、不満ばかりいって会社にしがみついて、企業コスト増となり周囲の真面目な社員の足を引っ張る人物でもやめさせることが出来なくなってしまう。下手をすると「家に居場所がないから遅く帰りたい」「残業代を稼ぎたいから会社で仕事するふりをする」という社員にしがみつかれてしまえば、会社にとっては迷惑でしかない。

ブラック社員が増えれば、労働市場の流動性を悪化させ、適材適所が進まず、企業の生産性は低下する。そうなれば、まっとうな精神とスキルを持ち、勤労意欲の高い人が転職できなくなる悪循環だろう。そうなると、損を被るのはまっとうな気持ちで懸命に働く経営者と社員なのだ。

ブラック社員はブラック企業より恐ろしい。なぜなら間接的にブラック企業を作っているといっても過言ではないだろう。

文・黒坂 岳央

文・黒坂 岳央/提供元・アゴラ 言論プラットフォーム

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