「もんじゅ」以降まったく不透明なまま

2016年12月に原子力に関する関係閣僚会議で、高速原型炉「もんじゅ」の廃止が決定された。それ以来、日本の高速炉開発はきわめて不透明なまま今に至っている。

この関係閣僚会議の決定では、「もんじゅ」の廃止と引き換えに、従来通りに高速炉を中核とした「核燃料サイクルを維持していくこと」が明記された。そして、米国やフランスなどと国際協力を進めながら、高速炉の研究開発を行っていくとされた。

その後2018年12月に『戦略ロードマップ』が同閣僚会議で決定された。ロードマップの最も重要なポイントは、「21世紀半ば頃に、現実的な出力規模の高速炉が運転開始されることが期待される」としたことである。しかしながら、その後の進展は何もない。

何故なのか?

鍵は、第6次エネルギー基本計画にある。

同エネ基において、まず高速炉開発については、「戦略ロードマップのもとに米仏などと協力して研究開発を進める」旨が記載された。

次に、軽水炉を軸とした原子力利用に関しては、「必要な規模を持続的に活用していく」という一文が新たに追記された。

問題は、前者は精神論の域をでておらず、具体的な計画がまったく見えないということ。後者は「原子力への依存度を限りなく減らしていく」という従来からのドグマが軛になり、まさに二律背反の様を呈している。

高速炉と核燃料サイクルは、日本の将来においてエネルギー安定供給の上からは欠かせない技術である。原子力の持続的な利用のためには、ウラン資源からの解放としてプルトニウム利用が必須である。また、放射性廃棄物の減容と有害度の低減は非常に重要である。これらには高速炉が果たす役割は大きい。というより、高速炉なくしては不可能なのである。

しかし、開発計画が具体性を持って動き出さない限りは、設計、製造、建設技術は継承されない。人材も枯渇する一方である。高速炉開発がまったく具体的な形を現さない体たらくをいつまで続けるのか。ここには経産省エネ庁内の再エネ推進派の興隆とそれを強く後押しする政治勢力の圧力が効いている。第6次エネ基に、呪文のような一文〝原子力への依存度を限りなく減らしていく〟が残されたのは、その政治勢力の所為である。

「もんじゅ」の実例を見ても、計画の具体化から運転開始までは25年以上を要する。戦略ロードマップが示唆した〝21世紀半ば〟つまり2050年まではもう30年を切った。

つまり今日本は高速炉開発を進めていく瀬戸際にある。

ビル・ゲイツの高速炉:6年後に運転開始

米国ではビル・ゲイツの高速炉が2028年に運転開始になることが決まった。この計画は、米国エネルギー省の肝いりで予算的措置もなされてビル・ゲイツが創設したテラパワー社が請け負う契約である。予定通り建造、運転とならないと契約違反になる。厳しい縛りのもとでプロジェクトは着実に進められなければならない。

今が瀬戸際の日本の高速炉開発
(画像=「ナトリウム発電・エネルギー貯蔵システム」の完成予想図©テラパワー社 出典:原子力産業新聞、『アゴラ 言論プラットフォーム』より引用)

この高速炉は「もんじゅ」と同様にナトリウム冷却式の炉である。そしていわゆる「第4世代の原子炉」の一つである。

この計画が急伸した背景には、国家セキュリティや競争力の観点から、米国の高速炉開発がロシアや中国に遅れをとっていることへの危機感がある。前トランプ政権でテコ入れがなされ、現バイデン政権が一層後押しをした結果である。

米国は長らく高速炉の自国製造は行っていない。サプライチェーンがない。

ビル・ゲイツの高速炉は、テラパワー社が中心になってサプラーチェーンを担うベンチャーも同時に起業していくことになる。国をあげての〝Buy American〟である。

政権−政策―事業者の連携が良き方向に働き、未来を拓くパワーが感じられる。