絶望的な状況、発想の転換で生まれたサイボーグ

斎藤:
ただ、その頃の私は片目が「斜視」になっていました。焦点が合わず、距離感も掴めず、レッスン中に人とぶつかったり、何もないところで転ぶようになりました。

少年B:
ええっ! 芸能界を目指すにおいて、それは致命的な状況なのでは……?

斎藤:
そうです。当時は「応募して受からないなら、自分で発信すればいい」と思って、YouTubeやTikTokなどで動画を発信していたのですが、コメント欄で「どこ見てんの?」などと叩かれて……。発信の内容よりも、外見的な特徴に目が行ってしまうんだなと思いました。

「魅力がないなら作ればいい」モデル事務所150社落ちた先に生まれた“サイバー系専門モデル”とは?
(画像=▲斜視になってしまったという斎藤さん。左右の視線が合わない、『Workship MAGAZINE』より引用)

少年B:
ううう、それはつらい……。

斎藤:
それでも動画をきっかけに、ローカルの深夜番組に呼んでいただいたこともありました。合わない視線をごまかすために、前髪で隠して……。でも、そんなことで長続きがするわけもなく。

集団面接形式のオーディションでは、かわいい子や有名な子ばかりに審査員の質問が集中して、私は一度も話せないまま不合格になったこともありました。

「魅力がないなら作ればいい」モデル事務所150社落ちた先に生まれた“サイバー系専門モデル”とは?
(画像=『Workship MAGAZINE』より引用)

少年B:
話をうかがっているだけでも苦しくなります……。そんな八方塞がりの状態から、一体何が転機になったんでしょうか。

斎藤:
たとえば顔がきれいだとか、胸が大きいとか、そういうのは「人と違うから売れる」わけじゃないですか。でも、斜視だって人と違うのに、何でダメなんだろうって思ったんです。

少年B:
確かに……!

斎藤:
そこで「隠すんじゃなくて、これを活かすことはできないか?」と考えました。最初にGoogleで「左右非対称 カッコいい」ってワードで検索してみました。すると、当時ちょうど放送されていた仮面ライダービルドの画像が上がってきたんです!

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(画像=▲仮面ライダービルド(出典:仮面ライダーWeb)、『Workship MAGAZINE』より引用)

斎藤:
ビルドは左右非対称で、顔の半分が赤くて、もう半分が青い。でもすごくカッコいいんですよ。「これだ!」と思って。

少年B:
子どもの頃の斎藤さんを救ってくれた仮面ライダーが、ふたたび助けてくれたんですね!

斎藤:
そうなんです! まさか人生で2度も仮面ライダーに助けられるとは思ってもいませんでした……!

「魅力がないなら作ればいい」モデル事務所150社落ちた先に生まれた“サイバー系専門モデル”とは?
(画像=▲仮面ライダービルドにヒントを得た、左右非対称の「サイボーグ」風メイク。、『Workship MAGAZINE』より引用)

斎藤:
そして、私は「サイボーグ」になることを思いつきました。

友達の主催したハロウィンパーティにこの格好で行ったところ、SNSに上がった写真がバズりまして。Facebookの友達の友達に、たまたまITメーカーの方がいまして、「展示会のブースに立ってみない?」と声がかかりました。

少年B:
そこで展示会のお仕事に繋がったんですね! 反響はいかがでしたか?

斎藤:
10万人規模の展示会だったんですが、多くのお客さまに足を止めていただけて、「これはいけるかもしれない」と思いました。

少年B:
初めて呼んでもらった展示会で、確かな手ごたえを掴んだんですね!

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(画像=▲初めての「サイバー系モデル」のお仕事の様子。電機メーカーとの繋がりを作ってくれたモデルの友人と共にサイボーグ姿でブースに立った。衣装やパーツは全て斎藤さんの手作り。、『Workship MAGAZINE』より引用)

サイバーモデルには「選択肢がある」

少年B:
そういえば、斎藤さんは衣装もほとんどご自身で作られているんですよね。

斎藤:
はい。服は海外のブランドからご提供いただいてるものもあるんですが、8割ぐらいは自分で作っていますね。

「魅力がないなら作ればいい」モデル事務所150社落ちた先に生まれた“サイバー系専門モデル”とは?
(画像=▲衣装やアクセサリーも8割は自分で作るという、『Workship MAGAZINE』より引用)

少年B:
美大で学んだ技術が活きたのでしょうか?

斎藤:
そうですね。美大では造形も一通り学んだので、そこで培ったものは役に立っています。もちろん、当時はサイバーモデルになるなんて考えもしませんでしたが……(笑)

当時は吃音でお芝居ができないからとモノづくりに進んだのですが、その経験があってこそのサイバーモデル活動なので、無駄なことなんてないんだなぁと思っています。

「魅力がないなら作ればいい」モデル事務所150社落ちた先に生まれた“サイバー系専門モデル”とは?
(画像=『Workship MAGAZINE』より引用)

少年B:
ほかのモデルさんと違う、サイバーモデルならではの楽しさはどういうところですか?

斎藤:
普通のモデルはどうしても「美しい人が有利」ですが、サイバーモデルなら特殊メイクやパーツの付け替えで無限のコーディネートができます。つまり、自分にあったコーディネートやメイクを見つけやすいんです。

私の斜視もそうですが、普通のメイクをしたら似合わないような人でも、サイバーモデルならプラスに転換できるなと思っています。

「魅力がないなら作ればいい」モデル事務所150社落ちた先に生まれた“サイバー系専門モデル”とは?
(画像=▲衣装もひとつではなく、無数のパターンを時と場合によって使い分けている、『Workship MAGAZINE』より引用)

少年B:
マイナスをプラスにできるのってすごくいいですね!

斎藤:
はい。マイナス要素にとらえられがちな特徴って、どうしても「隠す」方向に行きがちなんですよね。でも、たとえば大きなほくろがあるなら、それを起動スイッチにすればいい。そういうことができるのが、サイバーパンクの世界観だと思っています。

もちろん、嫌だったら隠してもいいんです。でも、「活かす選択肢があるけど選ばなかった」のと「隠すしか方法がない」のは違うと思っていて。

少年B:
ちゃんと選択肢があるということですね。すごく希望の持てる話だと思います!

「魅力がないなら作ればいい」モデル事務所150社落ちた先に生まれた“サイバー系専門モデル”とは?
(画像=『Workship MAGAZINE』より引用)

斎藤:
あとは、例えば普通のモデルやグラビアアイドルだとSNSでフォロワー1万人越えの人なんてゴロゴロいるんです。でもサイバー系に振り切っている人は日本ではまだまだ少なく、ここなら私程度でも中堅クラスにはなれるので、そういう面白さはありますね。

私は胸は小さいし、顔が特別綺麗なわけでもない。年齢ももう30代半ばです。そんな私でもオファーを頂けているのは、やはり競合相手のいない「サイバー系専門のモデル」だからだと思います。

「魅力がないなら作ればいい」モデル事務所150社落ちた先に生まれた“サイバー系専門モデル”とは?
(画像=▲「サイボーグ」でGoogle画像検索すると、3列目に登場。自他共に認めるサイボーグだ、『Workship MAGAZINE』より引用)

斎藤:
顔やスタイルに関しては、もちろん本人の努力もありますが、先天的な部分が大きいですよね。でも、生まれ持ったものがなくても、こういう装備や衣装によって自分で魅力を作っていくことができる。それがやっぱり楽しいですね。

将来的には普通のオーディションで受からなかった子たちを集めて、みんなでサイバーな衣装を着て写真集作って、Amazonランキングで1位を取れたらいいなと思っています。「自分たちで工夫すれば、こうやって魅力を作っていけるんだぞ」って伝えたいです。