国の改正健康増進法と東京都の受動喫煙防止条例の“ダブル規制”によって、今年4月からあらゆる施設で「原則屋内禁煙」が義務づけられる。

学校や病院、行政機関の庁舎など、子供や患者が多く訪れるような「第一種施設」は、施設内が全面禁煙。より禁煙ルールが厳格化されることになるが、問題は、その他大勢の人が訪れる「第二種施設」。なかでも、規制強化の影響をもっとも受けそうなのが飲食店だ。

小さい飲食店は“客離れ”覚悟?

客席面積が100平方メートル以下の店については、これまで通り席で飲食しながらたばこが吸える“経過措置”が設けられているが、東京都の場合、あくまで従業員(家族も含む)を雇っていない小規模店に限られる。そのため、バーやスナックといった喫煙客が多い業態も、その大半が店内禁煙を迫られることになる。

店の一角にたばこを吸う目的だけの「喫煙専用ルーム」をつくれば規制はクリアできるが、喫煙ルームの設置には、煙の流れや排気に関する基準が定められており、投資コストもかさむため、導入に踏み切れないでいる店も多い。

かといって、思い切って店内を全面禁煙にすれば、喫煙客はわざわざ店を出てほかの喫煙所を探さなければならなくなる上、滞在時間が短くなれば客単価にも響いてくるはずだ。「(禁煙にすれば)当面の間、客離れや売上減は覚悟しなければならない」(都内焼き鳥店の店主)と飲食業界の現場は苦しい選択を迫られている。
 

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(画像=PIXTA、Foodist Mediaより引用)

混乱は雀荘にも…「廃業の可能性」4割

混乱しているのは飲食店だけではない。たばこを吸いながら遊戯する人のイメージが強い麻雀(マージャン)店も第二種施設に該当するが、喫煙規制の強化がまさに死活問題となっている。東京都麻雀業協同組合の高橋常幸理事長が嘆く。

「いま都内の麻雀店はおよそ900店ありますが、ピーク時の10分の1以下まで激減しています。認知症予防も兼ねて年配の人たちが昼間に“飲まない・吸わない”で対局する『健康マージャン』が再びブームになっているものの、主要顧客は仕事帰りの夜に打ちにくるサラリーマン。ところが、最近は“付き合い”でも麻雀をする人が減ってきたので、業界全体の市場が落ち込んでいます。

もともと麻雀は嗜好性の強いゲームで、ストレス解消や気分転換になりますし、お酒を飲んだりたばこを吸ったりしながら楽しめる店舗スタイルが主流です。4月からの喫煙規制によって『たばこが吸えないなら、もうやらない』というお客さんがますます増えたら、店を畳まなければならない小規模店が次々と出てくると思います」

事実、飲食業態のバーやスナックなどと同じように、「たばこが吸えない雀荘なんて……」と失望する愛煙家の声もあちこちから聞こえてくる。

麻雀業協同組合が都内の麻雀店150店を対象に行ったアンケート調査によると、顧客の喫煙率は62%と、やはりたばこと麻雀の親和性の高さがうかがえる結果が出たが、深刻なのは「(法・条例施行後に)客が減った場合、廃業の可能性がある」と答えた店舗が42%にも及んだことだ。

「すでに今年に入ってからクローズしてしまった店も結構あります。もともと麻雀人口の減少でお客さんも減っていたところに、店内禁煙の義務化ですからね。喫煙ルームを設置したくても、日々ギリギリの経営で新たな投資をかけられない店は多い。『(店を閉める)いい潮時かも』なんて話すオーナーさんもいます」(前出・高橋氏)

もちろん、受動喫煙問題の高まりや喫煙率の低下を捉えて早めに対策を打ってきた麻雀店もある。じつは高橋氏も自身が経営する店舗は2010年のオープン時から“全卓禁煙”を掲げてきた。

「私の店は競技大会や麻雀教室を開く場所としてオープンした経緯もあって、よりゲーム性を追求した店づくりを目指して禁煙にしました。喫煙者のために店の外に灰皿を置いていたのですが、それでも、『たばこが吸えないなら』と帰られるお客さんもたくさんいます」(高橋氏)
 

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時代の流れ 分煙・食事に力を入れる店舗も

また、社会の趨勢をいち早く捉えて「フロア分煙」および「フロア内分煙」を徹底してきた店もある。赤坂(港区)にある『麻雀ラウンジ ぷろす』だ。1階の看板に書かれている“分煙はじめました”の文字が目に留まる。「フロア分煙」は文字通りフロアごとに禁煙フロア、喫煙可能フロアに分けたものだが、『ぷろす』では、喫煙可能フロアでもさらに分煙しているのだ。

フロア内分煙といっても、衝立やエアカーテンなどでの簡易的な仕切りとは訳が違う。禁煙3卓、喫煙6卓という卓の間は煙が一切漏れないガラス壁面によって仕切られている。また、喫煙エリアにはビルの空調システムのほか、約100平方メートルの広さでも除菌・消臭が可能という巨大な空気清浄機を設置したり、扇風機を何台も回して煙の流れをコントロールするほどの念の入れようだ。

『ぷろす』オーナーの倉持聡氏が話す。

「麻雀店というと、喫煙しながら遊びたい人が多いイメージがありますが、じつはたばこの煙が苦手な人も多いんです。そういう人たちにもしっかりとしたサービスをしたいという思いで2014年のオープン時にフロアを改装して分煙を実施してきました。空港ラウンジのように居心地のよいスペースを提供することで、他店との差別化にもつながりますしね」

それだけではない。『ぷろす』にはなんと専任シェフがおり、出来たての食事やつまみ、酒類を注文することができる。これも“選ばれる麻雀店”を目指してきた同店の大きな特徴となっている。

「会社帰りに別の場所で食事をしてから雀荘に来ると、どうしても遊戯の開始時間が遅くなってしまいますよね。でも、美味しい食事を用意しておけば、早くからお客さんが来てくれますし、長時間滞在していただければ店の経営的にも助かります。だから、一般の飲食店より原価率を上げて、食事にも手を抜かないようにしています」(倉持氏)
 

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徹底した分煙策、こだわりの食事で多くの常連客を獲得してきたわけだが、そんな麻雀店の経営努力も、4月からの喫煙規制強化が重くのしかかる。

「分煙については、これまで決められたルールの中で最善策を取って非喫煙者のお客さんでもくつろげる店を作ってきたのに、法律が改正されたからといって急に営業スタイルを変えてくださいと言われても……。最初から喫煙ルールの“ゴール地点”を教えてくれれば、先手で違った対策も打てたのに、とつくづく思います」(同前)

東京都麻雀業協同組合の高橋理事長は、業界を代表してこう主張している。

「麻雀業界は今後、たばこの煙がモクモクの“ギャンブルっぽい”古いイメージから決別していく必要がありますし、お店も年配層だけでなく新しい客層にシフトチェンジさせていく努力をしなければならないでしょう。でも、時間帯によって禁煙卓を設けたり、フロア内で分煙や禁煙を推進してきた店もあり、そういう店は喫煙者も非喫煙者も自らの判断で訪れて遊戯していました。そうした現場の声をまったく考慮せずに法案だけが進んでしまったことは残念です」

喫煙規制の強化でこれ以上、麻雀店が減ってしまったら、純粋にゲームを楽しんだり仲間内とのコミュニケーションの場として発展してきた「麻雀文化」そのものの衰退も避けられない情勢といえる。

文・『Foodist Media』編集部/提供元・Foodist Media

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