子どものMBAの費用を支払う親の割合が増加しているようだ。フィナンシャルタイムズ紙2018年2月18日付記事によると、2009年は15%だった割合が、2014年には22%に増えているとのこと。こうした傾向は特に東・東南アジアで強く見られ、3分の1の生徒が親に学費を支払ってもらっているという。
なかには、子どもに「ビジネスエリートのパスポート」をあたえるために「自分たちの家を売った」という親もいる。また欧米で需要の高い、MBAの入学プロセスをサポートする「入学コンサルタント」を訪れる親も、年々増えているそうだ。
ハーバード大学など名門校が人気の火付け役?
経営大学院で通常1~2年学ぶことで取得できるMBA(経営学修士)。近年「ビジネスエリートの称号」のようなイメージが定着しているが、その歴史は1900年までさかのぼる。ダートマス大学がニューハンプシャー州に設立したTuckビジネススクールが、米国初の経営大学院とされている(MBA Todayより)。
その後ハーバード大学やスタンフォード大学、イェール大学といった名門校が次々と独自のMBAを設立し、世界中から海を越え学生が集まるようになった。MBAを取得できる分野は各校によって異なるが、会計、金融、経済、経営、マーケティングなどさまざまだ。各分野で必要な知識を学びつつ、トップに立って組織を率いる能力を身につけることを目的としている。
MBAが「エリートへのパスポート」であるならば、学費が高額なのも頷ける。しかし受講料を納める側にとっては、経済的に大きな負担となる。受講料、教材費、生活費だけではなく、既に仕事をしている場合はまとまった時間仕事を休む、あるいは退職する必要がある。
MBAを取得したいが、5割が「学費のためのお金を十分にもっていない」
それでは実際にどれぐらい費用が必要なのか。ハーバード経営大学のMBAコース を例に挙げると、年間の受講料だけで7.3万ドル。これに教材費や保険料、自宅から通学しないのであれば寮費や生活費が加算され、総額11万ドル(約1172万ドル)に跳ね上がる。2年コースならばこの2倍支払う必要がある。誰もがすんなりと用意できる金額ではない。
米金融会社金融企業GMACが、MBA取得に興味のある1.1万人の生徒を対象に実施した調査 では、受講を始める不安材料として52%が「学費のためのお金を十分にもっていない」、47%が「(当初予定していたよりも)多額の融資を受ける必要があるかも知れない」と答えている。
全日制の学生の資金源としては助成金の利用が増加傾向にあり(30%)、融資(24%)や貯蓄(21%)、親からの援助(16%)は徐々に減っているものの、その傾向は地域によって大きく異なる。
東・東南アジアは唯一、親からの援助(33%)が助成金(24%)や融資(23%)を上回る地域だ。4人に1人が自分の貯蓄を資金源にしている米国と比べると、親からの援助を当てにしている生徒の割合は3倍にもおよぶ。
「MBAが何かすら理解していない」にも関わらず、娘のために自宅を売った親
イリノイ大学アーバナ・シャンペーン校でMBAを取得後、プールや水質管理の器機を扱う事業を経営しているインドネシアのとある親は、環境コンサルタントをしていた息子のキャリアアップのために学費を出したひとりだ。
「学問は人生に大きな恩恵をもたらす」として、WHUビジネススクール(ドイツ)のMBAコース費用4.7万ユーロ(約617万円)を支払ったという。裕福な層に属するこれらの親にとっては、経済的に負担の少ない「投資」なのだろう。
しかしすべての親が経済的に余裕があるというわけではない。スペインのIESEに娘を進ませるために、「自分たちの家を売った」という中国の親もいる。この娘は北京のTechスタートアップでキャリアを積んでいたものの、「生活できないぐらい低い給料」に嫌気がさし、キャリアアップの手段としてMBA取得を決意した。
IESEのMBAコース受講料は8.8万ユーロ。親は「裕福ではなく、貯蓄もなかった」ため、小さな家に移り住むことで受講料を捻出した。「両親はMBAが何かすら理解していないだろうが、自分が正しいと思う道を進むよう支援してくれている」と、娘は語っている。
子どもより親が「MBA」という肩書に弱い?
これらの事例を見ていると、子どもよりも親の方が「MBA」や「キャリアアップ」「エリート」という言葉に強く反応する印象を受ける。
特に欧米では、MBA専用の「入学コンサルタント」の需要も高い。「入学コンサルタント」とは、希望経営大学の情報提供から提出する書類やエッセーなどのチェックなど、入学準備を総合的にサポートするサービスだ。
米国の入学コンサルタント企業ノース・スター・アドミッションズ・コンサルティング のカレン・マークス社長は、MBAの人気が高くなるにつれ、「子どもが希望校に入れないのではないかと心配する親」が続々と相談に訪れているという。子どもの社会的成功を願う親の気持ちは世界共通だが、これらの親はそうした気持ちが人一倍強いということなのだろう。
ある母親は子どもをハーバード経営大学とスタンフォード大学経営大学院のMBAコースに進ませるために、入学コンサルタントに1.4万ドルを支払ったという。この母親いわく、1.4万ドルは「投資」である。
別の母親は投資銀行に勤めていた息子のMBAコース費用を全額支払ったが、その額は6桁台に達していたそうだ。「親が経済的に余裕があるのなら、子どもにMBAを取得させるべき」と主張している。
成人した子どもへの経済的援助に関しては様々な意見が聞かれるが、MBAは「援助」ではなく教育の延長線上にある「投資」だといわれれば、確かにそうである。しかしMBAに限らず、マイホームや車の購入、果ては毎月の生活費を親に「援助」あるいは「投資」してもらっている所帯持ちも増加傾向にあるという。どこまでが援助でどこまでが投資か—その境界性は、実はかなり曖昧なのかも知れない。
文・アレン・琴子(英国在住フリーランスライター)
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