フォルクスワーゲンから、ラインアップ中最も小型のSUV「T-Cross(ティークロス)」が2019年11月にデビューした。早速試乗の機会があったのでお伝えしよう。

おすすめな1台

最もコンパクトなサイズのSUVは、全長4115mm、全幅1760mm、全高1580mm、ホイールベース2550mmで、同じBセグメントサイズのポロよりわずかに全長が長い大きさだ。搭載するエンジンは999ccの3気筒ガソリンターボエンジンに7速DSG(乾式)を組み合わせている。
 

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Bセグメントサイズでポロよりわずかに全長が長い(画像=AUTO PROVE)

導入モデルは2グレード展開で導入記念の「TSI 1st」と「TSI 1st Plus」で、装備違いの設定になっている。また共にFFモデルのみでエンジンも共通、TSI 1stが299万9000円、TSI 1st Plus」が335万9000円と300万円を切る価格設定も戦略的だ。

試乗車はTSI 1st Plusで、装備はフル装備。特に安全装備も充実しており、パークアシスト機能や全車速追従機能付きACCなども標準装備しているモデル。試乗エリアは山中湖周辺の一般道路で、市街地、ワインディング、高速道路で試乗できた。

乗降しやすいSUV

シートに座って最初に感じるのが視界の良さだ。ポロのドラポジをそのまま高くなったような印象で、アップライトのドライビングポジション。フロントのウインドウ越しには、ワイパーも見えず視界を遮るものが全くない。クリアな視界が確保されている。さらに、シートリフターでボンネットが見える高さ、見えない高さなどに自在に調整ができ、そしてチルトステアとテレスコピックも備えているあたりは、Bセグメントの量販モデルであってもドイツ生まれであることを感じさせる。
 

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乗降性が非常にいい、ちょうどいい高さにシート位置がくる(画像=AUTO PROVE)

シートはこれまでのドイツ車のイメージと異なりソフトだった。硬質なシートがドイツ車に共通するイメージだが、T-クロスのシートは柔らかく座り心地はいい。それと、車高が高いので、乗り込みのしやすさを感じた。運転席に座る時、乗用車のように乗り込む感じではなく、スッと体を捻って腰掛ける動きで座ることができ、乗降性はとてもいい。当然、助手席も同様だし、後席も乗り込みやすい。
 

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このクラスでは珍しくアンビエントライトも装備される(画像=AUTO PROVE)

インテリアでは、このクラスでは珍しくアンビエントライトも装備され、豪華さもあるインテリアだ。メーターは2眼タイプで慣れ親しんだメーターは見やすい。そのメーターパネルとおなじ目線の高さのまま左へ視線を動かすとナビ画面になっていて、視線移動が少ないのは安全面でも好ましい。ナビはデフォルトで地図情報があるディスカーバープロを搭載し、またスマホと連動しオンライン情報が得られるフォルクワーゲンカーネットも搭載している。

ワインディングでも自然な操舵フィール

走り出すと、乗り心地がマイルドなのが意外だった。ポロは非常にしっかり感と硬質な乗り味が特徴で、そこには几帳面なキャラクターを感じるものだが、このT-クロスはもう少し全体にマイルドで、これまでのフォルクワーゲンより穏やかな印象を受ける。
 

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操舵は軽く運転しやすい。ワインディング、高速、駐車場どんな場面でも自然に操作できる(画像=AUTO PROVE)

特にハンドルの操舵フィールもこれまでのフォルクスワーゲンとは異なっていた。これまでは直進の座りはしっかりとしているものの、切り始めの最初のところでは重さを感じるのがフォルクスワーゲンの特徴でもあった。言い換えれば直進の座りを強く出していたのだが、このT-クロスはその切り始めで少しの力も必要とせず、スッと切り出せる。そしてハンドルの重さも軽く、ワインディングでステアリング操舵に気を使うことなく、無意識にステアできる。だから、駐車場での切り返しや交差点の右左折などでもこの軽さが絶妙だ。

乗り心地もポロに乗るとしっかり感と同時にボディの剛性感を感じるものだが、T-クロスではボディの剛性を感じながら、しなやかな乗り心地に満足度が高い。とくにハーシュネスでもうまくカドをとったように丸く入力される。それでいて、ロールやピッチは小さく、だれもが運転しやすいと感じることだろう。

エンジンは1.0Lの3気筒ターボなので、エンジン音には期待しないが、そこも期待以上の音がする。もちろん、スポーティで湧き立つような類ではないものの、聞いていて不快に感じるどころか、かえって「意外といい音だ」と言えるサウンドを出していた。
 

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ボディサイドに走る2本のプレスラインはフォルクスワーゲンらしい印象(画像=AUTO PROVE)
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SUVを強調する力強いフロントフェイス(画像=AUTO PROVE)

市街地と高速走行も力強く走る

高速道路では静粛性も高く、不満はない。ACCも全車速対応なので、渋滞時も相当疲労軽減される。直進の安定性は言うまでもなくしっかりとしており、安心感は高い。だからこれまでのフォルクスワーゲンとはずいぶんと異なる味付けになっていると感じ、これはいい方向に進化したと思う。

市街地ではやはり視界の良さと、シートの座り心地、サスペンションの動きがいいと感じる場面が多い。つまりダイナミック性能全般でレベルが高く、気持ち良さと安心感のある優れた1台と言えるだろう。
 

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スモールSUVとは思えない後席のスペースがある(画像=AUTO PROVE)

また、居住空間では、特に後席のリヤウインドウはトリムまで全開に開けることが可能で、閉塞感がない。そしてBセグメントサイズでありながら大人4人が十分に乗れるだけの広さを確保してあり、これも高評価できるポイントだ。

DSGに関しては乾式のクラッチのため、発進時にもたつきがあるかと思いきや、かなり上手に制御されているので、発進がワンテンポ遅れるようなこともなかった。アイドリングストップからの再始動、発進という時でもAT車ほどではないにしろ、気になるような反応遅れではない。
 

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1.0Lの3気筒ガソリンターボを搭載。とてもリッターカーとは思えない走りが可能(画像=AUTO PROVE)

エンジンは1.0Lなのに、2000rpmから最大トルクを発揮する制御なので、力不足は微塵も感じない。出力は85kW(116ps)で200Nmを2000-3500rpmで発揮し、実に乗りやすいのだ。ちなみに、自動車税も安くなるメリットがあり、おなじエンジンを積むポロは70kW(95ps)175Nmというスペックになっている。

使い勝手

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通常のシート位置でのトランクスペース。リヤシートは140mmスライドする(画像=AUTO PROVE)

T-クロスの特徴の一つに使い勝手がある。Bセグメントサイズではあるが、積載容量はたっぷりある。通常のシートポジションでは385Lで、リヤシートが最大14cmスライドできるので、455Lまで拡大する。さらにシートは2分割で倒すことができるが、シートを畳めば1281Lまで拡大し、クラストップレベルの積載容量を誇っている。
 

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7:3で分割しトランクスルー。リヤシートがスライドするので、大容量スペースが生まれる(画像=AUTO PROVE)

またUSBのソケットも全部で4箇所設置してあり、日常の実用車の一面と、レジャーを含めたアクティブな使い方にも柔軟に対応できるラゲッジルームは使い勝手がいい。

エクステリアはスクエアな印象で、これはフォルクスワーゲンらしいデザインと言えるかもしれない。存在感や遊び心を持ったSUVという印象で、あらゆる年代、男女を問わずにおすすめできる一台だ。<レポート:高橋明/Akira Takahashi>
 

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TSI 1st Plusはボディと同色のホイール、ミラー、シートのカラーコーディネイトが可能(画像=AUTO PROVE)
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メーターは2眼式。中央は液晶で文字情報など表示される(画像=AUTO PROVE)
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タッチパネルのナビはディスカーバープロを搭載し、スマホ連動も可能(画像=AUTO PROVE)
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奇を衒うことなく、オーソドックスにSUVを表現しながらVWであることをひと目でわからせる(画像=AUTO PROVE)

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