ITを積極的に活用したスマートレストランを運営する株式会社ウェリコ。今年5月に1号店となる『Collina(コリーナ)※Spicely(スパイスリー)として11月にリニューアル』を渋谷にオープン、9月には2号店『Fiore(フィオーレ)』を同じく渋谷のセンター街にオープンさせた。

スマホ一台で注文から会計まで完結するこの“スマートレストラン”について、株式会社ウェリコのコンテンツマネージャー・石川甚恒氏に話を伺いながらレポートする。

テクノロジーの力で飲食業界の課題解決に挑む

センター街の一角に今年オープンしたばかりの商業施設「グランド東京渋谷」。この新しいビルの4階にピザダイニング『フィオーレ』はある。エレベーターで4階に上がり、開いたドアの先には、渋谷の中心地にあるとは思えないような自然の温もりを感じる空間が広がっている。

店舗のコンセプトは「花とピザ」。常に賑わう渋谷のイメージとは異なる落ち着く空間を提供したい……という思いから木に溢れた空間を目指したという内装は、その狙い通り、客に大都会の喧騒を忘れさせ居心地のよさを提供してくれる。
 

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緑溢れる空間づくりを意識し、内装のメインカラーもグリーンに(画像=Foodist Media)

「渋谷は新しいものが集まる、変化に柔軟な街。新しいことにどんどんトライできる土壌が、自分たちの事業スタイルに合っている」として、1号店『コリーナ』に続き、2号店『フィオーレ』を渋谷に構えたという石川氏。

日本のシリコンバレーともいわれるこの渋谷に注目したのは、運営元のウェリコがもともとWebアプリ開発やマーケティング、メディア運営事業を行うITベンチャー企業だということも起因している。飲食店の運営経験がないIT企業が、なぜ飲食店事業をスタートさせたのだろうか。

「IT事業をメインで行っていた当時、飲食店向けのサービスにも取り組んでいましたが、開発スピートが上がらないことに疑問を感じていました。その要因を探っていく中で、飲食店の運営経験のなさが、飲食店が抱える本当の問題を発見できない要因だと気づいたんです」

そこで、自分達で飲食店を経営して問題点を掴み、IT技術を使えるポイントを把握することで、開発スピードを上げることができるのではないかと考えたという。

「今、IoTが流行っているように、Web上でサービスを完結するこれまでの時代から、スマホをはじめとするデバイスとリアルが融合する時代に変わりつつあります。飲食業界は市場規模が大きいとはいえ、アナログスタイルが多く残っている市場です。ですが、今まさに変化を遂げている最中で、ゆくゆくは様々な場面でテクノロジーの力が活かされるようになっていきます。私たちはそのような未来を見据え、テクノロジーの力をどのように活かすことができるのか、それを確かめるために『コリーナ』『フィオーレ』をオープンしたのです」
 

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株式会社ウェリコのコンテンツマネージャー・石川甚恒氏(画像=Foodist Media)

ITベンチャーの強みを活かし、約3か月で独自システムを開発

飲食店にITシステムを導入するとなると、開発費用や構築期間、オペレーションの確立などの諸問題を理由に、安易に踏み込めないという店も多い。だが、ウェリコの場合、もともとIT企業としての人材や技術といった資本があるので、開発にかかった費用はほぼ人件費のみ。本社のエンジニアと外部業者を集めてチームを作り、結果、システム開発から導入までは3か月もかからなかった。そうして作り上げたシステムとは、どういうものなのか。ここで、実際に客としてサービスを利用しながら、システム内容を紹介していこう。

まず、来店して席に案内されると、Webアプリのバーコードや利用方法が掲載された伝票を渡される。このバーコードを自分のスマホで読み込み、Webアプリの注文ページへ接続。
 

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付与される来店番号が、いわゆる各客のIDとして認識される(画像=Foodist Media)

すると、『フィオーレ』の注文用ページがスマホに表示される。店にはバーがあり、アルコールも提供しているので、Webアプリ利用前に未成年の飲酒、飲酒運転などの禁止事項の確認が求められる。
 

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利用前に禁止事項を確認(画像=Foodist Media)

禁止事項を確認すると注文画面が開き、メニューを検索できるようになる。店のキッチンを担当するのは、『AWkitchen』の総料理長経験を持つ花輪翼シェフ。契約農家が作る野菜、そして市場で仕入れた新鮮な肉・魚を使ったこだわりのイタリアンフードが約30種、ドリンクはソフトドリンク・アルコールなど約50種が用意されている。

スマホに表示されるメニューページは、「フード」「ドリンク」の2カテゴリーに分かれており、フードは「温野菜」「自慢のピザ」「デザート」、ドリンクは「健康ソフトドリンク」「ビール」「サワー・ハイボール」といったタブが配置され、客のメニュー選びのストレスをできるだけ排除したナビゲーションが施されている。ちなみに、カフェタイム・バータイムの時間帯に合わせて、表示メニューの内容は変わるようになっている。
 

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こだわりのイタリアンフードが並ぶ(画像=Foodist Media)

数あるメニューの中でも、ピザが人気ということで、数種類の中からマルゲリータを選択。各メニューページには、メニュー選びの参考になるよう料理についての簡単な説明文も掲載されている。注文画面でサイズ(ハーフ、レギュラー)と個数を選び、注文を確定。
 

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使いやすいUIも魅力(画像=Foodist Media)

ここから、主に店側の業務がスタートする。客の注文が確定すると、店内のキッチンに設置されたiPadに注文情報が届くほか、各スタッフが着用しているApple Watchが反応して振動。このように注文や支払いなど、客がスマホで行うアクションはスタッフにすべて共有されるので、各アクションが見逃される心配はない。

料理が完成すると、ホールスタッフが料理を運ぶ。スマホの注文履歴画面は、「調理中」から「提供済」に変わり、料理の味を評価することができる。
 

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ボリュームもある、店自慢の「マルゲリータ」がテーブルに到着(画像=Foodist Media)

食べ終わった後の支払いは、「お会計」ページで確認。支払い方法は、現金、クレジットカードがあり、さらに一括支払いの「まとめて払い」、人数と金額を指定できる「割り勘」の2種類から選択できる。一部をカードで、その残額を現金で支払ったりすることができるなど、支払い方法についてはかなり融通がきく内容になっており、もちろん領収書の発行も可能だ。
 

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支払い画面では、支払い方法を選ぶことができる(画像=Foodist Media)

支払いのアクションが完了すると、現金払いの場合はスタッフが現金回収に、またカード支払いの場合は挨拶をしに客のテーブルにやって来る。これで、店の一連のサービスが終了する。

集めた顧客データを店づくりに活用

実際にシステムを利用して感じたのは、思った以上にスムーズだということ。WebアプリのUIがわかりやすくスマホの操作がしやすい点もそうだが、データでの情報のやり取りによって、客がリクエストした一連のアクションが的確、かつスピーディーに滞りなく進行されるスムーズさが、客のストレス軽減につながっているように感じる。

また、店側も各業務が完了する度、業務を担当したスタッフがiPad上で業務完了のチェックをするので、注文から提供、支払いまで効率よく業務を進めることができる。「タスクを分割して、今、自分が何をすべきかを明確化したタスク形式を採用していることが、仕事のしやすさにつながっている」と石川氏は言う。ほかにも、このシステムによって店が得られるメリットとしては、「リアルタイムで、デザインやコンテンツを変更できる」「顧客データの収集」などがあるという。
 

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スタッフは、店側の管理画面で業務進行状況を随時確認する(画像=Foodist Media)

「パソコンですぐにコンテンツを追加・変更できるので、例えば、ぜひ食べてもらいたい食材が入荷したら、時間限定のおすすめメニューとして提供したり、パスタや肉料理などのまとめて作った方が効率がよいメニューも、タイムセールキャンペーンとして売り出して注文を集め、調理の手間を省くといった効率化を図ることができます」

顧客データについては、来店回数やどんな料理を注文し、ドリンクを何杯飲んだかといった注文傾向などの情報を集計し、店づくりに役立てている。

「オープンして半年が経ち、顧客データが徐々に集まってきている状況です。得られたデータを基にシステムを改善し、ゆくゆくは手動で行っている作業を自動化していきたいと考えています」

業務効率化で空いた時間をいかに活用するかが大切

システム導入による業務効率化で、人を介する手間が減る分、客とのコミュケーションの在り方などの懸念点も出てくるだろう。この点について、「スマホ完結だからといって、スタッフが何もしなくていいわけではない」ということをスタッフに伝えているという石川氏。

「注文を聞く必要がなくなった分、好みを伺ったり、料理提供時の説明や出し方にひと工夫を加えるといった、人にしかできない部分を大事にして、お客様とのコミュニケーションをとるようにしています」

さらに、客との接点すべてが、必ずしも良質なコミュニケーションであるとは限らないことも理解した上で、コミュニケーションの重要性をスタッフ同士で共有している。例えば、客の利用する注文用Webアプリには、「お水」「取り皿」「ナイフ・フォーク」「その他の理由で呼ぶ」の4つの選択ボタンが設置された「呼び出し」ページがある。
 

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「呼び出し」ページ(画像=Foodist Media)

「呼び出し」が使われることは、客とのコミュニケーション機会の発生を意味するが、呼び出し回数は、客が気づいてもらえなくてストレスを感じていることを示す回数でもある。店では、この呼び出し回数をいかに減らせるかをスタッフ達成度の基準にしている。

「この店では、一般的な飲食店でやるようなことだけを行っていると暇になってしまいます。スマート化したことで空いた時間を何に使うか……という部分で、クリエイティビティを発揮できるのではないかと考えています。それが何なのかは店としても課題ですが、そこを追求していくことが、店の差別化要素になってくるのではないかと思います」
 

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広々とした空間は、パーティーやイベントの貸スペースとして利用可能(画像=Foodist Media)

柔軟性という自社の強みを武器に、今後の事業拡大を目指す

店周辺には複数の会社があることもあり、客層は近隣に勤める会社員が比較的多い。なかには、スマホ使用のスタイルを知らずに訪れる客もいるが、使い方はいたってシンプルなので、初めての客でも一度使えばすぐに慣れるという。

今ある各店舗を軌道にのせて、引き続き事業拡大を目指したいという石川氏。拡大にあたり、開発したシステムの販売やスマートレストランとしてほかの業態にチャレンジすることも視野に入れているという。

「作って、壊して、改善するスタイルが可能なテック企業なので、通常の飲食店のやり方にとらわれず、プラスになると思ったことをすぐに実行できるのが強みです。飲食業界は、色々な課題を抱えている業界だと思うので、それをテクノロジーの力で少しずつ変えていき、ほかの業態、国内外のほかのエリアでもお店を作っていきたいです」

変化に対応できる柔軟性、そしてこの確固たる志が、これからの時代を生き抜くためには必要不可欠と言えそうだ。

『Fiore(フィオーレ)』
住所/東京都渋谷区宇田川町33-1 グランド東京渋谷ビル4F
電話番号/050-7111-2122
営業時間/12:00~15:00、17:00~23:00
定休日/日曜
席数/160

文・河田早織/提供元・Foodist Media

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