「民間発」で地域を盛り上げる方法とは?

築地といえば全国的にも「市場の街」として知られ、市場移転後の動向については都民以外の関心も高い。そんな中、築地に拠点を構えるイベント会社・ビックウエストは、築地場外市場を活性化させるためのプロジェクトを立ち上げた。自治体発ではなく、「自分たちで勝手に築地を盛り上げようと始めた」というその活動とはどのようなものか。地方創生にも大いに参考になり得るお話をうかがった。(取材・構成=前田はるみ、写真撮影=まるやゆういち)

築地のイベント会社が地元愛で勝手に動いた

市場移転に揺れた築地で、移転後の築地場外市場を活性化させるためのプロジェクトを立ち上げた会社がある。築地に拠点を構えるイベント会社、ビックウエストだ。通常、地域活性化事業は、自治体が予算を確保するケースが一般的だが、このプロジェクトは「誰かに頼まれたわけでもなく、自分たちで勝手に築地を盛り上げようと始めた」という点で大変ユニークである。プロジェクトを立ち上げた理由について、同社社長の大西裕樹氏にうかがった。

「僕は築地が好きで、このエリアに会社を移して7年になります。イベント業という職業柄、時には残業や徹夜をすることもあり、そんなときは仕事帰りに若い社員たちと築地で乾杯するのが何よりの楽しみでした。当時、飲食店の店主と話をすると、『市場が移転すれば築地はどうなるかわからない。俺はもういい年だから、店を閉める潮時かもしれない』と漏らす人もいました。僕らが好きで通っていた場所がなくなっていくのは寂しい。築地のイベント会社として何かできることはないかと考え、『TSUKIJI HAKONIWA PROJECT』を立ち上げたのです」

「自社発で盛り上げる」ことにこそ意義がある

とはいえ、このプロジェクトにはクライアントが存在するわけではない。受託業務が生業のイベント会社が、「自分たちで勝手に盛り上げる」ことにこだわる理由は何なのだろうか。

「僕が30代前半でこの会社を立ち上げたのは、新しい時代のイベント会社を作りたかったからです。若い力を取り入れるために早くから新卒採用を行ない、彼らが生き生きと働ける会社を目指してきました。 ただ、受注業務に取り組む中で売上げ重視の傾向が強くなっていくと、社員の笑顔は曇っていきます。人々の笑顔を増やす『顔晴(がんば)らせるパートナー』を企業理念に掲げている僕らが、腹の底から笑えないのはおかしいと気づいたのです。『仕事だからやらなきゃいけない』ではなく、自分たちが本当にやりたいことを自社発信しながら、世の中の役に立ちたい。この考えを社員に伝えると、皆、共感してくれました。2018年の年明けから、通常業務と並行してプロジェクトを始めたのです」

地元に溶け込み地元を味方につける

築地場外市場をどのように盛り上げていくのか。大西氏らがまず取り組んだのは、プロジェクトの活動拠点として飲食店を場外市場にオープンすることだった。イベント運営が本業の同社では、当然飲食店経営は素人だ。にもかかわらずいきなり自分たちの店を開いたのは、それがプロジェクトの成功に不可欠だと考えたからだ。

「築地に会社があるとはいえ、場外市場からすれば〝外野〟の我々が、何を提案しても誰も耳を傾けてもらえません。一緒に場外市場を盛り上げていくためには、自分たちも同じ立場に立つ必要があると考えたのです。 店を持つなんて思い切ったね、とよく言われます(笑)。我々も場外市場のステークホルダーになったことで、地元の人たちとのコミュニケーションが取りやすくなりました。地元が主催するイベントに『一緒にやらないか』と声をかけられたり、相談を持ちかけられたりすることも増えています」

外から入ってきたからこそ、地元の人たちにはなかった新たな視点や発想が強みでもある。

「従来は場内市場に合わせて明け方から店を開け、午後2時頃には店を閉める飲食店が大半でした。しかし、市場が移転し、場外市場だけで人を呼び込んでいくには、時間軸を変えていかなければなりません。築地は銀座や汐留にも近く、新しい商圏としてのポテンシャルも高い。夜の築地をもっと盛り上げていくために、我々は夜を中心に営業する店を出したのです」

築地は外国人など観光客が多く訪れるエリアだが、大西氏らがまずターゲットに選んだのは、地元の子供たちだった。

「まずは地元に住む人たちが場外市場を好きにならなければ、このプロジェクトは長続きしないし、外部からも人は来てくれないと思ったからです。そこで近隣の小学校にお声がけをし、お父さんやお母さんが場外市場で働いているという小学生を場外市場に案内する『築地場外市場サポーターズツアー』を開催しています。地元で育ちながら、場外市場で買い物した経験のないお子さんは意外に多いんです。外国人観光客に交じって買い物したり、食事したりする経験は、お子さんにも親御さんにも好評です」

地域活性は誰が中心で進めるのかが課題

地域の魅力をPRし、観光客や移住者を増やしたい地方自治体は多い。しかし、そうした自治体が直面するのは、「中心になってプロジェクトを推進する人がいない」という問題である。

「地域に人を呼ぶために何かしたくても、誰がどう進めていくのかはどの地域でも課題なのではないでしょうか。我々は築地が好きで、自分たちがやりたいと思ったから勝手に始めました。この『やりたいからやる』ことが実はとても重要だと感じています。これがもし、『築地を盛り上げるためにイベントを企画してほしい』と依頼されたとしたら、クライアントありきの仕事になって、我々のやりたいことではなくなっていたでしょう。 例えば、町を盛り上げるために、地元の小学生がその町の魅力をポスターに描き、中学生がPRする。自分たちが中心となって発信することが重要で、その町に住む人の顔が町のブランドになると一番いいのではないかと個人的には思います」

地方自治体の予算の使い方にも「もったいないケースが多い」と大西氏は指摘する。

「地域活性化のための予算があっても、その町を元気にしたいと考える地元の人たちが使えているかというと、疑問です。承認を受けるための時間と労力がかかるため、結局は自分たちでお金を持ち寄って活動しているのが現実です。もう少し低い垣根で活用できて、町を元気にする活動に直結する財源にしていく必要があると思います。我々も、本来なら中央区の財源を使って、このプロジェクトを持続可能にするための施策を打ちたかったのですが、承認に時間がかかりそうだったので、自分たちで勝手にやることにしました」

そこで4月から始めたのが、「あなたの1杯が築地を元気にします」をキーメッセージに、ビールを飲んで乾杯するだけでこのプロジェクトを応援できる「築地乾杯サポーター」である。

「東京のクラフトビール工場と組んで、『築地クラフト』というオリジナルビールを作りました。場外市場の飲食店で注文すると、金額の一部がプロジェクトの運営費用に充てられる仕組みです。できるだけ多くの飲食店や利用者の方々に賛同いただき、継続的に築地を盛り上げていくための基盤を作れればと思います」

仕事の2割は自分で心からやりたいことを

「自分たちのやりたいことをやって、世の中の役に立つ」という仕事のやり方は、若い社員のモチベーションアップにもつながっていると大西氏は話す。

「自分たちが独自で立ち上げるプロジェクトは、当社では今回が初めてです。自分たちで考えてデザインしたポスターが、そのまま世の中に出て行く。そういった成功体験をいくつも重ねていくことが、若い社員のやる気につながっていると感じます」

「やらなければいけない仕事」が8割に対し、「やりたい仕事」が2割。このバランスが重要だということだ。

「このバランスを保つことで、楽しみながら仕事に取り組むことができるし、一人ひとりのスキルアップにもつながります。自分がやりたいことをどうやって仕事にしていくのか、その感覚を常に持ちながら仕事をしてほしいと思いますね。 正直なところ、このプロジェクトをマネタイズさせることは容易ではありませんが、社員のやりがいを高めるためにも大切な仕事だと感じています」

<『THE21』2019年7月号より>

大西裕樹(おおにし・ひろき)
株式会社ビックウエスト代表取締役社長
1977年、群馬県生まれ。東京都育ち。学生の頃から自主イベントを立ち上げ、大学卒業後はイベント会社に就職。2010年にビックウエスト設立。2年後には築地エリアに本社を移転し、以来エリア内で3度引っ越しするほど築地が好き。早くから新卒採用を実施し、若い人が活躍できるフラットな組織を目指している。寿退社以外では離職者ゼロが自慢。(『THE21オンライン』2019年07月16日 公開)

文・前田はるみ/提供元・THE21オンライン

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