IPOに当選した場合、初値が決まる瞬間を緊張して待つことになるが、初値の決まり方を正確に理解している人は少ないのではないだろうか。IPOの初値は、最初の市場価格である。市場の需給を反映させる必要があるIPOの初値について、決まり方について解説する。
IPOの初値の決まり方は「板寄せ」と「特別気配」に注目
株価は需要と供給のバランスにより決定される。これはIPOでも変わらない。株式では、寄付時に始値を決める場合、「板寄せ方式」と呼ばれる方法が用いられるが、IPOで初値を決める場合も同様だ。IPOの初値は、板寄せ方式による需給のすり合わせで決められる。
IPOにおける板寄せは、「特別気配」という枠組みの中で行われるケースが大半だ。これは投資家保護の観点から、急激な価格変動を避けるためのルールであり、IPOの初値形成を語るうえで、非常に重要な要素となる。
IPOの初値の決まり方を理解するためには、この「板寄せ方式」と「特別気配」について正しく理解することが重要なのだ。
IPOの初値が板寄せ方式で決まるための3つの条件
「板寄せ方式」は、株式市場での売買成立方法の一つであり、売り注文と買い注文が交錯している状況から、最も多く約定する値段を決めていく方法である。
板寄せ方式によって売買を成立させるためには、次の3つの条件を満たす必要がある。
⑴成行注文が全て約定する\
⑵約定価格より高い売り注文と買い注文が全て約定する\
⑶約定価格において、売り注文または買い注文のいずれか一方が全て約定し、他方が単元株以上約定する
IPOにおいても、売り注文と買い注文が交錯している状況から初値を決めていく必要があり、板寄せ方式が用いられ、⑴~⑶の全てを満たす価格が初値となる。板寄せ方式には時間の概念がなく、初値決定までの間に出された全ての売買注文が対象となる。
なお、株式市場での売買成立方法には板寄せ方式のほかに、「ザラ場方式」がある。これは価格優先、時間優先の原則に従い、合致したものから約定させる方法だ。
IPOの初値を決定するときのオペレーション
IPOの初値は板寄せ方式により決定されるが、株式市場では投資家保護の観点から、急激な価格変動を避けるためのルールも設けられている。IPOにおいては、公募価格が基準となり、そこからの急激な価格変動を避けることが目的となる。
IPOの初値形成においては、まず次のようなオペレーションが行われる。
⑴公募価格を板の中心とし、「気配の更新値幅」内で価格決定が可能かどうかを確認する\
⑵価格決定が可能な場合は、即時に初値が決定\
⑶価格決定が不可能な場合は、「特別気配」の運用へ
「気配の更新値幅」とは、基準となる価格からの上下動の幅である。証券取引所によって定められており、価格帯によって異なるが、おおむね基準となる価格から上下数%以内となる。例えば、東京証券取引所で公募価格が1,000円のIPOがあった場合、気配の更新値幅は上下30円以内、970~1,030円となる。
板寄せを行い、気配の更新値幅内で価格決定ができる場合は、その価格が初値となる。反対に、気配の更新値幅内で板寄せの価格決定条件を満たせない場合には、急激な価格変動を避けるルールとして、「特別気配」の運用が行われる。
IPOでは特別気配の運用が行われるケースがほとんど
「特別気配」とは、需要と供給のどちらかにバランスが偏り、大きな価格変動の可能性がある場合、取引を一旦中断し、気配値を更新しながら、慎重に株価を探っていくオペレーションだ。
買い注文の数量が売り注文に比べて非常に多い場合、気配値を徐々に切り上げて行くことになる。反対に売り注文が超過している場合には、気配値は切り下げ方向に動く。気配を徐々に切り上げ(切り下げ)していき、需給のバランスが取れる価格へ徐々に近づけていく。
すでに上場している株式の場合、気配値は、取引所によって定められた値幅(気配の更新値幅)で3分ごとに更新される。一定の値幅で徐々に気配値を更新していくことにより、投資家に判断の時間を提供しているのである。
IPOの場合でも、特別気配の基本となる考え方は同様である。ただ、初値決定までの気配の更新値幅と更新時間については、通常と異なる。
買いが優勢となる特別買い気配の場合には、気配の更新値幅は5%、気配の更新時間は10分間隔となる。需給が合致する値段に近づいた場合には、通常の更新値幅、更新時間が適用されることもある。一方で売りが優勢の特別売り気配の場合には、通常の更新値幅、更新時間で運用される。
原則、上場の前営業日に証券取引所から当該銘柄の気配運用に関するルールがアナウンスされるため、確認しておきたい。
特別気配の運用により、需給がバランスする価格へと徐々に近づけていき、板寄せ方式の条件を満たす価格がIPOの初値となる。
IPOの初値形成は市場の需要を反映しない
IPOの初値形成においては、特別気配の運用が行われるケースがほとんどである。その理由についても説明しておこう。
IPOでは市場価格が存在しないため、初値を決める際の板寄せの基準は公募価格となる。公募価格は、会社の業績や特定の機関投資家などからのヒアリングを基に決定される。つまり市場の需給を反映したものではない。
公募価格と市場価格に乖離が生まれることも多く、公募価格を基準とした場合、需給がアンバランスとなるケースも多々ある。この初値形成を公募価格から探っていくというオペレーションが特別気配の運用につながっている。
IPOの初値は上場日につかないことも
IPOでは、上場初日に初値がつかないこともある。公募価格と市場価格の乖離が非常に大きいためである。
IPOでは、上場初日に特別気配の運用が行われると、一定時間ごとに一定の値幅で気配値を更新していくことになる。その気配値には上限と下限が定められている。気配値の上限は公募価格の2.3倍、下限は公募価格の0.75倍だ。
つまり、需給のバランスが取れる価格がこれを超える場合には、その日に取引が成立することはない。この場合、初値の決定は、翌営業日に持ち越される。
初値の形成が翌営業日に持ち越された場合でも、初値の決め方は変わらない。唯一異なる点は、板の中心が公募価格ではなく、前営業日の最終気配値となる点だ。前営業日の続きからスタートし、初値を探って行くことになる。
公募株式数の少ない銘柄や注目度の高い銘柄では、供給に対して、非常に多くの需要が集まり、初値が吊り上がるケースも見られる。
もう一つの初値決定方式 一本値方式とは?
IPOの初値の決まり方を説明してきたが、最後に、IPOにはもう一つの初値決定方式があることに簡単に触れておきたい。「一本値方式」と呼ばれる方法だ。これは2010年に第一生命保険 <8750> のIPOが行われた際に採用された。
一本値方式とは、ある一時点での需給に基づいて、板寄せ方式で初値を決定する方法で、当日はその後の売買を行わない。第一生命保険の場合には、上場日の13時に注文を締め切り、その時点での需給状況から板寄せ方式で初値を決定した。第一生命保険は株主数が多く、大量の売買注文による混乱を避けるために採用された。
板寄せ方式による価格決定という大原則は変わらないものの、初値の決定するタイミングや注文時間が定められている点、セカンダリー市場が翌営業日に持ち越される点などは注意したい。ほとんど採用されることのない初値の決まり方ではあるが、大型銘柄の上場時には採用される可能性もある。
文・MONEY TIMES編集部
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