IPOは公募価格に対する大幅な値上がり案件が取り沙汰されるが、なかには初値が公募価格を下回る案件も存在する。過去5年半に行われたIPOのうち、公募価格に対する初値の値下がり率が大きかった上位10銘柄を紹介。IPOで公募割れする原因を探っていく。

IPOの値下がり率が大きかった上位10銘柄一覧(2014年~2019年上半期)

2014年1月から2019年6月までに、東証一部、東証二部、マザーズ、ジャスダックへ新規上場した457銘柄のうち、公募価格に対する初値の値下がり率が大きかった上位10銘柄は次の通りである。
 

次にこれらの10銘柄を10位から順に紹介していこう。

第10位 トレックス・セミコンダクター<6616>……騰落率 -10.40%

トレックス・セミコンダクターは、小型電源用ICを主力とする半導体メーカーである。自社工場を持たないファブレス経営を原則としていたが、2016年4月に委託先企業を買収し、子会社化している。

同社の初値が公募価格より値下がりした要因としては、次の3点が考えられる。

(1)業種が電気機器製造業と目新しさに欠けた
(2)直近にIPOを行った同業種の初値が振るわなかった
(3)上場時における最新の通期決算である2013年3月期連結決算が減収であった

電気機器製造業という点で目新しさに欠けた点が大きな要因だろう。同社の直前に上場を果たした日立マクセル<6810>、ジャパンディスプレイ<6740>といった同業種の初値が振るわなかったことも影響した可能性がある。減収決算のまま上場となった点も含め、IPO時に将来性を見出し辛かったことが初値に表れたといえよう。

第9位 サンバイオ<4592>……騰落率 -14.50%

サンバイオは、再生細胞薬の研究・開発を行う製薬会社である。大日本住友製薬<4506>をパートナーとし、開発権及び販売権をライセンス許諾することにより収益を得ている。

同社の初値が公募価格より値下がりした要因としては、次の3点が考えられる。

(1)上場時における最新の通期決算である2014年1月期連結決算が経常赤字であった
(2)市場からの吸収金額が130億円の大型案件であった
(3)上場後すぐに業績見通しを下方修正する銘柄があるなど、IPO市場全体に投資家の不信感が募っていた

特にIPO市場への不信感が大きな要因だろう。gumi<3903>が同社上場の4ヵ月前にあたる2014年12月に東証一部へ上場し、直後に大幅な下方修正を発表したことにより、IPO市場全体に投資家の不信感が醸成されていた。過去の実績ではなく将来性が売りとなるバイオベンチャーにとってはタイミングが悪かったといえよう。

第8位 ジャパンディスプレイ<6740>……騰落率 -14.56%

ジャパンディスプレイはソニー、東芝、日立の中小型ディスプレイ事業を産業革新機構が中心となって統合した中小型ディスプレイ専業メーカーだ。産業革新機構が上場によって資金回収を行う初めてのケースとしても注目されたIPOである。

同社の初値が公募価格より値下がりした要因としては、次の3点が考えられる。

(1)市場からの吸収金額が約3,200億円の超大型案件であった
(2)業種がディスプレイの製造業と目新しさに欠けた
(3)前日に上場した日立マクセル<6810>の初値が振るわなかった

製造業というIPOでは不人気な業種であったことに加え、ディスプレイ市場は海外メーカーとの競争激化が予想される状況での上場であった。さらに吸収金額が約3,200億円の超大型案件であり、需給面から初値が抑えられたと見られる。産業革新機構が初めて市場で株式を売り出す案件であったが、黒字化後すぐの上場であり、事業構造の立て直しに投資家から疑問符が付いていたことも要因であろう。

第7位 アイドママーケティングコミュニケーション<9466>……騰落率 -14.68%

アイドママーケティングコミュニケーションは流通小売業への販促支援サービスを提供している。折込広告の作成からビッグデータを活用したコンサルティング業務まで、幅広いサービスを提供する点に特色がある。

同社の初値が公募価格より値下がりした要因としては、次の3点が考えられる。

(1)同日に同社を含め6社の上場があり、投資家の初値買い資金が分散された
(2)市場からの吸収金額が約23億円とマザーズ銘柄の中では比較的規模の大きな案件であった
(3)富山県に地盤を置く地方企業のイメージを拭い去れなかった

上場日の2016年3月18日には、同社を含めて6社の上場が行われた。投資家の初値買い資金が分散される状況の中、マザーズ銘柄の中では比較的吸収金額が大きい同社は需給面から初値が抑えられたと見られる。また、業種としては市場の関心を集める可能性はあったが、富山県に本社を置き、売上高の5割強を占めるクライアントが中部地方に地盤を置くスーパーであるなど、地方企業のイメージを拭い去れなかったことも考えられる。

第6位 SFPダイニング<3198>……騰落率 -16.49%

SFPダイニングは「鳥良」、「磯丸水産」といった居酒屋チェーンを運営している。首都圏、関西圏を中心に出店しており、事業構成は飲食事業が100%である。

同社の初値が公募価格より値下がりした要因としては、次の3点が考えられる。

(1)同日に同社を含め5社の上場があり、投資家の初値買い資金が分散された
(2)市場からの吸収金額が約138億円の大型案件であった
(2)業種が飲食業と目新しさに欠ける点に加え、東証二部上場であった

6位のアイドママーケティングコミュニケーションと同様、こちらも多くの案件と上場が重なった。吸収金額が100億円超の大型案件であった上に初値買い資金の分散もあり、需給面から初値が抑えられたと見られる。市場の注目が集まり辛い東証二部への上場であったことも要因であろう。

第5位 自律制御システム研究所<6232>……騰落率 -16.76%

自律制御システム研究所は自律制御技術を持つドローン(小型無人機)の開発・販売を行っている。人の手による操作やGPSの活用を必要とせず、機体に備わる監視カメラの画像情報を基とした自律制御技術により飛行する。物流だけでなく、インフラの点検や災害時の活用といった用途に用いられる。

同社の初値が公募価格より値下がりした要因としては、次の3点が考えられる。

(1)市場からの吸収金額が約88億円とマザーズ銘柄では大型案件であった
(2)上場時における最新の通期決算である2018年3月期決算まで6期連続の経常赤字であった
(3)目新しい業種ではあったが、収益化のイメージを投資家が描けなかった

赤字上場でありながら、市場からの吸収金額が約88億円と大きかった点が大きな要因であろう。自立制御を行うドローンの製造という事業内容は、テーマ性、話題性はあったものの、赤字での上場となったことで、投資家が今後の収益化をイメージできなかった可能性もある。

第4位 ユー・エム・シー・エレクトロニクス<6615>……騰落率 -17.33%

ユー・エム・シー・エレクトロニクスは電子機器の受託製造を専業としている。車載機器やインバーターなどの産業機器が主力となる。

同社の初値が公募価格より値下がりした要因としては、次の3点が考えられよう。

(1)業種が電気機器のEMS事業と目新しさに欠けた
(2)上場時における最新の通期決算である2015年3月期決算が減収であった
(3)市場からの吸収金額が約62億円と中型案件であった

業種が電気機器の製造業と目新しさに欠けた点に加え、上場時の最新の通期決算が減収となっていたことで、投資家が将来の成長ビジョンを描き辛かったことが大きな要因だろう。市場からの吸収金額も約62億円と規模もそれなりにあったため、需給面から厳しい初値形成になったと見られる。

第3位 リボミック<4591>……騰落率 -20.43%

リボミックは、核酸であるRNAから取得するアプタマー(特定の分子と特異的に結合する分子)を活用した医薬品の研究・開発を行う東京大学発のバイオベンチャーである。製薬会社へのライセンス許諾などにより収益を得ている。

同社の初値が公募価格より値下がりした要因としては、次の3点が考えられる。

(1)上場時における最新の通期決算である2014年3月期連結決算が経常赤字であった
(2)市場からの吸収金額が約50億円とマザーズ銘柄の中では規模の大きい案件であった
(3)上場日直前に大型株の値動きが堅調であったため、個人投資家の資金が入り辛かった

赤字上場となった点、市場からの吸収金額が大きかった点も重要であるが、大型株の値動きが堅調であった点にも着目すべきだろう。上場日となった2014年9月25日には日経平均株価が年初来高値を更新するなど、大型株の値動きが非常に堅調な時期であった。個人投資家とすれば、新興市場でなく大型市場で銘柄を物色できるタイミングであり、赤字上場のバイオベンチャーに積極的に投資を行うインセンティブに欠けた可能性がある。

第2位 RS Technologies<3445>……騰落率 -23.64%

RS Technologiesは半導体に使われるシリコンウェーハの再生事業を手掛ける。中国出身の方永義社長らが出資して2010年に創業し、ラサ工業<3445>より事業承継を受けた。

同社の初値が公募価格より値下がりした要因としては、次の3点が考えられる。

(1)業種が半導体関連と目新しさに欠けた
(2)他の企業が撤退した事業を引き継いでの創業という経緯に成長性を見込み辛かった
(3)市場からの吸収金額が約30億円とマザーズ銘柄の中では比較的規模の大きい案件であった

業種が近年敬遠される傾向にある半導体関連であったことが大きな要因だろう。さらに、他の上場企業が撤退した事業を引き継いでいたために、成長性のイメージを描き辛かった点も重要だ。投資家のこうしたイメージにより、約30億円という吸収金額に対して需給面で厳しい初値形成になったと見られる。

第1位 ポート<7047>……騰落率 -37.16%

ポートは複数のインターネットメディアを運営している。運営するメディアに掲載する成果報酬型広告が主な収益源だ。専門領域に特化したバーティカルメディアを運営し、関連性の高い広告を掲載することに特色がある。

同社の初値が公募価格より値下がりした要因としては、次の4点が考えられる。

(1)インターネット関連企業であるが事業内容に目新しさがなかった
(2)市場からの吸収金額が約50億円とマザーズ銘柄の中では規模の大きい案件であった
(3)上場日前後に新興株式市場の地合いが悪く、個人投資家のリスクオフ姿勢が強まるなかでの上場となった
(4)同日に同社を含め4社の上場があり、投資家の初値買い資金が分散された

最も大きな要因はインターネットメディアの運営という目新しさに欠ける事業内容に対して、市場からの吸収金額が非常に大きかった点であろう。さらに上場日となった2018年12月21日には東証マザーズ指数が年初来安値を付け、その翌営業日の25日は2年10ヵ月ぶりの安値を付けるなど、個人投資家のリスクオフ姿勢が強まるなかでの上場となった点も要因だろう。そうした地合いのなか、上場日に同社を含めて4社の上場があったことも需給面に影響したと見られる。

ポートは上場日に気配値を下限まで切り下げても初値が付かず、売り優勢のなかでは異例の上場日に取引不成立となった。こうした状況の中、売りが売りを呼んだ可能性もある。

IPOが公募割れする3つの原因

公募価格に対する初値の値下がり率が大きかった上位10銘柄を見て、公募割れしてしまうIPOに共通する要因を探っていこう。大きくは次の3点が挙げられる。

事業内容や業績に将来性を感じられない

IPO銘柄への投資は「夢を買う」という表現に例えられることもあり、その企業の将来性を投資家が感じられるかが重要となる。目新しい事業内容で今後の成長性を感じられる企業や、業績が右肩上がりとなっている企業が好まれる傾向にある。言い換えれば、成熟産業に属する企業や、業績が赤字のまま上場する企業、売上高が横ばいや減少傾向にある企業は、投資家から敬遠される傾向にある。

IPO投資にあたっては、投資先企業の事業内容や業績を確認し、企業の将来性を見極める必要がある。

市場からの吸収金額が大きい

株価は需要と供給によって決められる。IPO投資では市場からの吸収金額を確認することも重要だ。吸収金額が大きい案件では、株価を上げるために多くの需要が必要となる。

一般的には市場からの吸収金額が10億円未満の案件が小規模案件として分類される。マザーズやジャスダックなどの新興市場では、機関投資家からの買い需要が見込み辛いこともあり、吸収金額が数十億円の案件でも敬遠されることがある。もちろん、吸収金額が大きくても魅力的な銘柄であれば、要が多く集まるケースはあるが、企業の価値に対して吸収金額が妥当であるか判断する必要がある。

上場するタイミングや市況などの外部環境

IPOの初値形成にあたっては、外部環境も重要な要素となる。上場する市場の地合いが悪ければ、投資家はリスクオフの姿勢となり、需要が集まり辛くなる。値下がり率1位のポートはこうした外部環境が大きな影響を与えた一例だろう。

3位のリボミックのケースでは、大型株の値動きが良かったために新興市場に資金が入り辛いという状況が起こった。珍しいケースではあるが、こうした可能性があることも頭の片隅に入れておけば今後の参考になろう。

また、同日に複数の企業が上場を行う場合、投資家の資金は複数の銘柄に分散される。そうした場合、どの銘柄に資金需要が向くかを見極める必要も出てくる。

IPOの初値は様々な投資家心理によって形成される。投資先企業の事業内容や業績から外部環境まで、多くの要素に目を向けることが重要だろう。

文・樋口壮一(金融ライター)

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