NISAの非課税期間は投資した年を含めて5年間だが、NISAでは非課税期間の終了時に非課税期間を延長する「ロールオーバー」という制度がある。NISAのロールオーバーをうまく活用すれば、NISAでさらなる利益を期待できる。ロールオーバーの仕組みや新NISAでロールオーバーはどうなるかなど詳しく解説する。

目次

目次

  1. 1. NISAのロールオーバーとは
  2. 2.NISAのロールオーバーのデメリット
  3. 3.NISAでロールオーバーすべき3つのケース
  4. 4.NISAのロールオーバーを手続きするときの3つの注意点
  5. 5.新NISAでロールオーバーはどうなるのか
  6. 6. NISAの非課税期間満了後の出口戦略も考えよう
  7. 7. 実際にNISAを始めてみる

1. NISAのロールオーバーとは

NISAの「ロールオーバー」とは、5年間の非課税期間が終了する際、翌年のNISA非課税投資枠に資産を移すことでさらに5年間非課税で資産を保有することができる制度のことだ。NISA口座内の商品は非課税期間満了までに売却しない場合、特定口座等の課税口座に移すかロールオーバーすることになる。

NISAの非課税期間の終了時に思ったように利益が出ていない場合、ロールオーバーすることで利益確定を先延ばしできる。利益が出ている場合でもさらに上昇が期待できるような商品ならば、ロールオーバーを活用することで非課税メリットを大きく享受できる。

NISAでロールオーバーした場合も課税口座に移した場合も、取得価額はNISAの非課税期間満了時点での金額になる。 出典:金融庁『NISAのポイント』

2.NISAのロールオーバーのデメリット

NISAのロールオーバーには次のデメリットがある。活用するときは慎重に検討したい。

翌年のNISAの非課税投資枠を使うため新規投資が制限される

NISAでロールオーバーする場合、ロールオーバーする金額分だけ翌年の非課税投資枠を使ってしまう。例えばNISAで140万円に値上がりした商品をロールオーバーすると、翌年の非課税投資枠を全てロールオーバーで充当してしまうのだ。

NISAで新規投資を計画していたなら、見直しを行う必要もあるだろう。NISAでロールオーバーを行うときは新規投資とどちらを優先するか、じっくり検討すべきだ。

NISAでは損失が出た場合でも損益通算ができない

NISAのロールオーバーに限った話ではないが、NISAでは利益が非課税になる反面、損失が出た場合は損失がなかったものとみなされる。つまり損益通算を行えないのだ。最終的にNISAの価格が戻らなかった場合、ロールオーバーをしたところで非課税メリットは得られない。

投資では損切りの見極めを行うことも大切だ。特にNISAでは損失を損益通算に活用するという手法を取れないので、損失が出ている商品をロールオーバーするなら回復の可能性を慎重に判断する必要がある。

3.NISAでロールオーバーすべき3つのケース

具体的に一般NISAでロールオーバーを検討すべきなのは、次の3つのケースである。

⑴NISAの保有商品にさらなる値上がりを期待できるケース

NISAの非課税期間が終了してもNISAの保有商品が値上がりすると考えられるなら、ロールオーバーを検討してよいだろう。

仮に120万円でNISAでの投資を行った商品が、NISAの非課税期間終了時に150万円に値上ったとする。この商品を保有し続ける場合、ロールオーバーか課税口座へ移管するかを選択する必要がある。この商品が最終的に180万円になったときに課税口座へ移管すると、150万円からの値上がり分である30万円に課税がされる。税率20%で計算すると、税金は6万円だ。

NISAのロールオーバーを活用すれば、この6万円を節税できる。NISAの保有商品にさらなる値上がりを期待できるならロールオーバーは有効な選択肢のひとつだろう。

⑵NISAの保有商品に損失が出ているが、回復が期待できるケース

NISAの非課税期間終了時に保有商品に損失が出ているケースでも、ロールオーバーを検討すべきだろう。

120万円でNISAでの投資を行った商品が、非課税期間終了時に100万円になっていたとする。このときに課税口座へ移管すれば損失はなかったものとみなされるが、新しい取得価額は移管時の100万円になるため、120万円に値が戻った場合でも20万円に課税される。つまりNISAの購入時価格に戻っただけなのに、課税されるという状況が生じてしまうのだ。

こうした状況を避けるためにNISAの非課税期間終了時に損失が出ていたとしても、今後回復が期待できるならロールオーバーの活用を検討したい。

ただしロールオーバーの注意点は、回復の期待が持てるかどうかの判断が必要なところだ。NISAの保有商品に悪材料があり回復が見込めないのなら、損切りを行ったほうがよい場合もある。

⑶特段の悪材料がない高配当銘柄などのNISA商品を保有しているケース

NISAの高配当銘柄など、毎年定期的な配当が期待できる商品を保有しているケースもロールオーバーを検討すべきだろう。

NISAの非課税投資枠で保有している商品は値上がり益だけでなく、配当や分配金も非課税になる。今後も定期的な配当が期待できる高配当銘柄などはロールオーバーを活用することで、非課税で受け取る配当金を増やせる。

もちろん、その商品に今後値下がりする悪材料などがあれば、売却も選択すべきであるが、そうでなければNISAのロールオーバーを活用し、非課税で多くの配当を受け取るという戦略を検討したい。

4.NISAのロールオーバーを手続きするときの3つの注意点

NISAのロールオーバーの手続きに関して、注意したい重要な点は次の3つである。

⑴ロールオーバーの手続き期限は金融機関によって異なる

NISAのロールオーバーを利用する場合、NISA口座を開設している金融機関で手続きを行う必要がある。ロールオーバーの手続きはWEB上もしくは書面にて行う。

そのときに注意したいのが、NISAノロールオーバーの手続きは金融機関によって方法や締め切り期限が異なる点である。WEB上で完結する金融機関や書類返送が必須となる金融機関など各社によって違いがあるので、NISA口座の取引金融機関のルールを確認しておこう。

NISAのロールオーバーの手続きの締め切りは11月~12月初旬までに期限が設定されている金融機関が多い。慌てないためにも早めに行ったほうがよいだろう。

NISAの金融機関を変更するとロールオーバーできない

NISAでは金融機関の変更はできるが、保有商品を別の金融機関に移管できない。これによりロールオーバーに影響が出ることもある。

例えば当初、A金融機関でNISA口座を開設し商品を購入し、途中でB金融機関にNISA口座を変更したとしよう。この場合、A金融機関で購入した商品は非課税期間終了時までA金融機関で保有し続けなければならない。

NISA商品の非課税期間が終了した場合、A金融機関でロールオーバーを行いたくてもA金融機関にはNISA口座がないのでロールオーバーができない。またB金融機関のNISA口座に移管してロールオーバーを行うことも不可能だ。A金融機関で保有している商品は売却するか課税口座へ払い出すかの2択しかない。

NISA口座で購入した商品はつみたてNISA(積立NISA)の口座にロールオーバーできない

NISA口座とつみたてNISA口座は併用できない。つみたてNISAは長期投資に適した特定の投資信託だけに限られている。そもそもつみたてNISAにはロールオーバーの制度自体がない。

NISA口座からつみたてNISA口座に変更した場合、過去にNISA口座で購入した商品のロールオーバーを希望するなら、つみたてNISAの口座を廃止して再度NISA口座を開設する必要がある。
出典:金融庁『つみたてNISAの概要』

5.新NISAでロールオーバーはどうなるのか

現行のNISA制度では、一般NISAの非課税投資可能期間が2023年までとされている。2019年以降に購入した商品のロールオーバーは2024年以降の非課税投資枠を活用する必要がある。

NISAでは2019年末に閣議決定された「令和2年度税制改正大綱」で、非課税投資期間を2028年まで5年間延長し、一般NISAは投資枠を2階建てとする新NISA制度へ移行する方針が示された。2019年以降に購入したNISA商品のロールオーバーは、この新NISA制度へ引き継がれる。
出典:財務省『令和2年度税制改正の大綱』

NISAのロールオーバーのルールは新NISAでも基本的に変わらない

現行NISAで保有する商品を新NISAへロールオーバーすることは可能である。方法も基本的に現行のロールオーバー制度と変わらない見通しだ。

NISAでロールオーバーする場合は2階建て部分の2階から埋められる

新NISAは長期の資産形成を促すため、1階部分は年20万円が上限という積立投資枠が設けられた。原則として1階部分を利用した人のみが従来の一般NISAをおおむね踏襲した2階部分を活用できる。2階部分の非課税投資枠は年間102万円までだ。

ただしロールオーバーをする場合には、新NISAの非課税投資部分の2階部分から埋められる。現行NISAで保有する120万円の商品を新NISAへロールオーバーすると2階部分の102万円が埋まり、残りは1階部分の18万円分が埋まる。結果、活用可能なNISAの非課税投資枠は1階部分のわずか2万円だけになる。

少しややこしいかもしれないが、従来の一般NISAを踏襲した部分は2階部分であるという制度設計を考えれば、理解できるだろう。

レバレッジ型商品など新NISAの対象外商品の取り扱いは不透明

新NISAではリスクの高いレバレッジを効かせた投資信託や整理銘柄・管理銘柄に指定されている株式は対象外だ。しかも現行NISAで保有しているこれらの商品のロールオーバーについては、まだ定まっていない。これらの商品を現行NISAで保有している人は今後の議論の行方に注目しておいたほうがよいだろう。

6. NISAの非課税期間満了後の出口戦略も考えよう

NISAの非課税投資枠は年間120万だが、非課税期間満了時に値上がりしていた場合は120万円を超える部分についても非課税投資枠に移管可能だ。NISA導入当初はロールオーバーできる額は非課税投資枠までとなっていたが、現在はロールオーバー可能な金額に上限はない。
    
NISAは金融機関によって手数料や扱える商品の種類が異なる。そのためどこに口座を開設するか、商品選びなどの入り口が大事だと言われる。しかし、非課税期間満了後の出口戦略も考えておかなければ損をするケースもあるのだ。

NISAは非課税だからと放置するのではなく、保有している商品の値動きをチェックし、売買のタイミングや保有継続の判断を自分で行い、必要に応じた手続きができるようにしたいものだ。

7. 実際にNISAを始めてみる

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樋口壮一
執筆・樋口壮一
新卒で証券会社に入社後、10年間リテール営業、ホールセール営業を経験。現在は事業会社の営業企画部門に努める傍ら、個人として投資を行い、マーケットに携わる。AFP
新卒で証券会社に入社後、10年間リテール営業、ホールセール営業を経験。現在は事業会社の営業企画部門に努める傍ら、個人として投資を行い、マーケットに携わる。AFP


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