原則20~60歳の全国民が加入できる個人型確定拠出年金(iDeCo、イデコ)が、退職後の備えとして注目されている。様々な税制面のメリットがあるが、未加入だとこれらを正しく理解していない人も多い。始める前にiDeCoのメリットを3つ確認しておこう。

iDeCoのメリット(1)――掛金は全額所得控除

iDeCo最大のメリットは、掛金が全額所得控除となることだ。長期の資産形成を前提としたiDeCoでは、この効果が非常に大きい。

年間の所得控除による節税額は、「年額掛金×税率(所得税、住民税)」で計算できる。30歳で掛金月額が1万円、所得税率10%、住民税率10%である場合、iDeCoによる年間の節税額は2万4,000円となる。さらに、この条件で60歳までの30年間、掛金の拠出を続けたとすると、節税額の合計は72万円だ。

掛金を増やせば、節税メリットはさらに大きくなる。企業年金のない企業に勤めるサラリーマンであれば、掛金限度額である月額2万3,000円を30歳から60歳までの30年間に渡って拠出した場合、所得税率10%、住民税率10%で計算すると、年間の節税額は5万5,200円となる。30年間の節税額の合計は165万6,000円だ。

もちろん、将来所得が上がり、税率が高くなった場合、iDeCoによる節税メリットはさらに増える。また自営業等の場合は、掛金限度額が月額6万8,000円まで認められており、大きな節税メリットを得られる。

長期に渡って大きな節税を行えることは、iDeCoの最大のメリットだろう。

iDeCoのメリット(2)――運用益も非課税に

iDeCoの2つ目のメリットは、運用期間中の運用益が非課税となる点だ。

通常、金融商品に投資を行った場合、運用益に対して、20.315%の税金が課税される。一方iDeCoの場合は、運用期間中に出た利益に対して課税されない。本来、税金で差し引かれるはずの資金を再投資に充てられるため、iDeCoは資金効率においても有利な制度と言える。

iDeCoでは定期預金を選択することも可能であるが、この場合も利息に税金がかからない。積極的な運用を行う人はもちろん、預金を中心にリスクを抑えたい場合にも、iDeCoは適している。

iDeCoのメリット(3)――受取時にも税制メリットを享受

3つ目は、受取時の税制メリットだ。

iDeCoでは積み立てた資金の受取方法を選択できる。一時金として一括で受け取る方法と、年金として分割して受け取る方法だ。

iDeCoを一時金として一括で受け取る場合は、退職所得控除の対象となる。退職所得控除は勤続年数によって変わり、20年以下の場合は、「40万円×勤続年数」、20年超の場合は、「800万円+70万円×(勤続年数-20年)」と定められている。iDeCoでは、この勤続年数が加入期間に置き換えられる。30年間iDeCoに加入していた場合、「800万円+70万円×(30年-20年)」で、1,500万円の退職所得控除を受けられる。

iDeCoを年金として受け取る場合は、公的年金等控除の対象となる。公的年金等控除は65歳未満だと70万円、65歳以上だと120万円の控除枠があり、公的年金等の所得から差し引くことができる。他の公的年金の受給額と合算になるが、他の年金等がこの範囲内に収まっていれば、iDeCoの受給分についても節税メリットが得られる。

ただし、受け取り方には注意が必要だ。iDeCoは原則60歳以降に受け取りが可能となるが、60歳ですぐに受け取ってしまうと、勤務先の退職金の支給と重なり、退職所得控除をオーバーしてしまう可能性もある。一方で年金受取を選択すると、他の公的年金と合算して控除枠を大きく超えてしまう可能性がある。

iDeCoの税制メリットを享受するためには、一時金の支給を数年ずらし、他の退職金と重ならないようにするなど、自身の状況を踏まえて適切な受け取り方を選択する必要がある。金融機関によっては、一時金と年金を併用できる場合もある。iDeCoの節税メリットは最後まで上手く活用したい。

iDeCoは手数料がかかるから、節税メリットは小さい?

「iDeCoは手数料がかかるから、節税メリットは小さい」

このような意見を耳にするが、本当だろうか。

iDeCoの手数料には次のものがある。国民年金基金連合会への手数料が年間1,236円。金融機関によって異なるが、信託銀行等への事務委託手数料が年間768円。こちらも金融機関によって異なるが、運営管理機関への手数料が高い場合だと年間約6,000円。さらに、加入時に2,777円の加入時手数料、給付時には1回当たり432円の給付手数料が発生する。これに加え、運用商品として投資信託等を選択した場合には、商品の運用コストもかかる。

しかし、iDeCoには大きな節税メリットがあるため、これらの手数料負担を敬遠する必要はない。所得税率10%、住民税率10%、掛金月額が5,000円の場合でも、所得控除による年間の節税メリットは1万2,000円あるからだ。

もちろん、運用商品のコストや運用損益を考えればマイナスになる年もあるかもしれないが、仮にiDeCoの掛金をすべて預金で運用すれば、ほとんどのケースで節税メリットが上回るだろう。iDeCoは、基本的に手数料負担を節税メリットが上回るようにできていると言っていい。

iDeCoにおけるデメリットとは?

iDeCoのメリットを説明してきたが、デメリットもある。

まずは、iDeCo加入のネックになると考えられる「iDeCoの積立金は原則60歳まで引き出せない」という制約だ。iDeCoはリタイア後の自己資金を自助努力で積み立てるという前提で様々な税制メリットを与えられているため、原則的に60歳になるまで引き出すことはできない。例外的に引き出せることもあるが、その条件はかなり厳しい。よってマネープランニングは慎重に行いたい。

また、潜在的なデメリットとして、特別法人税と呼ばれる税金が存在する。これは、企業年金の積立金に課される法人税であり、積立金額に対して年1.173%が課税されるもので、iDeCoもこの対象となる。この税制は1999年から凍結されており、2020年3月末までは凍結の継続が決まっている。これが再開される場合、iDeCoのメリットは減ってしまう。

デメリットではないが、運用は自己責任であることも忘れてはならない。国民年金や従来の企業年金等の確定給付型と異なり、iDeCoは積立金の運用結果が個人に跳ね返ってくる。

iDeCoの税制メリットは非常に大きな効果を持つ。デメリットも理解した上で、積極的に活用したい制度だ。

文・MONEY TIMES編集部
 

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