ルイ・ヴィトンなどの高級メゾンを擁するフランスのブランドグループLVMHは、米宝飾品大手ティファニーを買収すると発表した。買収金額は160億ドル超 (約1兆7,500億円超) となり、ブランド業界において過去最大級の買収劇となる。世界最大のブランドグループがティファニーを狙った背景には何があるのか、その理由に迫る。(※日本円のレートは2019年12月13日17時時点)

LVMHはM&Aによってブランドの拡大を続けてきた

LVMHは元々、M&Aによりそのブランドポートフォリオの拡大を続けてきた歴史がある。ルイ・ヴィトンは1854年、荷造り用のトランクや革製品のブランドとして創設された。1987年、当時ドン・ペリニヨンなどの酒造メーカーであったモエ・ヘネシーと合併しLVMHとなった。

1980~90年代はブランド業界全体がグローバル化、ブランド大衆化の流れに伴い、グループ経営に舵を切ろうとしていた時代だ。それまでのブランド業界は小規模なファミリー経営のメーカーが超富裕層向けに商品を販売するというビジネス業態であったた。

LVMHはその後、1996年にロベエ、セリーヌ、1999年にタグ・ホイヤー、2001年にフェンディなどの老舗有名ブランドを次々と買収。現在は75のブランド(メゾン)を擁する巨大ブランドコングロマリットに成長を遂げている。

その特徴を一言で言えば、「ブランドの独立性」だ。買収したブランド名や資産、ブランドのイメージ戦略をそのまま残し、ブランドの独立性を担保する一方で、広報や財務、物流といった本社機能を集約する。これにより本社機能のスケールメリットを活かしたダイナミックな経営と、ブランドごとのイメージの独自性を損なわないブランディング展開が可能となる。
 
現CEOのベルナール・アルノー氏は、このグループ経営の手法を上手に活用することでLVMHを世界最大のブランドコングロマリットとして成長させてきたのである。

こうして見ると、今回の買収劇においても「ブランドポートフォリオの拡大」という狙いが明確に見てとれるだろう。

巨大コングロマリットがティファニーを狙ったワケ 業界の競争激化

LVMHは、「ワイン&スピリッツ」、「ファッション&レザーグッズ」、「パフューム&コスメティクス」、「ウォッチ&ジュエリー」、そして「セレクティブ・リテーリング」といった5つのブランドセグメントを持っている。グループ全体の売り上げは2018年12月期で468億ユーロ (約5兆7,300億円) に上った。ティファニーはこのうち、「ジュエリー」部門に属すると見られている。

ティファニー買収の背景の1つには、「ブランド業界競争環境の激化」がある。ブランド業界にはLVMH、グッチなどを擁する仏ケリング、カルティエなどを擁するスイスのリシュモンという3大ブランドグループが存在する。

ケリングやリシュモンもLVMHと同様、独自性を持ったブランドを囲い込むグループ経営を行っているコングロマリットで、今回のティファニー買収は両社も関心を示したと言われている。

競合企業に対して優位性を取るという意味では、自社でゼロからブランドを創り上げるのは余りにも初期投資や時間投資がかかりすぎる。すでに一定の地位を確立しているブランドをM&Aにより傘下に収め、市場や顧客の囲い込みを一気に行う”時間を買うM&A”の方が有効なのだ。

さらに「宝飾品分野の強化」という経営戦略も背景にある。現在、中国やアジアを中心に宝飾品・ジュエリーブランドの市場は拡大している。LVMHの2018年12月期「ウォッチ&ジュエリー」部門売上高は41億ユーロ (約5,000億円) と昨対比8.3%も伸びている。

しかし、LVMH全体の売上高に対してこの「ウォッチ&ジュエリー」部門の売上高は10%にも満たない。一方、競合であるリシュモンは2019年3月期のジュエリー部門の売上高が70億8,300万ユーロ (約8,670億円) と、LVMHに大きな差をつけている。大手ティファニーを買収すると競合リシュモンとの差を一気に縮めるとともに、自社のジュエリー分野の位置付け強化にも繋がる訳だ。

高級ブランド業界M&Aの動きは今後も加速するか

ティファニーを買収したLVMHが次に手を出すのはどこのブランドか、業界ではさまざまな噂が囁かれている。

ティファニー以外にもエルメス、シャネル、バーバーリー、ロレックスなど、グループ傘下に属さない独立系のブランドは数多く存在する。

今後も業界の寡占化やM&Aが加速すると予想される中、次はどのコングロマリットが先手を取るのか。そしてアルノー氏の次の狙いは何か。高級ブランド業界の動きから目が離せそうにない。

文・森 琢麻(M&Aコンサルタント)
 

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