孫正義氏が本業を変え続ける理由

2019.12.2
BUSINESS
(画像=THE21オンラインより)
(画像=THE21オンラインより)

次の上りのエスカレーターを探すのが経営者の最も大事な仕事

27歳でソフトバンク〔株〕の社長室長に就任し、孫正義氏のもとで「ナスダック・ジャパン市場開設」「〔株〕日本債券信用銀行(現・〔株〕あおぞら銀行)買収案件」「Yahoo! BB事業」などにプロジェクト・マネージャーとして関わった三木雄信氏は、孫氏は創業当時からずっと「SQM思考」で行動してきたと言う。SQMとはSocial Quality Management、つまり、社会全体で供給者と需要者をつなぎ、必要なものを必要なときに必要なだけ供給すること。ソフトバンクが本業を変え続けてきたのも、SQM思考をしているからだ。

※本稿は、三木雄信著『SQM思考 ソフトバンクで孫社長に学んだ「脱製造業」時代のビジネス必勝法則』(PHP研究所)の一部を再編集したものです。

本業は3年で変える。ただしビジョンは不変

誤解を恐れずに言えば、孫社長は飽きっぽい経営者です。

新しい事業を始めても、3年もすれば飽きてしまいます。

携帯電話事業を始めた頃は、日本中の携帯端末を部屋にズラリと並べて、それを眺めながら携帯電話のことばかり夢中になって考えていたものですが、おそらく今の孫社長の頭の中はIoTやプラットフォームへの投資のことで一杯のはずです。

でも実はこれ、企業が成長を続けるにはとても良いことなのです。

変化のスピードがどんどん加速している今、事業のライフタイムはどんどん短縮されています。

一時は天下をとったビジネスでも、非常に短いサイクルで市場からピークアウトしていきます。早い場合は、それこそ3年くらいで姿を消していく事業もたくさんあります。

Yahoo!オークションもeBayを追い出して一強体制を作り上げましたが、今では中古品売買と言えばメルカリが圧倒的勝者です。その分野でナンバーワンになったとしても、事業そのものが成熟期に入り、やがて衰退期に差し掛かれば、成長期に入った他の事業に押されて縮小や撤退の道を辿ることになります。

だから孫社長のように、「次に成長できる領域はどこか」と常に新しいものを追いかけて、既存事業が衰退する前に次の成長領域に飛び移っていくほうがいいのです。

「上りのエスカレーター」に乗り換え続けろ

ソフトバンクは時代とともにエスカレーターを乗り換え続けてきました。

「ムーアの法則」に従ってIT業界という大きなドメインには留まり続けていますが、実はその中で成長しているセグメントをいち早く見つけてきたのです。

ソフトウェアの販売に始まり、コンピュータ雑誌の出版、ADSL、モバイル通信、ロボットと乗り換え、今またARMの買収によりIoTという上りのエスカレーターに乗り換えようとしています。

孫社長を見ていると、「次の上りのエスカレーターはどこだ?」と探し続けることこそが、経営者の最も大事な仕事なのだとわかります。

日本では歴史ある企業ほど、「先人たちが育てた本業を守っていくことが大切なのだ」と考えますが、衰退期に入った事業をいくら守っても、再び成長期が巡ってくることはありません。事業も人間と同じように、若返ったりはしないからです。

よって本業を変えないことにこだわっていたら、会社ごと市場から姿を消すことになりかねません。しかもそのサイクルは、年々短くなっています。

一つの事業に固執することは、会社の寿命を縮めることになるのです。

長年ソフトバンクを支えてきた営業部隊

そう聞くと、皆さんはこう思うかもしれません。

「つまり旬を過ぎた事業はどんどん売却して、既存事業に関わっていた人たちはリストラしろってこと? それはあまりにひどいんじゃないの?」

いいえ、とんでもない。そんなことを勧めるつもりはまったくありません。

なぜならソフトバンクは、リストラをしたことがないからです。

もしかしたら世間の人たちは、孫社長はビジネスのためなら人を平気で切るようなドライな経営者で、社員も短期間で次々と入れ替えているのだろうと思っているかもしれません。

でも実は、長年ソフトバンクを支えてきた社員たちをとても大事にしています。

特に孫社長が頼りにしているのが、流通・販売を担う営業部隊です。

なかでもソフトウェア卸売業を手がけていた当時からの古参の社員たちは、孫社長にとって「旗本」とでも呼ぶべき存在です。

創業当時から量販店との関係を築いて販売網を構築してきたこの営業部隊は、扱う商材がソフトウェアからADSL、携帯電話、スマートフォン、決済アプリ(PayPay)と次々に移り変わっても、孫社長から「次はこれを売ってきて」と言われたら、自分たちのネットワークを駆使して確実に売上を上げてくれる強者たちです。

社員たちの側も、新規事業の周期が3年ごとに回ってくることをよく理解しているので、孫社長に振り回されるわけでもなく、「そろそろ新しいのが来る頃だね」と平然と商材の変化を受け入れます。

孫社長も、こうした社員たちの大切さをよく理解しています。

商材が変わったからといって、自分の考えを理解し、ソフトバンクの屋台骨を支えてくれている人をリストラしたりはしません。

だからソフトバンクにずっと残って長年働き続けている社員も多いのです。そして、こうした社員が営業の重要ポジションにいるからこそ、ソフトバンクの必勝メソッドが受け継がれているという点も見逃せません。

リストラしないために本業を変える

そもそも孫社長には、「本業を変える=リストラする」という考えが最初からありません。

むしろ、「リストラをしないために、次々と本業を変えている」というのが正しいでしょう。

ソフトバンクが新規事業を始めたら、既存事業の社員はそちらに配置転換します。人を切るのではなく、新規事業に吸収するのです。

それができるのは、孫社長が3年ごとに「新しい成長セグメント」を追いかけているからです。

既存事業が縮小段階に入ったとき、受け皿になる別の事業がなければリストラするしかないでしょう。企業が人を切るのは、たいていがこのパターンです。

でも孫社長は、常に既存事業を上回る成長領域を見つけています。

昨年末にも、ソフトバンクが通信事業に関わる6,800人の従業員を新規事業に配置転換すると発表しましたが、これだけの人数をクビにすることなく、吸収できる受け皿を用意できる会社が今の日本にどれだけあるでしょうか。

孫社長がエスカレーターを乗り換えるときは、必ず社員たちも一緒に乗れるスペースを用意しています。

人を大事にしたいからこそ、成長できる領域を見つけて次々に本業を変えていく必要があるのです。

既存事業が下り坂になったからといって、そのたびに部門や人を切り捨てていったら、その会社は縮小均衡に陥るだけです。経営のバランスはとれるかもしれませんが、企業としての規模は小さくなっていく一方です。

一時期、「選択と集中」という言葉が流行りましたが、これも結局は縮小均衡という結果を招くだけです。既存事業の中で儲かっているものだけを残し、あとは撤退や売却するわけですから、それだけでは会社がどんどん縮んでいきます。

まさに下りのエスカレーターに乗って、地下まで一直線に降りていくようなものです。

もちろん、ピークアウトした既存事業を整理する過程では選択と集中を実践してもいいのですが、同時にもっと儲かる新規事業を見つけ出し、社内のリソースをそちらに乗り換えていくことが必要です。

常に次の上りのエスカレーターを探すことは、変化の激しい今の時代に組織が生き残るための必須条件と言えるでしょう。

テクノロジーのトレンドを読む

では、孫社長はどうやって次の上りのエスカレーターを見つけているのでしょうか。

その答えは、「テクノロジーのトレンドを読む」です。

これまでも、ナローバンド、ブロードバンド、ワイヤレスと、テクノロジーのトレンドは次々と変遷してきました。そして次は5Gがやってきます。

孫社長は、「新しいインフラという土壌ができると、その上にサービスが花開く」とよく言っていました。つまり、ビジネスとしてのトレンドは、「インフラ→サービス」の周期を繰り返すということです。

「ナローバンドのインフラ」の次は「ナローバンドのサービス」が来て、「ブロードバンドのインフラ」の次は「ブロードバンドのサービス」が来る。「ワイヤレスのインフラ」の次は「ワイヤレスのサービス」が来て、「5Gのインフラ」の次は「5Gのサービス」が来る、という具合です。

そして孫社長は、常にこの波に乗ってきました。

ナローバンドのインフラが来ると、ISP(インターネット・サービス・プロバイダ)事業に着手し、サービスの周期に入ると米国のYahoo!に投資しました。

ブロードバンドのインフラが来ると即座にADSLのネットワークを構築し、次に「Yahoo! BB」のサービスを開始。ワイヤレスのインフラが来ると携帯電話の基地局を買い、次にiPhoneをはじめとするスマートフォン端末を使ったサービスの提供を始めます。

ワイヤレスのインフラの上で花開いたサービスといえば、ライドシェアサービスもその一つです。無線でどこでもスマホが使えるから、必要なときにすぐ車を呼ぶことができます。

ソフトバンクがUberをはじめ、中国や東南アジアなど世界各国のライドシェアサービスに投資したのは、「ワイヤレスのサービス」の波に乗るためです。

次の「5Gのインフラ」についても、すでに総務省が携帯電話の各キャリアに電波の割り当てを行い、全国に基地局を設置できる体制が整いました。次の「5Gのサービス」について、ソフトウェアは2020年3月頃までに開始する予定だと発表しています。

きっと孫社長も、勝てるサービスを準備していることでしょう。

こうした話を聞くと、「スケールが大きすぎて、自分の会社の参考にはならない」と思うかもしれません。しかし、テクノロジーのトレンドを読むことの重要性は、どんな会社にとっても無関係ではありません。

現在はどんな業界や業種でも、テクノロジーをまったく使っていない企業を探すほうが難しいはずです。職人が一つひとつ手作りするような伝統工芸品や、畑で採れる野菜でさえ、オンラインショップで販売される時代です。

ワイヤレスのトレンドが来たとき、「パソコンだけでなく、スマホからも利用しやすいサービスにしないといけない」といった対応は、どんな事業でも迫られたはずです。次に5Gが来たら、やはり「今のWEBサービスをどう組み立て直すか」を考える必要が出てくるでしょう。

孫社長のようにビジネスそのものを乗り換えなくても、今やっている事業の手法や切り口をテクノロジーのトレンドに合わせて変えていくことで、下りのエスカレーターに乗るのを避けられるのです。

孫社長は「志」だけは変えない

孫社長は飽きっぽいと言いましたが、実はずっと変えずにいるものがあります。

それは、ビジョンです。

ソフトバンクが創業時に掲げたのは、「情報革命を通じて、人の幸せを作る」というビジョンでした。

現在もソフトバンクグループのホームページには、「情報革命で人々の幸せに貢献し、『世界の人々から最も必要とされる企業グループ』を目指しています」という一文が掲げられています。

孫社長はこれまで様々な新規事業を追いかけてきましたが、成功したビジネスはすべてビジョンに沿ったものでした。

ソフトウェア流通もYahoo!関連サービスもADSLもスマートフォンも、まさしく“情報革命”をもたらすものです。

一方で、ビジョンに沿っていない事業に手を出したときは、ほとんどが失敗に終わっています。

例えば、2000年代初頭に手がけた証券取引所のナスダック・ジャパンの設立やあおぞら銀行(旧・日本債券信用銀行)の買収などは、最終的に撤退や売却の道を選ぶことになりました。

私自身も関わったプロジェクトなので残念ではあるのですが、今思えばソフトバクのビジョンから離れた事業だったことが原因だったのだろうと分析できます。おそらく孫社長もそれは自覚していて、近年手がけているのはビジョンにマッチしたビジネスばかりです。

孫社長自身がよく言っていたのは、「自分のビジョンに合わないことは、24時間ずっと全身全霊で考え続けられないんだよね」ということです。

孫社長は、自分が本当に面白いと思えることなら、寝ても覚めても考え続けるタイプです。私が部下だった頃は、夜中の2時や3時でも「いいアイデアを思いついたぞ!」というメールが来るほどでした。

これだけ夢中になって考えられるビジネスなら、良いアイデアがどんどん湧いてきて、人・もの・金・情報も集まり、成功確率は高まります。

一方で、「お金が儲かりそうだから」とか「人からどうしても協力してほしいと頼まれて」などの理由で新規事業を始めても、結局は興味や熱意を持てず、「絶対に成功させよう」という意欲も戦略も生まれてきません。よって、失敗に終わる確率が高くなります。

それにビジョンに沿っている事業同士なら、シナジーも出やすくなります。

例えばADSLは、すでに高い認知度があった「Yahoo!」ブランドを利用し、「Yahoo! BB」というサービス名にしたことが成功を後押ししました。現在スマホ決済サービスのPayPayが急拡大しているのも、ソフトバンクが手がけてきた携帯電話事業との相乗効果が大きくプラスに働いているでしょう。

次々と新しいことに手を出しているように見えて、実は一本の軸が通っているからこそ、ソフトバンクは大きく成長できたのです。

わかりやすくビジョンという言葉を使いましたが、孫社長は「志」という言葉を好んで使っていました。その定義は、「他人と共有できる夢」だと言っています。

「お金持ちになりたい」「勝ち組になりたい」といった私利私欲が先に立つ夢は「志」にはなりません。その夢を聞いた世の中の人たちが、「それが本当に実現できたらいいね」と思ってくれるものが「志」になります。

志という旗印を掲げれば、それに共感した人たちとともに、もの・金・情報が集まってくる。だから自分は集まったリソースを事業化し、価値を生み出して、それを世の中に再配分してみんなで共有するのだ――。これが孫社長の考え方でした。

もはや孫社長という人間そのものが、世の中のあらゆるリソースを集めるプラットフォームになっていると言ってもいいでしょう。

皆さんが経営トップの立場ではなくても、新規事業の立ち上げに関わるのであれば、「自分は何を目指すのか」という本質を見定めることがとても重要です。

自分はこのビジネスを通して、世の中にどんな貢献がしたいのか、ユーザーに何をもたらしたいのか――。

それを言語化し、ビジョンとして掲げるからこそ、人・もの・金・情報が集まってきます。

SQMの時代に、ビジョンなき事業は成り立ちません。

そして、そのビジョンは一貫して不変でなければいけない。

変化の時代だからこそ、「変えるべきものと変えてはいけないもの」を区別することが大切なのです。

SQM思考
三木雄信著(トライオン代表取締役) 発売日: 2019年08月27日
「どうすれば新しいビジネスのアイデアや事業プランを思いつきますか?」ソフトバンク社長室長時代、孫正義社長のもとでいくつもの新規事業の立ち上げに携わった著者は、こうした質問を最近よく受けるという。
THE21オンライン
(画像=webサイトより/THE21オンライン)
三木雄信(みき・たけのぶ)
トライオン〔株〕代表取締役社長
1972年、福岡県生まれ。東京大学経済学部卒業。三菱地所㈱を経て、ソフトバンク㈱に入社。27歳で同社社長室長に就任。孫正義氏の下で「Yahoo!BB事業」など担当する。 英会話は大の苦手だったが、ソフトバンク入社後に猛勉強。仕事に必要な英語だけを集中的に学習する独自のやり方で「通訳なしで交渉ができるレベル」の英語をわずか1年でマスター。2006年にはジャパン・フラッグシップ・プロジェクト㈱を設立し、同社代表取締役社長に就任。同年、子会社のトライオン㈱を設立し、2013年に英会話スクール事業に進出。2015年にはコーチング英会話『TORAIZ(トライズ)』を開始し、日本の英語教育を抜本的に変えていくことを目指している。2017年1月には、『海外経験ゼロでも仕事が忙しくでも 英語は1年でマスターできる』(PHPビジネス新書)を上梓。近著に『孫社長にたたきこまれた すごい「数値化」仕事術』(PHP研究所)がある。(『THE21オンライン』2019年10月08日 公開)

提供元・THE21オンライン

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