「お客をどこに取られたか」を見誤らないために

メタ思考ができる人とできない人とでは見えている世界が違うと、ビジネスコンサルタントの細谷功氏は言う。時代の変革期に生き残るために必要なメタ思考とは?

※本稿は、細谷功著『メタ思考トレーニング』(PHPビジネス新書)の一部を再編集したものです。

「目に見える線引き」は変革を阻害する

連載第2回で、Whyで考えると「土俵を変えられる」というお話をしました。これはさらに正確に言うと、非メタのレベルで考えている土俵とメタのレベルで考えている土俵とは「線の引き方」が異なっていることを意味します。

手段のレベルで見ている土俵、つまり線の引き方と目的のレベルで見ている線の引き方では異なり、目に見えるものをベースにした線の引き方と目に見えないものをベースにした線の引き方では異なって見えるということです。

つまり、メタの世界で考えている人には、非メタの世界で考えている人とは違った世界が見えているということです。

例をあげましょう。

「業界」という言葉があります。例えば自動車業界、放送業界、電気業界といった形で用いられますが、これは主に提供する商品やサービスが同じ会社同士の集団を言います。大抵のビジネスパーソンは「業界」という単位で物事を考えます。「業界の常識」があったり、就職活動等も「業界」を単位に行われることが多いようです。

ではこの業界という「線引き」は先の二つの見方のどちらに相当するでしょうか。これは「商品やサービス」という基本的に「目に見えるもの」で線引きされた世界であるがゆえに、非メタのレベルの線引きです。

目に見える線引きというのは、目に見える分、誰にでも理解ができるために、不特定多数の人たちの間での共通認識として固定的に運用されるのに適したものです。しかしそうした一方、表層的かつ固定的なために、ときにそれが思考を硬直化させて変革への障害となるのです。したがって、特に変革期においてメタ思考の視点で「線を引き直して」考えることが必要になってくるのです。

法律や規制、あるいは会社の規則というのも、「目に見える線引き」の典型的な例です。目に見える線引きは「誰にでもわかる」ものですから、多数の集団の規律を保ったり、ある程度できあがった仕組みを運用するためには必須のものですが、反面、時代の変革期になったときに陳腐化し、時代遅れなものとなってしまうために、むしろ変革に対しての阻害要因になってしまうのです。

こんなときに必要なのが、メタのレベルに上がって「そもそもその線引きは何のためだったのか?」を問うてみることなのです。

そのために必要なのが、Whyということになります。

ここでは、そのように「線を引き直す」という観点でのメタ思考のトレーニングをしてみましょう。

「昔ながらの喫茶店」の本当の競合はどこか?

メタ思考で線を引き直すことのトレーニングとして取り上げるのは、「自分の製品や会社の競合はどこか?」というトレーニングです。

通常「非メタ」のレベルで考えると、同じような見た目や機能を持った同種の製品・サービスを作っている「同じ業界内」の会社ということになります。ところが実際に顧客を奪い合っているのは、同じ業界の会社同士ではないかもしれません。

例えば、「吉野家の牛丼」を食べる人というのは、果たして毎回「松屋の牛丼」か「すき家の牛丼」かという選択肢を並べて吉野家を選択しているのでしょうか。

もちろん近くにそれらの店が密集しているのであれば、そのようなこともあるでしょうが、よほどの牛丼激戦区でない限り意外とそのような場面は少ないでしょう。

例えばランチタイムのビジネスマンが多く往来するような場所であれば、牛丼チェーンで食べようという選択肢を考えている人は、「時間がないので早くそれなりのもので済ませたい」という「目的」を持っている人が多いのではないでしょうか。

そうすると、実は吉野家の競合は「立ち食いそば屋」や「カウンター席のみのカレー屋」である可能性があります。このように、「目的」を考えると、競合相手がまったく変わってくるのです。

このように、特に選択肢が多く提供されている状況では顧客の意思決定は「同種の商品やサービス」ではない可能性が高いので、上位目的、つまりメタの視点で考えることが重要であると言えます。

【演習問題】

「昔ながらの喫茶店」の競合はどこ(何)か(だったか)?

・検討ステップ(1)

まずは昔ながらの喫茶店に行く目的をなるべく多く列挙してみましょう。

例:コーヒーを飲む、暇をつぶす……

・検討ステップ(2)

各々の目的の仮説に対して、「別の手段」がないか、喫茶店業界以外の選択肢をなるべくたくさん考えてみましょう。

例: 「コーヒーを飲む」なら、コンビニで買う、自販機で買う、家で自分で作る、オフィス(や家庭)のコーヒーマシンで……。「暇をつぶす」なら、スマホのゲームやLINE、本……
 

メタ思考トレーニング,細谷功
(画像=THE21オンライン)

【解説】

こう考えてくると、「喫茶店に行く」という行為一つとっても、実は様々な目的を持って行っていることがわかります。「顧客ニーズが変化する」とはよく言われる言葉ですが、「快適に時間を過ごしたい」「他者とのコミュニケーションをうまく行いたい」といった上位目的は、そう簡単に変化するものではありません。メタ思考で考えるというのは、そのように「簡単には変わらないもの」に立ち戻って代替手段を考えていくことです。

東京の都心では、すっかり「昔ながらの喫茶店」を見ることはなくなってきました。これを単純に「コーヒーチェーン店が台頭したから」という動きだけでとらえていると、「お客をどこに取られているか?」を見誤ることになりかねません。

また、目的として想定される「暇つぶし」や「待ち合わせ」「ゲーム」「新聞雑誌を読む」あるいは「友人知人とのコミュニケーション」「(書類を広げて)仕事をする」といったものの大部分が、いまやスマートフォンで代替可能になっているということにも改めて気づかされるでしょう。

【応用問題】

・「若年層に車が売れなくなった」ことの「競合」は何だったか考えてください。

・時代の変化とともに「同じ目的を満たす他の手段」が出てこなかったか考えてみてください。

・車を所有することの上位目的は何だったでしょうか。それを別の手段で満たしていることがないか考えてみましょう。

(例えば若者の「お金の行き先」がどう変わったかから考えてみてください)
 

メタ思考トレーニング,細谷功
(画像=webサイトより)

メタ思考トレーニング
細谷功 発売日: 2016年05月18日
メタ思考とは、「物事を一つ上の視点から考える」こと。その重要性はしばしば語られますが、実践するのは容易ではありません。例えば自分自身を「幽体離脱して上から見る」こと(=メタ認知)は、自己成長のためには必須の姿勢であるとよく言われますが、実際にそれができている人はそう多くはないでしょう。

そこで本書では、メタ思考を実践するための二つの具体的な思考法(「Why型思考」と「アナロジー思考」)を紹介するとともに、それをトレーニングするための演習問題を多数用意しました。

……問題を解いていくうちに思考回路が変わり、考える力が飛躍的にアップする1冊!

細谷 功(ほそや・いさお)
ビジネスコンサルタント
1964年、神奈川県生まれ。東京大学工学部を卒業後、東芝を経て日本アーンスト&ヤングコンサルティング(現、㈱クニエ)入社。2012年より同社コンサルティングフェローに。ビジネスコンサルティングの傍ら、講演やセミナーを多数実施。『「Why型思考」が仕事を変える』『メタ思考トレーニング』(PHPビジネス新書)、『考える練習帳』(ダイヤモンド社)など著書多数。(『THE21オンライン』2019年09月17日 公開)

提供元・THE21オンライン

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