目標とする英語力と現状とのギャップが果てしなく大きく感じられるとき、英会話スクールの窓口で料金プランを一覧するとき、自分なりの取り組みがなかなか会話力の伸びにつながらないとき…。様々な場面で浮かぶ「英語を習得するには一体どれぐらいの時間が必要なのか」という疑問。

今回は、英語を学ぶ誰もが一度は自身に投げかけるこの問いについて、人が母語以外の言語を習得するプロセスの解明を試みる「第二言語習得」の観点から、回答を探ってみたいと思います。

調査データに基づく仮説

母国語以外の言語の習得に必要な時間を考察するとき、よく利用されるのが米国国務省の付属機関、FSI(The Foreign Service Institute:外務職員局)の調査データです。この調査でFSIは、英語を母語とする国務省の研修生が各言語の習得に要した時間をもとに、英語のネイティブスピーカーにとっての各言語の習得難易度を三段階に分類しています。その中で、日本語はアラビア語や韓国語と並び、最も難易度が高いカテゴリー3に属し、同カテゴリー内でも他に比べて特に習得が難しい言語とされています。
 

Category I: Languages closely related to English
23-24 weeks (575-600 class hours)
Afrikaans
Danish
Dutch
French
Italian
Norwegian
Portuguese
Romanian
Spanish
Swedish
Category II: Languages with significant linguistic and/or cultural differences from English
44 weeks (1100 class hours)
Albanian
Amharic
Armenian
Azerbaijani
Bengali
Bosnian
Bulgarian
Burmese
Croatian
Czech
Estonian
Finnish
Georgian
Greek
Hebrew
Hindi
Hungarian
Icelandic
Khmer
Lao
Latvian
Lithuanian
Macedonian
Mongolian
Nepali
Pashto
Persian (Dari, Farsi, Tajik)
Polish
Russian
Serbian
Sinhalese
Slovak
Slovenian
Tagalog
Thai
Turkish
Ukrainian
Urdu
Uzbek
Vietnamese
Xhosa
Zulu
Category III: Languages which are exceptionally difficult for native English speakers
88 weeks (second year of study in-country)
(2200 class hours)
Arabic
Cantonese
Mandarin
Japanese
Korean
Other languages
German 30 weeks (750 class hours)
Indonesian
Malaysian
Swahili
36 weeks (900 class hours)

※「*」の言語は英語ネイティブスピーカーにとって、同カテゴリー内の他言語に比べて習得が難しい
(Language Learning Difficulty for English Speakers:Languages of the Worldより引用)

FSIでは、カテゴリー3に属する言語の習得に英語ネイティブが要するクラス受講時間を、およそ2,200時間としています。(※FSIの調査では、2年目の学習は対象言語の国で行われました。また、学習者はクラス受講の他に自習を行っていました。)

言語間の類似性の高さを、言語学では「言語間距離(language distance)」という言葉で表し、母語と学習する言語の言語間距離が近いほど、その言語は学習しやすいと一般的に言われています。2,200時間という数字は、英語を母国語とする人が日本語習得に要する時間ですが、この時間が英語と日本語の言語間距離を表していると考えれば、同じ距離を逆にたどる日本人の英語習得にも、やはり2,200時間が必要なのではないかという仮説が導かれます。

個人差はあれ、日本では多くの人が中学校・高校・大学などを通して1,000時間以上、英語を学んでいることを考えると、社会人学習者の英語習得には、残るおよそ1,000時間強の学習が必要であるということになります。