大手総合商社の伊藤忠商事が7月8日、コンビニ大手のファミリーマートの完全子会社化を発表した。TOB(株式公開買い付け)を実施し、TOB後にファミリーマートは上場廃止となる。これまで出資比率が50.1%だった伊藤忠商事が、ファミリーマートを完全子会社化する狙いとは?

TOBに約5,800億円、買い付け期間は8月24日まで

伊藤忠がファミリーマートの株式を初めて取得したのは1998年。その後、2018年に約1,200億円を投じるTOBによって出資比率を41.45%から50.1%まで高め、ファミリーマートは伊藤忠商事の子会社となった。

伊藤忠商事は今回発表したTOBで約5,800億円を投じ、出資比率を100%として完全子会社化する。ファミリーマート側も、これに賛同している。TOBの買付期間は7月9日から8月24日までで、買付価格は1株当たり2,300円とされている。

今回のTOBでファミリーマートは上場廃止となり、同社は非公開会社となる。この目的について伊藤忠商事は、「伊藤忠商事と対象者(ファミマ)がグループ一体となって迅速に意思決定を進めていくことが不可欠との認識を両者の間で共有したため」と説明している。

両社が迅速な意思決定が重要だと考えている背景には、小売業界における企業間競争の激化のほか、売上拡大に向けて消費者ニーズに素早く対応する必要性などがあるという。

「商社-コンビニ大手」の構図ができつつあるコンビニ業界

「商社—コンビニ大手」という構図で事業を展開しているのは、ファミリーマートだけではない。三菱商事はローソンを2017年に子会社化しており、セブン&アイホールディングスも三井物産とタッグを組み、物流や施設開発などにおいて連携を深めている。

ただし、「伊藤忠商事—ファミリーマート」「三菱商事—ローソン」「三井物産—セブン&アイホールディングス」の3陣営は、いずれも商社側がコンビニ側を完全子会社化しているわけではなかった。

今回のTOBで、「伊藤忠商事—ファミリーマート」だけが完全親会社と完全子会社という関係になる。伊藤忠商事は自社の経営資源を最大限に活用し、ファミリーマートがコンビニ業界における激しい競争を勝ち残っていけるよう、最大限尽力する考えのようだ。

伊藤忠がファミマを完全子会社化した目的は?

伊藤忠商事は、「ディビジョンカンパニー」制を導入している。事業部門を「繊維カンパニー」「機械カンパニー」「金属・エネルギーカンパニー」などに分け、それぞれが各分野の事業に取り組んでいる。

ファミリーマートの事業は、2019年7月に新設された「第8カンパニー」の領域だ。伊藤忠商事は同カンパニーにおいて、マーケットや消費者の需要をより重視する「マーケットイン型」での新規ビジネスの創出などに積極的に取り組んできた。

コンビニ業界は今、24時間営業問題やフードロス問題などにより、ビジネスモデルの見直しを迫られている。またAmazonなどのEC(電子商取引)大手の台頭によって、コンビニの事業領域が浸食され始めている。伊藤忠商事は今回のファミリーマートの完全子会社化で、これらの課題にコミットしていくものと考えられる。

ファミリーマートの今後の戦略 JA全農とも業務提携

2020年2月期のファミリーマートのチェーン全店売上高は2兆9,650億円で、業界では第2位となっている。上には売上高が約2兆円多い「セブン—イレブン・ジャパン」があり、下には売上高が約4,600億円少ない「ローソン」がいる。

ファミリーマートはセブン—イレブン・ジャパンに大きな差をつけられており、2020年2月期の売上高でも、セブン—イレブン・ジャパンが前期比2.3%増と堅調だった一方で、ファミリーマートは同0.6%減と低調だった。

ローソンは同3.4%増と上位3社の中で最も好調で、ファミリーマート側から見れば2位の座の堅持に不安が残る状況だ。このような状況の中、ファミリーマートはどのように売上高を伸ばしていくつもりなのか。

前述の課題を解決することによる売上増にも期待がかかるが、伊藤忠商事はJAグループとの連携によって農産物などの生鮮食品の品揃えを増やし、いずれは「農産物ならファミリーマート」というポジションを確立する計画もあるようだ。

今回のファミリーマートによる完全子会社化に合わせ、ファミリーマートと伊藤忠商事、JA全農、農林中央金庫の業務提携も発表されている。伊藤忠商事による完全子会社化の後、JA全農と農林中央金庫はファミリーマートの株式を4.9%取得する計画だ。

完全子会社化で業績はどう変化していく?

キャッシュレス化の波や新型コロナウイルスに対する対応など、コンビニ業界の事業環境は変わりつつある。EC大手による事業領域の浸食も顕著だ。伊藤忠商事がファミリーマートを完全子会社化するのは、このような激しい変化に対応するためだろう。

コンビニ業界のトップ、セブン-イレブンとの差を独自路線で埋めることができるか、注目したい。

 
執筆・岡本一道(政治経済系ジャーナリスト)

国内・海外の有名メディアでのジャーナリスト経験を経て、現在は国内外の政治・経済・社会などさまざまなジャンルで多数の解説記事やコラムを執筆。金融専門メディアへの寄稿やニュースメディアのコンサルティングも手掛ける。  

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