「パワハラ防止法」施行により、ハラスメントへの風当たりは増す一方

2020年6月1日に予定されている「パワハラ防止法」の施行まであと3カ月を切った。企業にパワハラ対応を義務づけるこの法律の施行により、これまで以上に「パワハラ」への風当たりが強くなることは必至だ。

それに加えて、昨今の職場では様々な「ハラスメント」が生まれつつある。なぜ、これほどまでに「職場のハラスメント」に敏感な時代になってしまったのか……。長年、労働法制に携わり、この3月にパワハラ防止法に対応した新しいルールを解説する『「職場のハラスメント」早わかり』を発刊する布施直春氏にうかがった。

(本記事はPHP研究所刊『「職場のハラスメント」早わかり』より一部抜粋・編集したものです)

「パワハラとは何か」説明できますか?

「パワハラ防止法」の施行が迫る昨今ですが、あなたは「パワハラとは何か」と質問されたら、迷わず答えることができるでしょうか。

パワハラが「パワーハラスメント」の略であることは、多くの人がご存じだと思います。

そもそもパワハラという言葉が生まれたのは比較的最近のことで、2000年代初めくらいから使われるようになったとされています。

それ以前から、異性(特に女性)に対して性的な嫌がらせをする「セクシャルハラスメント」という言葉はあったのですが、性的な言動ではない、上司から部下へのいわゆる「いびり」「いじめ」のような言動を指す言葉がありませんでした。そこで、「パワーハラスメント」という言葉が使われるようになったのです。

ハラスメントというのは、他の労働者への言動により、法律で保護されている他者の権利や利益を侵害することです。パワーとは「権力」の意味で使われており、つまり、権力や立場などの優越性を背景にしたいじめや嫌がらせが「パワーハラスメント」ということになります。

ちなみに今回の法改正により、厚生労働省指針で示された「パワハラの定義」は以下になります

職場において行われる、1優越的な関係を背景とした言動であって、2業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより、3労働者の就業環境が害されるものであり、1から3までの要素を全て満たすもの。

つまり、単なるいじめや暴力はパワハラではなく、あくまでも、職場における優越的な権限や立場を背景にしたものが、「パワハラ」となるのです。パワハラが一般的に上司から部下に対して行われるとされるのは、上司が部下に対する権限を持っているからです(ただし、「部下から上司へのパワハラ」も存在します)。

ついにパワハラも法律によって規制される時代に

職場における各種のハラスメント行為の中でも、特定の内容や相手に対して行われるものに関しては、それぞれ別の名前がついています。

セクハラ、つまり「セクシャルハラスメント」は「性的な言動によるハラスメント」ですし、「マタハラ(マタニティハラスメント)」は、妊娠、出産や育児に関するハラスメントのことです。育児休業等を取得する男性に対する「パタハラ(パタニティ=父性ハラスメント)」という言葉もあります。また、介護に関するハラスメントは「ケアハラ(ケア=介護ハラスメント)」と呼ばれています。

その他、昨今はいわゆる性的少数者を指す「LGBT」へのハラスメントも問題視されています。こうした人々に対するハラスメントは、「Sexual Orientation(性的指向)」と「Gender Identity(性自認)」の頭文字を取り、「SOGIハラ(ソジハラ)」とも呼ばれます。

これらのハラスメントについては、以前から法律によって規制されていました。

ただし、最も代表的と言ってもいい、職場における「パワハラ」については、これまで法律上の定義がはっきりしていませんでした。そこで、今回の法改正により、「パワハラ」についても法律によって明確に規定されたのです。

「スメハラ」「アルハラ」ってご存じですか?

これらはいわゆる「法律で対処できるハラスメント」ですが、ハラスメントという言葉はさらにいろいろな分野に広がってきています。

たとえば「スメルハラスメント」(スメハラ)というのは、職場でのにおい、たとえば体臭や強すぎる香水のにおいなどで周りに迷惑を与えること。「エイジハラスメント」(エイハラ)は、仕事ができない中高年社員に対する嫌がらせ。「アルコールハラスメント」(アルハラ)は、飲めない人に無理やり酒を飲ませたりすることによる迷惑行為を指す言葉です。

「ヌーハラ」なる言葉もあります。「ヌードルハラスメント」の略で、ラーメンなどを食べる際の音やにおいによるハラスメントのことだとか。

なんでもかんでもハラスメントと名づけすぎという気もします。しかし、これらもその発言内容や状況によっては当然、パワハラやセクハラになるので、ご注意ください。

また、「カスハラ」という言葉も問題になっています。これは顧客(カスタマー)からのハラスメントのことで、度を越したクレームや謝罪の要求などによるハラスメントのことを指します。

ステレオタイプの押しつけ」が許されない時代に

それにしても、なぜこれほどまでに「職場におけるハラスメント」が増えてきたのでしょうか。

その背景にはやはり、「自分らしい生き方」「多様な働き方」を望む人が増えてきたことがあると考えられます。自分の邪魔をされたくないし、他人の邪魔もしたくない。だからこそ、それを阻害する要因を「ハラスメント」と感じるのではないでしょうか。

価値観が多様になっている現在に比べ、高度成長時代はある意味、誰もが同じような価値観を持っていた時代でした。モノ不足により、とにかくモノを作って売れば売るほど儲かる。だからこそ長時間労働が推奨され、自分の意思よりも、会社や上司に言われたとおりに働く人が重宝されました。

また、女性は20代で結婚して寿退社して家庭に入り、子供を作って専業主婦になる。そして、男性は家庭を女性に任せて長時間労働をしてお金を稼ぐ。このステレオタイプこそが幸せだと信じて疑わない人が大多数だったのです。

今は違います。経済が右肩上がりではなくなった現代、長時間労働をしてひたすらモノを作ったところで、モノが余るだけ。結婚しない人も子供を作らない人も増えており、それぞれの価値観だとして認められています。

そうした意識の転換に、人も組織もついていけていないことが、ハラスメントの増加につながっていると言えるのかもしれません。
 

THE21オンライン
「職場のハラスメント」早わかり(画像=webサイトより、THE21オンラインより引用)

「職場のハラスメント」早わかり
布施直春(人事・労務コンサルタント) 発売日: 2020年03月18日
2020年6月施行「パワハラ防止法」完全対応! 管理職が必ず知っておくべきパワハラ、セクハラ、マタハラ等のハラスメントの「アウト・セーフ」が手に取るようにわかる。(『THE21オンライン』2020年03月13日 公開)

提供元・THE21オンライン

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