戦略を教えてもらっても、戦略を立てられるようにはならない!

2010年1月に経営破綻したJAL(日本航空)は、会長に就任した稲盛和夫氏らのもとで再生を果たし、12年9月に再上場を果たした。新たな出発をしようという、まさにその頃、同社に戦略立案と人材育成のコンサルティングに入ったのが、〔株〕フィールドマネージメントだ。いったい、どのようなプロジェクトだったのか。同社のマネージングディレクターで、グループ会社である〔株〕フィールドマネージメント・ヒューマンリソースの代表取締役も務める小林傑氏に話を聞いた。
 


小林氏らがJALのコンサルティングを始めたのは、2012年8月。再上場を控えたJALが収益性を高め、新たな成長に向けて動き出そうとしていた時期だ。

「(同年2月に就任した)植木(義晴)社長(現・会長)は、過去の轍を踏まないために、顧客起点のマーケティング戦略が必要だと考えていました。そこで、我々は小さな会社ですが、そのコンサルティングをさせていただこうと、プレゼンをしに伺ったのです。今までで一番思い出深いプレゼンでした。

我々がご提案したのは、自走型マーケティング組織開発プロジェクトです。外部のコンサルティング会社が戦略を立てて、それをクライアント企業に渡すのが一般的ですが、それではクライアント企業に戦略を立てるノウハウが何も残りません。自分たちで戦略を立てられるようにならないと意味がないと考え、戦略立案と、戦略立案ができる人材の育成とを一体化したプロジェクトを提案したのです」

提案は見事に採用され、「JALマーケティングアカデミー」という名前でプロジェクトが発足した。

「商品開発や宣伝、マイレージ、路線事業、営業部門など、マーケティングに関係する様々な部門のキーパーソンたちが、組織横断でプロジェクトに集まりました。国内線と国際線に分かれて、各20名ずつです。プロジェクトの期間は1年間(50週)で、4カ月ずつ、3つのフェーズに分けて進めました。フェーズごとに入れ替わるメンバーもいれば、継続するメンバーもいました」
 

THE21オンライン
プロジェクトの様子(画像=THE21オンラインより引用)

メンバーたちは、毎週2時間、マーケティング戦略の立て方についての教育を受けながら、実際にマーケティング戦略を立てる。テーマは、現実にJALが抱えている課題だ。フェーズごとにテーマは違い、各フェーズが終了するととともに、それぞれのテーマについてのマーケティング戦略が出来上がることになる。

「マーケティング戦略を立てるということは、ターゲットを決めて、そこにどういう価値をいかに届けるかを決めることですが、そのためには、仮説を立てて、調査でそれを検証して……、というプロセスが必要です。そのプロセスを非常に細かく分けて教えました。そして、毎回課題を出し、それに対して、メンバーからアウトプットをもらいました。それを、こちらが考えて用意していたものと比較する、ということを繰り返すことで、マーケティング戦略の立て方を体感しながら学んでいただいたのです」

例えば、市場調査のためにアンケートを取るにしても、質問項目を漫然と作っては意味がない。仮説を立てたうえで、それを検証できるように設計する必要がある。消費者インタビューの際は、聞き取ったことと、その解釈とを、明確に分けて記録する必要がある。プロジェクトメンバーは、そうしたことを一つひとつ、ただ教わるのではなく、実際に考えながら、実践的に学んでいった。「特に中心的なメンバーは、驚くほど成長した」と小林氏は話す。

また、プロジェクトを進めるに当たって、プロジェクトメンバーの上長たちの理解を得ることにも注意したという。

「上長は、組織横断のプロジェクトよりも、自分がいる組織の仕事を優先してほしいと思いがちですから、プロジェクトの意義をしっかりと伝えることが大切です。キックオフの際には、JALの事務局と我々とが上長たちに説明をする場を設けましたし、2~3週間に1度は、上長たちとプロジェクトの進捗状況を共有しました」

1年間のプロジェクトが終わったときには、メンバーの上長たちも含めて、プロジェクトに関わった人数は約200人にもなったそうだ。最後は大ホールで、植木社長(当時)も出席してセレモニーを行ない、修了証と記念のワッペンを授与した。
 

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プロジェクトの修了者に贈られた記念のワッペン(画像=THE21オンラインより引用)

プロジェクト終了後も数年間、JAL社内の各部門でマーケティングについて抱えている課題を、プロジェクトの中心メンバーがPMO(プロジェクト・マネジメント・オフィス)として集約し、小林氏らに相談する場を、毎週2時間設けていたそうだ。また、JALマーケティングアカデミーの内容を半日~1日に圧縮した研修は現在も行なわれていて、累計数千人が受講しており、ここで学ぶことは社内で共通言語になっているという。

「我々が戦略立案と人材育成を一体にしたプロジェクトを行なったのはJALが初めてでした。メンバーからは『仕事が楽しくなった』という声もいただいています。新しいことを身につけ、自分自身でできることが増えて、結果も出たからでしょう。JALのあとは、他の企業でも同様のプロジェクトを行なっています。

私は2015年に組織・人事分野に特化した〔株〕フィールドマネージメント・ヒューマンリソースを設立して、その代表取締役に就任しましたが、JALでのプロジェクトで組織・人事の大切さに改めて気がついたことが、その大きなきっかけになりました」

小林 傑(こばやし・すぐる)
〔株〕フィールドマネージメント・ヒューマンリソース代表取締役
1977年生まれ。神奈川県出身。2000年、慶應義塾大学環境情報学部卒業。〔株〕日本交通公社(現・〔株〕JTB)を経て、03年に〔株〕リンクアンドモチベーションに入社。執行役員として大手企業を中心に組織人事コンサルティングに従事したのち、11年、新機軸の経営コンサルティングファームである〔株〕フィールドマネージメントに参画し、マネージングディレクターを務める。航空、Eコマース、食品など、他業界においてマーケティング、ブランド、組織開発、人材育成プロジェクトに従事したのち、15年、HR領域を主軸とするグループ会社として〔株〕フィールドマネージメント・ヒューマンリソースを設立し、代表を兼任。〔株〕カオナビ社外取締役。(『THE21オンライン』2020年03月19日 公開)

提供元・THE21オンライン

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