「ウケる」技術を磨いて正しく笑いを取ろう

ビジネスでは、コミュニケーションを良好にし、相手との信頼関係を築くことが重要だ。そこで、元お笑い芸人であり、現在は「笑いの力」で組織改革を行なうコンサルティング事業を手がける中北朋宏氏に、信頼関係を築くために使える「ウケる」技術を教えてもらった。

ロジックを知れば誰でも面白くなれる

信頼関係の入り口は、相手の心を動かすことにあります。笑いは、そのための方法の一つです。笑いで気持ちをほぐすと、相手が安心して、本音を語り合う関係を作ることができるのです。

お笑い芸人の場合は、相手に笑ってもらうことが仕事の目的そのものですが、ビジネスパーソンの場合は相手との関係作りが目的。ですから、笑いは絶対に必要なものというわけではなく、スパイスのようなものですが、それだけに、うまく活用できれば、緊密な信頼関係を築く強力な武器になります。

「芸人でもないのに、相手に笑ってもらうなんてできない」と思う人もいるでしょうが、「自分から笑う」という簡単な方法でも、相手に笑ってもらうことはできます。

相手の言葉にポジティブな印象を持ったら、そのたびに良い笑顔で反応し、時には笑い声も立ててみてください。すると相手は「受け容れてもらえた」と感じ、心がほぐれていって、笑顔を見せるようになるでしょう。

つまり、良いリアクションを取るということです。リアクションは、お笑い芸人も最初に身につける「ウケる」技術です。

このように、相手に笑ってもらうことは、誰にでも十分に可能です。プロの芸人のようなレベルを目指すとなると話が別ですが、商談相手や緊張している若手などをクスッと笑わせるようなスキルは、トレーニングによって磨けます。

ただし、笑いのロジックを理解したうえで、それに基づいてトレーニングをすることが重要です。

B5サイズの特大名刺が商談のフリとオチになる

「ロジカルシンキング」という思考法があるように、笑いも一つの思考法です。

すべての笑いは、緊張と緩和、芸人の言葉で言うなら「フリ」と「オチ」というメカニズムによって生まれます。

フリとは、自分が発する印象や話題から生まれる共通認識、オチとはそれに対する裏切りです。

例えば、「お坊さんが屁をこいた」が笑いになるのは、「お坊さんとはこういうものだ」という共通認識がフリになり、それを裏切る「屁をこいた」がオチになるからです。

僕は、商談もフリとオチの繰り返しで構成しています。

まず、「元芸人の人事コンサルタント」という肩書きがインパクトのあるフリになっています。これを事前情報として知っている相手の頭の中には、「本当にビジネスのことがわかっているのか?」という不安が生まれているはずです。そこで僕は、必ず白いシャツに紺のネクタイという真面目な恰好をしてお会いします。これが、事前のイメージを裏切るオチになるわけです。

ここで「意外にきちんとした人なんだな」と思われれば、それがまた次のフリになります。このフリに対するオチは、B5サイズの特大の名刺。受け取った相手は、「ああ、やっぱり元芸人なんだな」となりますね。

さらに、ここで終わりではありません。この名刺をフリにして、「実は、この名刺はマーケティングの一環なんです」という真面目な説明をオチにします。このふざけた名刺に表情一つ動かさなければ、僕の会社が提案している「笑いを通したコミュニケーション改革」はフィットしないだろうと予測できるんです、という説明です。

これを聞いた相手は、「コンサルタントとして信頼が置けそうだ」という印象を抱きつつ、「さっきの自分の反応はどうだったろう?」とも思うでしょう。そこで、「今日は素晴らしいリアクションしていただけて、良い商談になりそうです!」と、ポジティブなひと言を投げかけます。

このプロセスを定番にして以来、受注率が2.5倍になりました。

つまり、自分の印象を自己プロデュースすることでフリを作り、それに対してオチをつける。それを連続させて「場をデザインする」ことで笑いが生まれ、信頼関係も生まれるのです。

印象というと、一般的には相手に持たれる受け身のものだとのだと思われがちですが、実は自分で作り出せます。「ウケる」技術とは、主体的に相手に印象づける技術なのです。

フィードバックで「盲点の窓」を開けよう

では、自分の印象の自己プロデュースは、どのようにすればできるのか。

第1段階は、自分がどんな印象を持たれているか=どんなフリを発しているかを確認することです。

自分が自分に対して抱いているイメージと、他人が自分に対して抱いている印象が一致していないことは多くあります。ズレがあれば、適切なオチを作ることができず、スベることになります。

心理学で有名な「ジョハリの窓」(図1)で説明すると、重要なのは、「盲点の窓」を開けることです。他人は知っているけれども、自分は気づいていない一面を知ることで、自分が周囲に対してどんなフリを発しているのかが自覚でき、それにふさわしいオチを考えられるようになります。
 

THE21オンライン
(画像=THE21オンラインより引用)

「盲点の窓」を開けるには、友人や家族、上司や部下など、周囲の人からフィードバックをもらうのが一番。ストレートに「自分はどう見えている?」と聞きましょう。

このとき、良いことばかりを言ってもらえるとしたら、必ずしも喜ぶべきではありません。信頼関係が築けていない場合、「良い人ですよね」「接しやすいです」など、無難な言葉でお茶を濁すものだからです。もし部下にそう言われたら、「気詰まりな印象を与えているのかも」と自分を振り返ってみるのがいいでしょう。

また、笑いにつなげやすいという意味では、「秘密の窓」も重要です。自分は知っているけれども他人は気づいていない話、例えば過去の失敗談なども、笑いになります。

「なりたい自分像」は不満の裏にある

忌憚のない意見をくれる相手を選んでフィードバックをもらったり、無難なフィードバックの裏を考えたりして、自分が発しているフリがつかめれば、次は、相手に与えたい印象、つまり、「なりたい姿」をイメージしてください。

方法は、ビジネスにおける目標設定と同じ。他人からもらったマイナスの指摘や日頃から感じている自分への不満など、問題だと感じていることを洗い出して書き出すのです。

不満があるということは、とりもなおさず、なりたい姿との乖離があるということです。問題意識の裏側には、必ず希望や理想があります。現状をどう変えたいかを言語化すると、なりたい自分像が浮き彫りになります。

ただし、本当は問題ではないことを問題視してしまうこともよくあります。これは、組織においても頻繁に起こります。例えば、「離職率の高さに悩んでいる」と言いつつ、「少数精鋭のチームを目指している」というケース。それなら離職率はさほど問題ではないはずです。

これを防ぐ方法は二つ。一つは、「なぜ不満か」を掘り下げ、自分の価値観と照らし合わせたときの重要度を測ること。二つ目は、不満が解消した状態が「なりたい姿」と合致するかを確認することです。

また、短所自体は解決すべき問題ではないということも重要です。短所こそ、笑いを取るための心強い武器になります。「太っている」「顔が怖い」などは、とてもわかりやすいフリになるのです。そのフリを使って、自己プロデュースのためのオチを作ればいいわけです。

聞くところによると、孫正義さんには会議前に言う定番の台詞があるそうです。まず、「お前たちは頑張ってない!」と怒っておいて、「俺みたいにハゲていないじゃないか」と。アイスブレイクとして最高のフリ&オチですね。

長所も短所もこれと言ってない人もいるでしょうが、それこそ最高の短所です。相手に印象が残りにくいことをフリとして、オチを作ればいいのです。例えば、意図的に無難な服装や髪型にして、「次にお会いするときは、きっと僕のことを忘れていらっしゃいますよ」と言えば、クスッと笑えて、印象に残るでしょう。

一般人が陥りやすい「笑いの落とし穴」とは

なりたい姿が自覚できたら、その印象を相手に与えるためのフリとオチを磨いていきましょう。

ここでは、お笑いの世界で言う「こする」というプロセスあるのみです。すなわち、何度も実践して、ウケるかウケないかを試しては修正し続けるのです。これを芸人は皆、やっています。ビジネスで言うPDCAと同じです。

ウケるためのポイントの一つは、ひと言でリアクションできるオチにすることです。ここは、多くの人が失敗するところです。

笑いは、物事の真ん中を押さえたうえで、少しだけ外したオチを放つことで生まれます。

例えば、「小学生の好きな食べ物は?」という問いの真ん中は「ハンバーグ」。これを少し外して「ホッケ」とボケれば笑いになります。相手がリアクションをするなら「渋すぎる!」などのひと言でしょう。しかし、「養命酒」だと、外しすぎてわかりにくく、笑いになりません。リアクションを取るにも、「渋すぎるし、子供はお酒はダメ」とふた言以上になってしまいます。フットボールアワーの後藤輝基さんのような突っ込みが好きな人もいますが、あれはプロの芸人の技であって、ビジネスパーソンが目指すものではありません。

最初から全力でボケるのも、よくあるスベるパターンです。初対面で「初めまして、ジョニー・デップです」と挨拶するのは高田純次さんにしか許されません。

笑いは「雪だるま」です。お笑い用語では「かぶせる」と言いますが、小さく重ね合わせて徐々に大きくしていくのがコツ。先ほどの養命酒の例も、間にホッケを挟んで流れができていれば笑いになるでしょう。いきなり言ってはいけないのです。

パワハラにならない「イジリ」とは?

世の中には、「イジリ」と称してパワハラまがいのコミュニケーションを取る人もいます。

例えば、上司が部下をイジっているようで、ただマウントを取り、権力を誇示しているケース。この仕打ちを継続的に続けると、部下は「学習性無力感」を感じます。本当はできることもできないと思い込み、チャレンジをしなくなるのです。

プロの芸人のイジリは、「この人、面白いよ」と、その対象にスポットライトを当てようとする、愛情から来る行為です。イジるときには、相手への愛と尊敬が不可欠。そのうえで、必ずポジティブな言葉を使ってください。

例えば、ミスをした部下のことを「こいつ、バカなんだよ」とイジるのはパワハラになってしまいます。「すごく味わい深いミスをしたんだよ」といった表現だと、印象がまったく違うでしょう。愛があるなら、そうしたポジティブな言葉に変換させましょう。そうすることで、相手との関係の質が高まります。相手の中に「心理的安全性」が生まれるからです。

心理的安全性は、特に高い目標を掲げているときには欠かせません。目標が高ければ困難も多いし、時には激しい議論で衝突する場面も起こり得ます。だからこそ、各々が「自分はここにいていい」と思えることが大事なのです。

個性を磨く前にまず「完コピ」してみよう

面白い人になりたいのなら、周囲にいる面白い人をお手本にするという方法もあります。前述の「なりたい姿」としてその人を設定し、素晴らしいと感じる要素を書き出すのです。

より本格的にするなら、その人の「完コピ」をすることをお勧めします。口調や身振り、トークの流れなどを、そっくり真似るのです。繰り返すうちに、間の取り方やフリとオチの構成が身についてきます。

武道も茶道などの芸事も、すべて身につけるときは「守破離」のプロセスをたどります。最初は師匠を真似て、徐々に自分のやり方も試し、最後に独自の手法を打ち立てる。最初から自分を出そうとすると失敗します。

近年、「自分らしさ」を至上とする考え方が行きすぎて、他人から学ぶことを怠る人が多いですが、やはり最初は学びが大事です。

学ぶ中で、自分の個性を活かす方法が少しずつ見えてきます。笑いにも様々な個性の出し方があります。短所をさらけ出す人、愛情こめてイジる人、言葉のチョイスを極める人などなど。どの路線が向いているか、最初の自己分析に随時立ち返って考えましょう。

《取材・構成:林 加愛》
《『THE21』2020年3月号より》

中北朋宏(なかきた・ともひろ)
〔株〕俺代表取締役社長
浅井企画に所属し、お笑い芸人として6年間活動後、人事コンサルティング会社に入社。内定者から管理職まで幅広い人材育成の企画提案に従事し、新商品の販売実績で2年連続MVPを獲得。2018年、〔株〕俺を設立。お笑い芸人からの転職支援「芸人ネクスト」や、笑いの力で組織を変える「コメディケーション」を展開中。著書に『「ウケる」は最強のビジネススキルである。』(日本経済新聞出版社)がある。(『THE21オンライン』2020年03月31日 公開)

提供元・THE21オンライン

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