波という現象は、激しく動いて移ろいゆくのが常識ですが、物理学には波が止まった状態を維持する不思議な現象が予言されています。
1973年に予言されたこの不思議な現象は「超放射相転移」と呼ばれていて、温度が下がったとき電磁波が止まった波として現れるといいます。
これは非常にマイナーな現象で、研究者も少ないため50年過ぎても現実で現象を観測した例は報告されていませんでした。
しかし今回、京都大学白眉センター 馬場基彰特定准教授らの国際共同研究グループは、エルビウムオルソフェライト( ErFeO3)と呼ばれる磁性体( 磁石)から超放射相転移を初めて確認したと報告しています。
研究の詳細は、2022年1月10日付で英国の学術誌『Communications Physics』にオンライン掲載されています。
目次
”止まった波”『超放射相転移』とはなにか?
電流と磁場がお互いを支え合う
マイナーな研究を取り巻く問題
”止まった波”『超放射相転移』とはなにか?
今回の研究のテーマとなっている「超放射相転移」とはなんなのでしょうか?
相転移というのは、簡単に言えば水が氷になったり、または水が水蒸気になったりする現象のことです。
温度というのは、分子の持つ運動エネルギーです。
温度が高くなったり低くなったりすると、水を構成している水素や酸素の動き方が変わります。そのため水の状態が固体・液体・気体・プラズマなどに変化していくのです。
このように温度などの条件変化によって、物質の性質が変化することを「相転移」と呼びます。
他にも絶対零度近くまで物質を冷やすと電気抵抗が0になるという超伝導や、600℃以上に加熱すると磁性を失うフェライト磁石などの現象もみな相転移の一種です。
では、この「相転移」という言葉を含む、超放射相転移はどういう現象なのでしょう?
これは研究者によると、物質の状態が変化するだけでなく周囲にある電磁場までが一緒に性質を変化させてしまう現象なのだといいます。
このとき、物質の周囲にある電磁波は、”止まった波”になるのです。
なぜ、そんなことが起きるのでしょうか?
電流と磁場がお互いを支え合う
物質を加熱していくと光を放つようになります。
たとえばキャンプで炭焼きバーベキューをすると、熱した炭が赤く輝くのに気づくと思います。
なぜ、炭は輝くのでしょう?
先ほども述べたように、温度とは分子や原子の運動エネルギーです。
物質を熱すると、原子を構成する電子も激しく運動するようになります。電子が激しく運動するとそこには電流が生まれます。
そして電流が流れるとその周囲には磁場が発生し、これらの作用は電磁波となって空間を広がっていきます。
私たちが光と呼ぶものは、可視波長の電磁波のことなので、熱した物質は光を放つようになるわけです。
コイルを敷き詰めた空間で、温度を上げたり下げたりする実験をした場合、物質を熱したときは、電子はめちゃくちゃに激しく動き回るため、かなり乱雑な電磁波が生じます。
これは炭が光を放っているのと同じ状況です。
しかし、逆に物質を冷やしていった場合、どうなるでしょうか?
このとき、非常に興味深いことが起きるです。
コイル内の電子の熱エネルギーが下がり、周囲の電磁場のエネルギー総和の方が高くなっていくことで、コイルに発生した電流の作る磁場が、さらにコイルに電流を発生させ、お互いを支え合った状態が生まれるのです。
これが安定すると、周囲の電磁波が止まった波となり、物質と周囲の空間を含めた相転移が起きるのです。
この変化が超放射相転移と呼ばれます。
こうした現象が存在することは、1973年に理論的に予言されていました。
しかし、現在に至るまで現実に観測されたことはありませんでした。
けれど今回、ついに超放射相転移を起こす磁性体が発見されたのです。