植物学者の間では、桜やバラなど、花を咲かせる被子植物は、1億3000万年より以前には存在しなかったとする説が根強くあります。
近年の研究で、この説は徐々に覆り始めていますが、今回、その決定打となる証拠が見つかったようです。
中国科学アカデミー(CAS)、華南農業大学(SCAU)の調査により、同国北部で約1億6400万年前の「花のつぼみ」の化石が発見されました。
記録上では最古のつぼみ化石であり、当初考えられていたより数千万年も早く被子植物が進化したことを示唆するものです。
研究は、1月6日付で学術誌『Geological Society, London, Special Publications』に掲載されました。
植物はどうやって進化した?
植物の起源は、先カンブリア時代に出現した藻類(そうるい)にあります。
藻類は水中に存在し、葉や根、茎などの区別がありませんでした。
それから約4億7000万年前のオルドビス紀に藻類の一部が陸に上がり、コケ植物が誕生します。
約3億5000万年前の石炭紀に突入すると、植物として初めて葉や根、茎を持ったシダ類が大繁栄します。
栄養分を効率的に取り込むシステムを進化したため、水辺から離れて生活できるようになりました。
次に、約2億9000万年前のペルム紀に、ようやく種を持つ植物が生まれます。裸子植物です。
それ以前はすべて胞子で繁殖しましたが、裸子植物の登場により、種を遠方に飛ばすことで、生息範囲を大きく広げました。
そして、ジュラ紀後期〜白亜紀前期に、被子植物が誕生します。
被子植物は裸子植物と違い、胚珠(はいしゅ、種子になる部分)が子房に包まれており、子房はのちに果実へと成長します。
種入りの果実を動物に食べてもらうことで、さらに遠方まで生息域を広げることに成功しました。
問題は、被子植物の出現時期です。
先に述べたように専門家らは、白亜紀前期の1億3000万年前より後のことと考えてきました。
それはダーウィン(1809-1882)の頃からです。
ところがダーウィンは「被子植物の誕生が1億3000万年前より以前でないなら、わずか2〜3000万年の間に、一体どうやって地球の生態系を支配することができようか」と疑問を抱きました。
残念ながら、ダーウィンの望む答えは、生涯を終えるまで見つかりませんでした。
しかしここ数年で、いくつかの重要なピースが中国で見つかり始めているのです。
被子植物は「ジュラ紀」に誕生した可能性
まず2016年に、1億4500万年以上前のジュラ紀にさかのぼる「完全な花」の化石が見つかりました。
エウアンサス(Euanthus)と命名された化石には、花びらの他に、萼(がく、つぼみの根元にある葉状の部分)や子房もあったようです。
それから2018年に再び中国で、ナンキンガンサス(Nanjinganthus)と呼ばれる約1億7400万年前の花化石が発見されました。
被子植物の特徴である、脂肪に包まれた種子も見られています。
しかし、これらに対し、すべての専門家が被子植物であると認めたわけではありません。
確かに、裸子植物よりは構造が複雑でしたが、被子植物と断定するにはあまりに原始的すぎたためです。
特に、花を咲かせる器官がなかったのも問題でした。
ところが今回、内モンゴル自治区にあるジュラ紀の地層から、ついにお目当の化石が出土しました。
そこには、約1億6400万年前の記録上最古となる「花のつぼみ」が保存されていたのです。
新たにフロリゲルミニス・ジュラシカ(Florigerminis jurassica)と命名された新種の花には、つぼみだけでなく、果実や葉っぱの付いた枝も残されていました。
まさに、枝からつぼみが出て、そこから花が咲き、果実が実る様子を捉えています。
研究チームは、これについて「明らかに被子植物であり、それらがジュラ紀にすでに存在したことを示している」と述べました。
また「異論を唱える専門家はいるでしょうが、今回の発見は、被子植物の進化史について再考を促すものである」と続けています。
参考文献
A Newly Discovered Fossil Could Be The Answer to Darwin’s ‘Abominable’ Mystery
元論文
A Jurassic flower bud from China
提供元・ナゾロジー
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