IPOの人気が個人投資家の間で高まっています。IPO投資は一部の個人投資家にとって、すでに資産形成を担う重要な戦略になりつつあります。今回は、まだIPO投資に踏み出していない投資家向けに、なぜIPOは人気があるのか、どうすればIPO株を購入できるのかなど、IPO投資の進め方を解説します。
IPO投資とは?なぜIPO投資は利益を得やすいのか
Q. IPOはなぜ個人投資家に人気があるのですか?
A. 通常の株式売買とは違う投資機会が得られるからです。以前は、機関投資家などプロがIPO取引の中心でしたが、現在は個人投資家にも取引が広がっています。もちろんリスクはありますが、取引方法をきちんと理解すれば、個人投資家にとっても大きな利益を得る可能性のある投資手法です。
IPOとは?
IPO(Initial Public Offering)とは、株式が流通していない未上場会社の株式を証券取引所(株式市場)に上場して、一般の投資家が売買できるようにすることです。
IPOは上場後の初値で公開価格(IPOで投資家が購入した価格)以上になることが多く、個人投資家を中心に人気が高まっています。
IPOの公開価格はなぜ割安な水準で決まるのか?
IPO株の人気の理由は、上場後の株価が公開価格を上回るケースが多いことにあります。IPOの公開価格は割安な水準で決まることが多いのです。
公開価格とは?
IPOの公開価格とは、IPO株が取引所に上場される時に基準になる株価であり、IPOの配分を受けた投資家が購入する価格。
IPOを行う企業は取引所に上場していないので、事業内容や財務情報などが上場企業と比べると不足しています。投資の際に得られる情報が少ないということは、投資家にとってリスクとなるので、その分だけ株価が低く抑えられていないと投資家に受け入れられません。
したがって株式を公開する企業と主幹事証券会社(上場を支援する証券会社のうち中心的な役割を担う会社)は、IPO株を投資家にスムーズに売却するために割安な価格設定をします。
投資家サイドから考えると、公開価格が会社の実力通りの価格に設定されるのであれば、公開後に市場で購入すればいいのですから、IPO株を公開価格で購入する必要がなくなります。
公開価格が想定される初値よりも安く設定されていれば、投資家が利益を挙げられる確率が高くなるので、投資家のIPO株式を購入する意欲は高まります。
以上の理由から、IPO株の公開価格は低く設定される傾向があるのです。
IPO投資の4つのメリット
Q. IPO投資のメリットは何ですか?
A. 一番大きなメリットは短期間で利益が出る可能性が高いことです。購入するときの手数料もかからないのでコストも抑えられます。
IPO投資のメリットにはどんなものがあるのかみていきましょう。
IPO投資の4つのメリット
- 短期間で利益が出る可能性がある
- 購入する際の手数料が掛からないので参加しやすい
- IPOの抽選に外れても損失はない
- 成長が期待できる企業への長期投資が可能
IPOのメリット1,短期間で利益が出る可能性がある
IPO投資では、短期間で利益を得る可能性があります。
IPOでは、上場後の最初の取引価格である初値が、投資家の購入価格である公開価格を上回る傾向があります。購入したIPO株が初値で公開価格を上回った場合、この初値で売却すれば短期間で利益を得られます。
投資期間が短いということは、資金をリスクに晒す期間が短いということなので、投資家にとって優良な投資機会になります。
たとえば、2021年の普通株式のIPO案件は125件あり、そのうち初値が公開価格を上回ったケースは103件でした。IPO銘柄を公開価格で購入し初値で売却すれば、約88%のIPO株で利益が得られたことになります。
IPOのメリット2,購入する際の手数料が掛からないので参加しやすい
IPO投資では、購入時に証券会社に手数料を支払う必要はありません。
IPO、POの抽選は、公募・売出し価格以上で需要申告をしたお客様を対象に行っています。そのため、松井証券に口座を開設していれば、どなたでも当選のチャンスがあります。また、IPO、POの抽選時・購入時の手数料は無料です。
引用:松井証券
通常、株式を購入する時は証券会社に手数料を支払います。一方IPOを公開価格で購入する場合は、購入手数料は掛からないのです。
コストを掛けずに投資できるため、利益を上げやすいというメリットもあります。
IPOのメリット3,IPOの抽選に外れても損失はない
IPO投資では申込時にもコストはかかりません。したがって抽選にはずれて落選しても手数料を支払う必要はないので、資金を失うことはないのです。
申込時に入金した資金も返還されるので、外れても損失はなく、当選すれば儲けものと考えてチャレンジしてみることも大切でしょう。
IPOのメリット4,成長が期待できる企業への長期投資が可能
IPOで株を購入し初値で売って短期間で利益を確定すれば、とても効率の良い投資になります。一方で、IPO株を売却せずそのまま保有することも選択肢の一つです。
IPOの魅力はいわゆる「初値売り」という取引だけではありません。長期的に株式を保有することで、より大きな利益を得る可能性もあるのです。
IPOでは、IT分野をはじめ、これまでにはなかったような新たな商品やサービスを提供する会社が多く上場します。新しい分野で活動をする企業の成長力は大きく、株価も上昇が期待できます。
株式投資の最大の魅力である「企業の成長力を買う」を実践するなら、IPO株をすぐに売らず保有を続けることも一つの選択肢なのです。
今後さらなる成長が期待できる企業に早い段階から投資ができるので、その企業が大きく成長すれば、IPO株でより大きなリターンを得られる可能性があります。
IPO株の購入方法と基本的なルール
Q. IPOを購入するための手順は複雑そうですが、初心者でも対応できますか?
A. ブックビルディングへの応募など確かにやや複雑ですが、どのIPOも基本的な手順は同じなので、初心者の方でも大きな問題ありません。
IPO株はすでに市場に流通している株式のように、どこの証券会社でも購入できるというわけではありません。また後述しますが、ブックビルディングなど特別なプロセスもあるのでやや複雑です。IPO株を購入するまでの流れを説明します。
IPO株を購入する流れ
- IPO株を取り扱う幹事証券会社で口座を開設する
- 上場までのスケジュールを理解しておく
- ポイントを押さえて目論見書を読む
- ブックビルディングへ申し込む
- 忘れずに購入の意思表示をする
IPO株を取り扱う幹事証券会社で口座を開設する
IPO株を購入するには、IPOを取り扱っている証券会社に口座を開設しておかなければなりません。普段利用している証券会社がIPOの実績に乏しいのなら、なるべく早くIPOを多く取り扱う証券会社に口座を開設しておくことが重要です。
口座開設が遅れて、IPOのブックビルディングの応募に間に合わなかったということがないようにしましょう。
ブックビルディングとは?
投資家が購入したい株数と価格を、証券会社を通して申告することによりIPOの需要を測定し、IPO株の発行価格を決定する制度のこと。
IPOを取り扱う証券会社は幹事証券と呼ばれており、3つの種類があります。
幹事証券の種類
主幹事証券:一連のIPOを任された中心的な証券会社
引受幹事証券:主幹事証券会社とともにIPOの引受・販売をする証券会社
委託幹事証券:幹事証券から販売を委託された証券会社
主幹事証券は、IPOの準備段階から上場後のサポートまで行いIPO全体を統括します。IPOのスケジュール管理などで中心的な役割を担い、引受株数も最も多くなります。1社が単独で務めるケースがほとんどです。
引受幹事証券は、IPOの引受、販売を行う証券会社です。円滑にIPOの販売を進めるためにほとんどの場合、複数の証券会社が引受幹事証券を務めます。
委託幹事証券は、幹事証券からIPO株の販売を委託された証券会社です。
主幹事証券への割当数はIPO全体の70%~90%の場合が多く、主幹事証券を務める機会が多い証券会社に口座を持つと、IPOに当選する確率が上がります。
上場までのスケジュールを理解しておく
IPOではスケジュールをしっかり確認することが重要です。IPOが承認され、投資家が新たに発行される株式を購入するまでの流れは、大まかに以下の通りです。
IPO承認から株式購入までの流れ
- IPOが承認される:東京証券取引所などの審査を経てIPOが許可される
- IPOの仮条件が決定:主幹事証券会社を中心に公開価格のレンジが決まる
- ブックビルディングの開始:投資家が購入希望価格と希望株数を証券会社に申告
- 公開価格が決定:ブックビルディングでもっとも購入希望が多かった株価で公開価格が決定
- IPOに応募・抽選:投資家は公開価格で応募、抽選が行われる
- IPOに当選・購入:抽選で当選したら公開価格で購入
スケジュールをしっかり確認しておかないと、ブックビルディン(投資家が購入したい株数と価格を証券会社に申告する方法)グへの参加や、当選後のIPO購入を忘れてしまうというようなミスをしてしまうことがあります。
特に、ブックビルディングが行われている期間や当選後の購入期間は短い傾向があるため注意が必要です。
ポイントを押さえて目論見書を読む
IPOのスケジュールを確認して投資をしたいと考えたら、ブックビルディングに申し込む前にまず目論見書に目を通しましょう。
目論見書とは?
企業がIPOをする際に必ず作成し、投資家に交付しなければならない文書。投資家が投資判断に必要な情報が記載されています。
かなり細かい内容が記載されているので、IPOの経験が少ない投資家には理解が難しいかもしれません。目論見書を読まずに済ます投資家もいますが、投資判断を下す上で重要な情報なので目を通すことが大切です。
目論見書は量がかなり多いので、ポイントを絞って確認するのが効率的です。何を見ればいいのでしょうか。
目論見書のチェックポイント
- 事業内容:どのような業種で、どのような事業を行っているか
- 上場までのスケジュール:ブックビルディングの期間、購入申込期間、上場日など
- 想定発行価格:IPOを行う企業と主幹事証券会社が想定する発行価格
- 幹事証券会社:新規上場をサポートする証券会社でIPO株の引受・販売を行う
- 発行・売出株数:新株式の発行数、既存株主の売出株数
- 各幹事証券の割当株数:幹事証券各社の引受株数
- 株主:どのような既存株主がいるのか(創業関係者、ベンチャーキャピタルなど)
- ロックアップの内容とその対象者:ロックアップ(既存株主の売却制限)の有無など
- 財務データ:売上高、純利益、純資産額、自己資本比率など
以上の9項目をしっかり確認し、余裕があれば他の箇所もじっくり読んでみましょう。
ブックビルディングへ申し込む
IPOを買うためには、ブックビルディングに申し込む必要があります。
ブックビルディングとは新しく上場する株式の発行価格を決定する方法のことです。
(ブックビルディング方式とは)新たに株式を発行する場合の公募価格を決める際に、投資家の需要状況に応じて公募価格を決定する方式のことをいう。
引用:日本証券業協会
ブックビルディングは通常5日程度かけて行われ、投資家は仮条件で決まった参考価格の範囲内で申し込みます。
仮条件とは?
仮条件とは、主幹事証券会社を中心に決める公開価格のレンジのこと。投資家はブックビルディング時に、この仮条件で示された価格帯で買いたい価格、株数を申告する。
近年のIPO人気の高まりにより、発行価格が仮条件の上限価格に設定されることが多く、仮条件で示された上限価格を購入希望価格にしないとIPOの購入は難しい傾向があります。
IPO購入に強い意欲がある場合は、購入希望価格を仮条件の上限で申し込むか、どの価格でも購入意思があることを示す「成行注文」で申し込むのがいいでしょう。
忘れずに購入の意思表示をする
ブックビルディングを経て公開価格が決まります。そして配分される株数より購入希望株数が多かった場合、抽選によって公開価格でIPO株を購入できる当選者が決まります。
IPOに当選したとしても、IPOを購入する権利を得ただけではIPO株を購入したことにはなりません。期間内にIPOの購入手続きをする必要があります。
購入意思がある場合には購入手続きを進め、ない場合には購入を辞退します。購入の意思表示をしないと、IPOの当選自体が「無効」になるため注意が必要です。
多くのIPOは、当選結果が発表された翌営業日から数日間が購入期間となります。購入期間が短いので、うっかりして忘れてしまったということにならないように注意しましょう。
IPO投資初心者におすすめの証券会社10社
Q. 株式投資の初心者でも、IPO株を購入しやすい証券会社を見分けることはできますか?
A. 過去のIPO取扱実績を見ると、購入機会が多い証券会社がわかります。IPOをどのように顧客に配分するかは、各証券会社で特色があるのでしっかり確認する必要があります。
IPO株を購入するには、少し工夫が必要です。投資初心者は資金量、取引量も多くないので、優先的にIPO株を配分されることはありません。幹事数、特に主幹事数の多い証券会社や平等抽選の比率が大きい証券会社を複数選んで準備しておくことが重要です。
SBI証券……IPO実績が多く、独自のポイント制度も人気
SBI証券のIPO実績(2021年)
IPO取扱実績 | 主幹事実績 | IPO抽選方法 |
122社 | 21社 | 60%:平等抽選 30%:IPOチャレンジポイント 10%:取引状況と「適合性の原則」に基づき配分 |
※SBI証券のホームページより筆者作成
※IPO取扱実績は主幹事、引受幹事、委託幹事の各実績の合計を掲載
SBI証券のIPO取り扱い銘柄数は、国内の証券会社でトップクラスです。
2021年におけるIPO総数は125件でしたが、そのうちSBI証券の引受社数は122社ともっとも多くなっています。1年のうちに新規上場する株式のほとんどにSBI証券が関わっていたことになり影響力は絶大です。
IPOにおいて中心的な役割を担い、引受株数がもっとも多くなる主幹事数の実績は21件で、大手総合証券であるみずほ証券(33社)、野村證券(28社)、SMBC日興証券(26社)に次ぐ数字です。
個人投資家がIPOを購入する際には、SBI証券に取引口座を持つと当選確率が上がるでしょう。
SBI証券の抽選方法は、引受株数の60%を平等抽選、残りの40%のうち30%を「IPOチャレンジポイント」の多い順番に配分、10%をSBI証券が設定する基準(取引状況や資金力などを勘案)に従い配分されます。
IPOチャレンジポイントとは?
SBI証券が導入しているIPOにおけるポイント制度のこと。SBI証券でIPOに応募して抽選の結果落選した投資家に対して、ポイントを付与する。投資家は次回のIPOに応募する時、このポイントを利用すると当選確率が上がる。
SMBC日興証券……IPO取扱実績が豊富で主幹事数も業界トップクラス
SMBC日興証券のIPO実績(2021年)
IPO取扱実績 | 主幹事実績 | IPO抽選方法 |
80社 | 26社 | 総合コース 85%:裁量配分 ダイレクトコース 10%:平等抽選 5%: ステージ制 |
※SMBC日興証券のホームページより筆者作成
※IPO取扱実績は主幹事、引受幹事、委託幹事の各実績の合計を掲載
SMBC日興証券は主幹事証券になることも多いので、IPOの当選確率も高くなります。2021年の主幹事数の実績では、みずほ証券の33社、野村證券の28社に次ぐ、26社です。
対面取引で外務員に相談しながら取引ができる「総合コース」と、オンライントレードである「ダイレクトコース」では、IPOの配分方法が異なります。
総合コースでは、引受株数の85%が割り当てられ裁量配分になります。ダイレクトコースには、最大15%を目処に配分します。このうち10%を平等抽選、最大5%を目処として当選確率が最大25倍に変動する「ステージ別抽選」を行います。
「ステージ別抽選」は資産残高等に応じて設定された4つの「ステージ」にて、IPOの当選確率が変動するサービスです。
毎月、「新規口座開設(直近3カ月)」、「お預り資産残高」、「信用取引建玉金額」の3つの条件を比較し、最も有利な条件から、4つのステージ(ブロンズ、シルバー、ゴールド、プラチナ)を設定します。ステージが上がるほどIPOの当選確率が上がります。
「ステージ別抽選」は、ステージ毎に応じた抽選票数が割り当てられます。 (例えば、ステージがプラチナのお客様は、ブロンズのお客様に比べて当選確率が25倍となります。)
引用:SMBC日興証券
マネックス証券……全てのIPO株が完全平等抽選
マネックス証券のIPO実績(2021年)
IPO取扱実績 | 主幹事実績 | IPO抽選方法 |
65社 | 1社 | 100%:平等抽選 |
※マネックス証券のホームページより筆者作成
※IPO取扱実績は主幹事、引受幹事、委託幹事の各実績の合計を掲載
マネックス証券のIPO配分方法は、申込件数や過去の実績とは関係ない平等抽選です。
資産残高などは当選結果に関係ないので、資金力がない投資家も当選の可能性があります。IPOに100株のみ応募しても、10倍の1,000株を応募しても当選確率は同じです。
IPOの抽選はコンピューターで無作為に行われるので、透明性の高いプロセスです。この過程はシステム化されており、人間の恣意が途中で関与することはありません。
マネックス証券では、取り扱うIPOの情報をメールで知らせるサービスを提供しています。IPOのスケジュールは忘れがちになるので、投資家にとって便利なサービスです。
岡三オンライン証券……事前入金が不要なので初心者でも安心
岡三オンライン証券のIPO実績(2021年)
IPO取扱実績 | 主幹事実績 | IPO抽選方法 |
47社 | 0社 | 過去の取引実績によって決まるステージ制による公平な抽選 |
※岡三オンライン証券のホームページより筆者作成
※IPO取扱実績は主幹事、引受幹事、委託幹事の各実績の合計を掲載
岡三オンライン証券は、「岡三グループ」のネット証券なので、岡三証券から委託されてIPOの割当が回ってきます。IPO全体の約40%で幹事を務めているので、存在感は高まっています。
岡三オンライン証券では、IPOの抽選時に入金が必要ない証券会社のひとつです。購入資金を用意しなくてもIPOの抽選に参加できるので貴重な存在です。
抽選方法に関しては、まず過去の取引実績に応じて抽選対象者をステージS、ステージA、ステージBの3ステージに振り分けます。
その後に、第一抽選(対象:ステージS)、第二抽選(対象:ステージS及びA)、第三抽選(対象:全ステージ)の3回の抽選を実施します。
各抽選における当選株数の割り振りについては、抽選対象株式のうち、申込んだすべての人が対象になる第三抽選に割当株数の10%を下回らない株数を割り振ります。そして残りを二分し第一抽選、第二抽選に割り振ります。
野村證券……IPO主幹事実績が多く、実績充分の総合証券最大手
野村證券のIPO実績(2021年)
IPO取扱実績 | 主幹事実績 | IPO抽選方法 |
64社 | 28社 | 本支店コース 90%:裁量配分 野村ネット&コール 10%:平等抽選 |
※野村證券のホームページより筆者作
※IPO取扱実績は主幹事、引受幹事、委託幹事の各実績の合計を掲載
野村證券は総合証券最大手で、IPO全体の2~3割で主幹事を務めており、IPO株の取扱高が多い証券会社です。
野村證券の取引コースは、「本支店コース」と「野村ネット&コール」の2つがあります。
引受けたIPO株の90%は「本支店コース」に割り当てられ、主に預かり資産の大きい、あるいは取引量の多い重要顧客に優先的に配分されます。資金量が多くないと「本支店コース」を選択してもIPOが配分される可能性は低いでしょう。
残りの10%のみが「野村ネット&コール」の顧客に割り当てられますが、平等抽選なので公平に当選機会があります。主幹事を務めることも多く、IPO全体の参加率も高いので、10%でも野村證券の「野村ネット&コール」でIPOに申し込む価値はあります。
大和証券……主幹事数・取扱銘柄数ともに国内トップクラス
大和証券のIPO実績(2021年)
IPO取扱実績 | 主幹事実績 | IPO抽選方法 |
49社 | 16社 | ダイワ・コンサルティング (店頭窓口) 90%:裁量配分 ダイワ・ダイレクト (ネット取引) 10%:平等抽選 |
※大和証券のホームページより筆者作成
※IPO取扱実績は主幹事、引受幹事、委託幹事の各実績の合計を掲載
大和証券は大手総合証券の一角を占めており、IPOの取扱いも多く、また主幹事を務めることも多い証券会社です。
IPOの購入については、店頭窓口の「ダイワ・コンサルティング」とネット取引で手数料が安い「ダイワ・ダイレクト」で扱いが異なります。
IPO全体の90%は「ダイワ・コンサルティング」の顧客に配分されます。預かり資産の金額や取引実績により重要な顧客に優先的に配ります。「ダイワ・ダイレクト」には残りの10%がネット抽選分として配分されます。
大和証券でネット取引の顧客に配分されるIPO株は10%のみですが、平等抽選であることやIPO全体の参加率、主幹事数を考慮すると、口座開設を検討するに値する証券会社といえるでしょう。
松井証券……事前入金なしで仮申込&抽選が可能
松井証券のIPO実績(2021年)
IPO取扱実績 | 主幹事実績 | IPO抽選方法 |
56社 | 0社 | 平等抽選 |
※松井証券のホームページより筆者作成
※IPO取扱実績は主幹事、引受幹事、委託幹事の各実績の合計を掲載
松井証券の2021年のIPO実績では、主幹事は務めていないものの幹事証券として56件(IPO全体の約45%)のIPOを取扱っています。
決算報告資料(2022年3月期)では、IPOの取扱数を増やす計画を明記しており、今後さらにIPOの参入率が上がる可能性があります。
松井証券のIPO抽選方法は公平抽選で、ブックビルディング時に資金を用意しなくても参加できるので、初心者にも抵抗なくIPOに参加できます。
松井証券では、NISA口座でIPOの購入申込が可能です。NISAでIPOの購入を行った場合、そのIPO株を売却した時も手数料が無料となります。
楽天証券……IPO取扱数が前年の約2倍に増加
楽天証券のIPO実績(2021年)
IPO取扱実績 | 主幹事実績 | IPO抽選方法 |
74社 | 0社 | 100%:平等抽選 |
※楽天証券のホームページより筆者作成
※IPO取扱実績は主幹事、引受幹事、委託幹事の各実績の合計を掲載
楽天証券のIPO取扱数は増加傾向にあります。2021年は主幹事案件こそないものの、幹事数は74件と2020年の38件を大きく上回っていいます。
楽天証券のIPOの抽選方式はコンピューターによる完全平等制です。資金力や過去の取引金額などで優先されることはないので、投資資金の少ない投資家でも平等にチャンスがあります
楽天証券でIPOを申し込む際、注意しなければならないことがあります。楽天証券では、ブックビルディングに参加しただけでは抽選の対象となりません。ブックビルディング参加後、公開価格を確認して再度購入申込をする手順が必要です。
LINE証券……IPO投資を気軽に始められるスマホ証券
LINE証券のIPO実績(2021年)
IPO取扱実績 | 主幹事実績 | IPO抽選方法 |
11社 | 0社 | 100%:平等抽選 |
※LINE証券のホームページより筆者作成
※IPO取扱実績は主幹事、引受幹事、委託幹事の各実績の合計を掲載
LINE証券は、2019年11月から営業を開始したスマートフォンでの取引に特化した証券会社です。LINEと野村ホールディングスが共同出資して設立しました。LINE証券では、野村證券が主幹事を務めるIPO案件を取扱っています。
LINE証券は、2021年6月からIPOのサービスを開始しました。2021年の取扱実績は11社ですが、今後の取扱銘柄拡大が期待されます。
LINE証券のIPO抽選方法は、コンピューターによる公正な平等抽選なので、資金力や取引量に関係なくすべての投資家に平等です。
LINE証券では、IPOのブックビルディング申し込みから当選結果までがLINEアプリで通知されます。スマホ証券の特性を生かし、スマートフォンだけでIPO抽選を完結させられて便利です。
PayPay証券……IPO専用アプリで1株からIPO投資が可能
PayPay証券のIPO実績(2021年)
IPO取扱実績 | 主幹事実績 | IPO抽選方法 |
0社 | 0社 | 100%:平等抽選 |
※PayPay証券のホームページより筆者作成
※IPO取扱実績は主幹事、引受幹事、委託幹事の各実績の合計を掲載
PayPay証券は、2021年のIPO取扱実績はありませんが、過去にはソフトバンク株の取扱実績がありました。「誰でもIPO!」という独自のサービスを提供していることなどから、今後のIPO取引の拡大が期待されます。
誰でもIPO!
1株単位で100株まで、IPO銘柄の申し込みができるサービス。専用アプリがある。
日本株は単元株制度を採用しているので、通常1単元=100株の取引になります。一方、PayPay証券は単元未満株を取り扱っており、IPOでも1株=1口で取引ができます。
PayPay証券で口座を開設すると、専用のスマホアプリで簡単にIPOの申し込みが可能です。
IPO株購入の可能性を高める6つの方法
Q. IPO株は人気が高いので購入するのが難しいと聞きますが、当選するためのコツはありますか?
A. 確かにIPO株を購入するのは簡単ではありません。幹事証券会社の優良顧客でない限りIPO株を優先的に配分されることはないので、一般の投資家は抽選に申し込むことになります。少しでも当選確率を上げる方法を理解して、地道に申し込みを続けることが大切です。
一般の投資家がIPO株を購入するには、抽選に申し込んで当選するしかありません。もっとも重要なのは運かもしれませんが、当選確率を上げるポイントがいくつかあるのでご紹介します。
IPO株の当選確率を上げる6つのポイント
- 複数の証券会社を利用して抽選回数を増やす
- 抽選回数を増やすために家族口座を利用する
- 確実に抽選対象になるために仮条件の上限で申し込む
- 平等抽選方式の証券会社で取引口座を開設する
- 主幹事証券会社から抽選に申し込む
- 幹事会社を多く務める証券会社を利用する
ポイント1,複数の証券会社を利用してIPOの抽選回数を増やす
近年のIPO人気を受けて、売出株数以上の購入希望が集まるため、IPO株を購入する権利を抽選によって決めることが多くなっています。
したがってIPOを取り扱う複数の証券会社に口座を開設し抽選回数を増やすことが、IPO株を購入するために重要になります。
企業が株式を公開する(取引所を通じて一般の投資家に売却する)ためには、公開までの手続きをサポートし、株式を投資家へ販売する幹事証券会社が必要です。
幹事証券会社は、通常1社の主幹事証券とその他複数の幹事証券から構成されます。IPOに積極的な幹事証券会社に口座を持ち、できる限り多く抽選に申し込むことがIPO株購入の早道です。
ポイント2,IPOの抽選回数を増やすために家族口座を利用する
IPOの当選確率を増やすには、妻や子供など家族に口座を開設してもらい申込数を増やすことも有効な手段です。
完全平等抽選方式での申し込みでは、1つの口座につき1つの抽選権が与えられます。もし4人家族で全員が取引口座を持っているなら、申し込み数を4倍に増やすことができます。
ただし家族に口座開設の了解を得たが、取引は別の人が行うことは「借名取引」といい、法令諸規則によって禁じられています。IPOの利点やリスクをしっかり家族に説明して、本人にIPOの応募をしてもらう必要があります。
仮名取引とは、本人の名義によらず他人や架空人物などの名義を使用して取引を行うことを指し、借名取引とは、他人から名義を借りて取引を行うことを指します。
引用:マネックス証券
また夫婦間、親子間の資金の移動は贈与税の対象になる可能性もあるので注意が必要です。
ポイント3,確実にIPOの抽選対象になるために仮条件の上限で申し込む
IPOで当選するためには、ブックビルディングに申し込む時、仮条件の上限で申込むか、決まった公開価格で購入する「成行」で申し込むべきです。
なぜなら、ブックビルディングで決まった公開価格よりも低い価格で申し込んだ場合、抽選の対象とはならず落選になるからです。
たとえば、IPO株の仮条件が2,000円~2,500円で、公開価格が2,500円に決定した場合、次のようになります。
投資家A:2,000円で、100株 申込み → 抽選対象外
投資家B:2,500円で、100株 申込み → 抽選対象
投資家Bは公開価格で申し込んでいるので抽選対象となりますが、投資家Aは公開価格より低い価格で申し込んだので抽選の対象にはなりません。
ポイント4,平等抽選方式の証券会社で取引口座を開設する
IPO株を購入するには、大きな資金を運用している、あるいは取引量が多い投資家でない限り、平等抽選の証券会社に口座を持つことをおすすめします。
IPOの抽選方法は、証券会社ごとに違いがあります。応募口数が多いほど(抽選資金が多い)当選確率が上がる方式や、証券会社に預けている資産や過去の取引量に応じて当選確率が変わる方式では、一般の投資家が当選する確率はかなり低くなります。
平等抽選を採用している証券会社では、資金力や取引量に関係なく誰でもIPOに当選するチャンスがあります。平等抽選を行っている複数の証券会社に口座を開設してIPOに応募すれば、当選する可能性が上がります。
100%完全平等抽選を採用している証券会社は、マネックス証券や楽天証券などです。
ポイント5,主幹事証券会社から抽選に申し込む
IPO を購入するには、幹事証券の中でも取扱株数の多い主幹事証券会社で申し込むことが有効です。
主幹事証券会社は、IPO全体の取りまとめ役でIPO株の引受・販売の中心的な役割を担っているので、取扱う株数が圧倒的に多くなります。
多くのIPO では、売り出す株式のうち80~90%程度を主幹事証券会社が取扱います。たとえば、2021年12月27日に東証マザーズに上場したセキュア(4264)のIPOでは、主幹事証券会社であるSMBC日興証券の引受額が全体の86.7%に達しています。
セキュア(4264)の引受証券会社と各社の引受株数
引受証券会社 | 引受株式数(株) | 割当比率(%) |
SMBC日興証券 | 389,200 | 86.7 |
みずほ証券 | 33,400 | 7.4 |
SBI証券 | 6,600 | 1.5 |
楽天証券 | 6,600 | 1.5 |
いちよし証券 | 6,600 | 1.5 |
東海東京証券 | 6,600 | 1.5 |
計 | 449,000 | 100% |
※EDINETより訂正有価証券届出書(新規公開時)を取得し筆者作成
売出株数が多い主幹事証券会社でIPOの申し込みをすれば、IPO株を購入できる可能性が高くなります。
ポイント6,IPOの幹事会社を多く務める証券会社を利用する
主幹事を多く務める大手総合証券は売出株数が多い反面、口座開設数(顧客数)も多いので、IPOに申し込む投資家も多くなります。したがって競争が激しくなることが予想され、思うほど当選しないということも考えられます。
主幹事を務めることはほぼないが、幹事証券になることが多い証券会社は、大手証券会社に比べて口座開設数が少ないことが予想されます。結果的に、IPOの抽選に参加する人数も少なくなり、当選確率が上がる可能性があります。
これに該当するのは、楽天証券、マネックス証券、岡三オンライン証券などです。
IPOで成功するためのIPO株の選び方
Q. IPO株投資で成功するためには、どうすればいいのですか?
A. 需給関係を分析するなど、銘柄選びで失敗しない方法があるので、事前によく理解しておくべきです。
IPO株は利益が出やすい投資手法ですが、すべてのケースで成功するわけではありません。2021年も約20%のIPOで、初値が公開価格を下回りました。IPOの失敗を避けるための要素を紹介します。
成功するIPO株の5つの選び方
- 注目テーマやトレンドを参考にして銘柄を選ぶ
- 売出株が公募株より多い銘柄は避ける
- 既存株主の構成をチェックする
- オファリング・レシオから需給関係を推測する
- 資金調達金額の水準を確認する
IPO株の選び方1,注目テーマやトレンドを参考にして銘柄を選ぶ
注目されているテーマと合致する業種は人気が高まります。
近年は、クラウド、ビッグデータ、AI(人工知能)、DX(デジタル・トランスフォーメーション)などのテーマがマーケットのトレンドになっていました。IPOにおいても関連銘柄は、初値が公開価格を上回る確率が高くなっています。
また、他社にないユニークなサービスを提供している場合なども、株価が上がる傾向にあるため注目してみましょう。
IPO株の選び方2,売出株が公募株より多い銘柄は避ける
売出株が公募株より多いIPO株は不人気になる可能性があります。
売出株とは?
IPO前から株式を保有している投資家(既存株主)が売却する株式。既存株主が資金を回収するだけで、企業が新たに使える資金ではない。
公募株とは?
企業が新しく発行する株式。公募株が多ければそれだけ企業は多くの資金を調達できる。
売出株が公募株より多いと、既存株主が利益を確定するためにIPOしていると判断される傾向があります。企業の資金調達とは関係がないため、良いイメージを持たれることがありません。
IPO株の選び方3,既存株主の構成をチェックする
既存株主の構成は重要なチェックポイントです。IPOをする企業の創業メンバーや役員が多い場合は、上場後も保有株式を維持する傾向がありますが、ベンチャーキャピタルが大株主の場合は注意が必要です。
ベンチャーキャピタル(VC)とは?
未上場の企業に投資する投資会社のこと。未上場企業に投資して上場(株式公開)後に株式を売却して利益を確定する可能性が高いので、需給が悪化し株価が下がることがある。
ただし「ロックアップ」がある場合は、上場後すぐにベンチャーキャピタルから売りが出て需給が悪化することはありません。
ロックアップとは?
既存株主が上場後一定期間持ち株を売却できないように制限を掛ける制度。
IPO株の選び方4,オファリング・レシオから需給関係を推測する
オファリング・レシオとは?
発行済み株式数に対してどのくらいの株式をIPOで市場に放出するかを示す指標。オファリング・レシオは、IPOの需給関係を推測する一つの要素。
オファリング・レシオ=(公募株+売出株)÷発行済株式総数
公募株:企業が新しく発行する株式
売出株:IPO前から株式を保有している投資家(既存株主)が売却する株式
オファリング・レシオが低い場合、株価にプラス要因になります。市場に放出される株式数が相対的に少ないということなので、需給関係の悪化につながらないと判断されます。
オファリング・レシオが高い場合、株価にはマイナス要因になります。放出される株式数が相対的に多く、市場で消化しきれないリスクが高まる可能性があると判断されます。
IPO株の選び方5,資金調達金額の水準を確認する
IPO投資において、資金調達金額が大きいIPOは警戒されます。資金調達額が大きいということは、売り出される株数も多いということなので需給関係は悪化します。
調達金額が小さければ、売り出される株数も少ないので市場で吸収しやすくなるので、株価を下支えする要因になります。
IPO銘柄を購入した投資家は、上場後の初値ですぐに購入したIPO株を売却し利益を確定する「初値売り」をする傾向が強いので、上場初日から大量に売り注文が出されます。
調達金額が大きいということは、「初値売り」の規模も大きいことが想定されるので注意が必要です。
IPO投資の4つの注意点
Q. IPO投資を売買する時に特に注意することは何ですか?
A. IPOを購入するまでのプロセスやIPO株が上場した後の値動きなど、注意しなければならない点がいくつかあります。それらの注意点を事前に理解しておけば、IPO株の購入から売却までスムーズに取引を進めることができます。
IPO株は上場後しばらくすれば、普通の株式と同じように日々取引されるようになります。それまでのごく短い期間、投資家が細心の注意を払わなければならないポイントを解説します。
IPO投資の4つの注意点
- 資金の入金や拘束のタイミングは証券会社によって異なる
- 初値が公開価格を下回ることもある
- 新規上場後は株価の変動が大きい
- 上場後は一定期間売却できない場合がある
IPO投資の注意点1,資金の入金や拘束のタイミングは証券会社によって異なる
資金の入金タイミングや拘束タイミングは、IPOを取扱う各証券会社によって違います。また、同一資金で複数のIPOに参加できる証券会社とできない証券会社があるので、IPOに申し込む前に確認しておきましょう。
IPOに申し込むことを決めたら、確認すべき事項は以下の3点です。
資金に関するチェック項目
- 入金(買付余力)が確認されるタイミング
- 購入資金の拘束タイミング
- 同一資金で複数のIPOに申し込めるか
IPOごとにしっかり確認しておかないと、IPOに申し込めなくなってしまう場合があります。
・1,買付余力が確認されるタイミング
買付余力とは?
口座の資金残高のこと。IPOに参加する時は、IPOを購入する資金があるかどうかを証券会社が確認する。
買付余力が確認されるタイミングとは、証券会社に購入資金を入金する期限と考えることもできます。
たとえばA社のIPOに申し込む場合、仮条件が2,000円~2,500円だとして、上限の2,500円で100株申込むとすると、25万円(=2,500円×100株)が必要となります。この金額(=買付余力)が口座にあるかどうかを証券会社に確認されます。買付余力がなければ、IPOに申し込むことはできません。
買付余力を確認しない証券会社もあります。その場合、ブックビルディングに参加する時に、口座に資金を入金する必要はなく、当選して購入を決めた時点で口座に資金を用意します。
・2,購入資金の拘束タイミング
購入資金が拘束されると、その分は他のIPOや株式の購入に使えません。
たとえば口座に50万円の資金(買付余力)があって、IPOの購入資金25万円が拘束されると、買付余力は25万円に減少します。この時、25万円以内であれば他のIPOにも申し込めますが、25万円を越える規模のIPOなら新たに資金を用意しなければなりません。
資金が拘束されるタイミングには3つのパターンがあります。
資金が拘束されるタイミング
- IPOの抽選申込時(=ブックビルディング参加時)に拘束
- IPOの抽選時に拘束
- IPOに当選した時に拘束
証券会社によって資金が拘束されるタイミングは異なるので、その都度しっかり確認しましょう。
・3,同一資金で複数のIPOに申し込めるか
同一資金で他のIPO に申し込みができる証券会社があります。
たとえば50万円の買付余力があり、必要なIPOの抽選資金が以下の通りだとします。
A社:40万円
B社:30万円
この場合、同一資金で申込みができる証券会社では、A、B両社のIPOに申込みができます(A社、B社ともに購入資金が50万円以内のため)。
同一資金でIPOに申し込みができない証券会社では、A社、B社どちらかのIPOに申し込むことを断念しなければなりません。
・主要証券会社の入金・拘束タイミング、同一資金の利用可否
主要証券会社の入金タイミング(買付余力)、購入資金の拘束タイミング、同一資金の利用の可否をまとめたものが下表です。
まずは、ブックビルディングに参加することが「抽選申し込み」になる証券会社です(申し込みが1回の証券会社)。
IPOの申し込みが1回の証券会社の場合
入金(買付余力)確認 | 購入資金拘束 | 同一資金での申し込み | |
SBI証券 | 抽選時 | 当選時 | 可 |
SMBC日興証券 | 抽選申込時 | 抽選申込時 | 不可 |
マネックス証券 | 抽選申込時 | 抽選申込時 | 不可 |
岡三オンライン証券 | 購入申込時 | 購入申込時(当選後) | 可 |
野村證券 | 購入申込時 | 購入申込時(当選後) | 可 |
大和証券 | 抽選申込時 | 購入申込時(当選後) | 可 |
松井証券 | 購入申込時 | 購入申込時(当選後) | 可 |
PayPay証券 | 抽選申込時 | 抽選申込時 | 不可 |
※SBI証券、SMBC日興証券、マネックス証券、岡三オンライン証券、野村證券、大和証券、松井証券、PayPay証券のホームページを参考に筆者作成
次に、ブックビルディング参加時の「抽選申し込み」に加えて、抽選が行われる前の「購入申し込み」が必要な証券会社です(申し込みが2回の証券会社)。
IPOの申し込みが2回の証券会社の場合
買付余力確認(入金) | 購入資金拘束 | 同一資金での申し込み | |
楽天証券 | 抽選申込時 | 購入申込時(抽選前) | 不可 |
LINE証券 | 抽選申込時 | 購入申込時(抽選前) | 不可 |
証券会社によって、資金に関するルールは異なるので、ホームページなどで詳細を確認してからIPOに申し込むようにしましょう。
IPO投資の注意点2,初値が公開価格を下回ることもある
IPO銘柄は公開後に価格が上昇することが多いため、多くの投資家がIPO株取引へ参入していますが、必ず利益が出るというわけではありません。
2021年は125社がIPOを行いましたが、そのうち初値が公開価格を上回ったIPOは103社でした。約82%のIPOが初値で売却すれば利益になったということですが、見方を変えると、約18%は初値が公開価格を下回ったということです。
初値が公開価格を下回るということは、投資家の関心があまり高くなかったということです。そして公開価格を割ってしまうと、IPOで購入した投資家から狼狽売り(株式を慌てて売却すること)が出て売り圧力が強くなり、価格が上昇しにくくなります。
IPOであればどんな銘柄でも上がるという幻想は捨てて、通常の株式投資と同じようにIPOを行う企業の事業内容、成長性、財務面などを分析してから購入の判断をすべきでしょう。
IPO投資の注意点3,新規上場後は株価の変動が大きい
IPO銘柄は、上場後の数週間は投資家の関心も高く、変動が激しくなることがあります。
IPO株を購入した投資家からの利食い売り(利益を確定させるために売ること)が始まる一方で、購入を逃した投資家の押し目買い(株価が下がった時点で買うこと)も現れるので売買が激しくぶつかり合います。
この結果、変動が激しくなるので、IPOに当選した銘柄の売却タイミングは充分に注意する必要があります。
変動が大きくなると、どうしても投資判断がブレます。欲張って売却タイミングを逸してしまわないようにしましょう。
初値で売るのか、継続保有するのか、IPO株を購入する前に運用方針を明確にして臨むことが大事です。
IPO投資の注意点4,上場後は一定期間売却できない場合がある
IPO銘柄に当選して上場日にすぐに利益を確定する、所謂「初値売り」をしたいと考えている投資家は多いですが、必ずしも上場後にすぐ売却できるとは限りません。
IPO銘柄が新規上場した時に、売り買いどちらか一方に注文が多く偏っている場合、「特別気配」になり、買いたい投資家と売りたい投資家のバランスがとれる株価まで売買が一時停止されます。
それでも売り手と買い手のバランスが取れず、終値まで特別気配が続くと、初値が翌営業日に持ち越されます。人気のあるIPOの場合、特別気配が2~3営業日続くことがあります。
IPO株を購入した投資家にとって、特別気配が上がればうれしい限りですが、逆に特別気配が下がり続けて売れないという事態も考えられるので注意が必要です。
IPO株が上場するまでの流れを7ステップで解説
Q. IPO株が上場するまで、いくつもの複雑なプロセスがあると聞きます。IPO初心者でも対応できるのでしょうか?
A. IPOが承認されて上場するまで、確かにやや複雑なプロセスになりますが、一連の流れを理解し、投資家がするべきことを確実に実行すれば問題が起こることはありません。
IPOが上場するまで、投資家が注意しなければならないことは多いですが、大きな流れはどのIPOでも一緒です。一つひとつのステップをしっかり理解し経験を積めば難しく感じることはなくなるでしょう。
IPOの基本的な流れ
- 新規上場承認
- 仮条件の決定
- ブックビルディング
- 公募価格の決定
- 抽選
- 購入締め切り
- 新規上場
ステップ1,新規上場承認
新規上場承認とは、東京証券取引所などの審査を経てIPOが許可されることです。新規上場が承認されると、今後のIPOの進め方や売り出しの際の想定価格などが告知されます。
一般の投資家はこの日にIPOの詳しい内容を知ることになります。
ステップ2,仮条件の決定
仮条件とは?
主幹事証券会社を中心に決める公開価格のレンジのこと。
投資家はブックビルディング時に、仮条件で示された価格帯で買いたい価格、株数を申告します。
IPOが承認されると、IPOを行う企業と主幹事証券会社で同業種内の他社との比較や株式市場全体の状況を考慮して、IPOの想定価格を決めます。
その後、IPOを行う会社の経営陣や主幹事証券会社が機関投資家などに、企業の財務状況、事業内容や成長性などを説明し、どのくらいの株価ならIPO株を購入するかをヒアリングします。そして最終的に、ブックビルディングの時に投資家に提示する価格のレンジである仮条件を決定します。
ステップ3,ブックビルディング
仮条件が決まると、ブックビルディングが始まります。
たとえば「1株1,500円~2,000円」で仮条件が決まったとすると、投資家はこの価格のレンジ内で、購入希望株価と株式数をブックビルディング時に申告します。それらの需要をもとにもっとも購入希望が多い価格が公開価格となります。ブックビルディングは通常5日程度かけて行われます。
近年のIPO人気の高まりにより、発行価格が仮条件の上限に決まることが多くなっています。IPOの購入希望が強い場合は仮条件の上限で申し込むか、どの価格でも購入意思があることを示す「成行」で申し込まないとIPOの購入は難しくなります。
決まった公開価格よりも下の価格で申し込んでしまうと、抽選対象外となり落選が決まるので、IPO株の購入を逃してしまいます。
ステップ4,公開価格の決定
公開価格は、ブックビルディングで投資家から示された希望購入価格と希望購入株数をもとに決定されます。投資家はこの公開価格でIPOを購入します。
公開価格が仮条件で決まった価格レンジのどこで決まったかによって、そのIPOの人気度を計ることができます。
もし仮条件の上限近辺で公開価格が決まった場合、そのIPO株に対する人気が高いということになります。一方で、仮条件の下限近辺で公開価格が決まれば、投資家の人気は高まらなかったと考えられます。
IPO人気が高まっている昨今では、公開価格は仮条件の上限になるケースが多いですが、公開価格が仮条件の下限になるケースもあるので注意してください。
ステップ5,抽選
ブックビルディングで公開価格が決定しますが、投資家が購入を希望する株数が売り出される株数より多い場合、IPOを取扱う証券会社は、公開価格で購入を申し込める投資家を独自に決めます。
投資家にどのように配分するかは、IPOを取扱う証券会社によって異なります。その一つの方法が抽選です。配分方法は、大きく分けて以下の3つになります。
IPO株の配分方法
店頭配分:資金量や取引量の多い投資家に裁量で割り振る方法
優遇抽選:取引量や応募口数などにより当選確率が上がる方法
完全平等抽選:条件を設定せず、1口座に対して1票の抽選権が与えられる
一般の投資家にとってもっとも配分の可能性が高いのは完全平等抽選です。IPO株投資の初心者は、完全平等抽選を採用する証券会社(主にネット証券)に口座を持つことをおすすめします。
ステップ6,購入締め切り
IPOに当選しても、IPOを購入する権利を得ただけでIPO株を購入したことにはなりません。購入期間内にIPO の購入手続きを行いましょう。
多くのIPOの購入期間は短いです。当選結果が発表となった翌営業日から数日間になるので、忘れないようにしましょう。
ステップ7,新規上場
上場日を迎え取引所での取引が始まり、初値が決まります。
IPO投資では、上場後の初値が決まり次第売却するという「初値売り」をする投資家が多いですが、初値売りをせずに長期保有するという方法もあります。
購入銘柄の事業内容や成長性、株式市場の地合いなどを総合的に判断し、売却するか保有を続けるかを決めましょう。
IPO購入方法に関するQ&A
IPO株の承認とはなんですか?
IPO株の承認とは、東京証券取引所などの審査を経て、企業が自社の株式を証券取引所に上場して一般の投資家に売り出すことが許可されることです。
新規上場が承認されると、今後のIPOの進め方や売り出しの際の想定価格などが投資家に告知されます。一般の投資家はこの日にIPOの詳しい内容を知ることになります。
IPOの仮条件とは何ですか?
IPOの仮条件とは、IPO株の「公開価格」を決める前に投資家に提示される公開価格の「想定レンジ」です。
まずIPOを行う企業と主幹事証券会社が協働し、同業他社の株価や市況などを考慮して想定価格を決めます。その後、機関投資家にヒアリングを行い、ブックビルディング時に投資家に提示する公開価格の「想定レンジ」が決まります。
投資家はブックビルディングにおいて、「想定レンジ」内のどの価格で購入したいかを申告します。投資家がもっとも多く申告した価格が公開価格になります。
IPOの公開価格とは何ですか?
IPOの公開価格とは、IPO株が取引所に上場される時に基準になる株価であり、IPOの配分を受けた投資家が購入する価格です。
ブックビルディングに参加した投資家が、仮条件の中でもっとも多く選択した株価が公開価格になります。
IPOが上場された後に取引される株価が公開価格を上回れば、投資家は利益を得ます。逆に公開価格よりも株価が下がれば損失になります。
IPOのブックビルティングとは何ですか?
ブックビルディングとは、IPOの公開価格を決定する方法のことです。
仮条件(公開価格の想定レンジ)が決まると、ブックビルディングが始まります。投資家はこの想定レンジ内で、購入希望株価と株式数をブックビルディング時に申告します。それらの需要をもとにもっとも購入希望が多い価格が公開価格となります。
ブックビルディングを経ることによって、投資家の需要がどのくらいあるのかが公開価格に反映されるので、公開価格が適正な水準に近づく傾向があります。
現在はIPOの人気が高いので、発行価格が仮条件の上限に決まることが多くなっています。IPOの購入希望が強い場合は仮条件の上限で申し込むか、発行価格の水準によらず必ず購入する「成行」で申し込まないとIPOの購入は難しくなります。
IPO投資で損失を出さないための注意点はありますか?
IPOを行う企業の事業内容、財務状況などをしっかり分析してからIPOに応募する銘柄を選ぶと良いでしょう。IPO投資といっても株式投資に変わりはありません。事業内容に魅力があり、成長性のある企業の株価は上昇する可能性があります。
IPOに特有な需給動向などもチェックが必要です。既存株主としてベンチャーキャピタルの存在が大きかったり、新たに株式を発行するよりも既存株主の売り出しが多かったりすると、需給関係がマイナスに作用することがあるので注意が必要です。
IPO株は少額でも購入できますか?
少額でもIPO株を購入できるサービスがあります。
日本株は単元株制度を採用しているので、通常は1単元=100株の取引になります。一般的なIPO投資も100株単位の取引になりますが、単元未満株の取引に力を入れているPayPay証券では、1株単位でIPO銘柄の申し込みができる「誰でもIPO!」というサービスを提供しています。
誰でもIPO! は、新規上場株式を1株から1株単位で100株(1単元)まで、購入申し込みができます。 抽選倍率の高いIPOを、一人でも多くの方に体験いただき、今まで一部の投資家にチャンスが偏っていたIPOの購入申し込みに、少額から誰でも参加できるようにすることで、多くの方に当選の機会を作りたいとの思いでサービスを開始します。
引用:PayPay証券
初心者は当選確率を上げる方法を試してIPO株購入を狙おう
人気の高いIPO株を購入するには地道な努力が必要です。資金量が豊富で取引量の多い優良顧客でない限り、証券会社から優先的な配分を受けることはないので、一般の投資家はブックビルディングに申し込み、抽選に当選するしか方法がないのです。
IPOは倍率が高いので、一般投資家の当選確率はあまり高くありません。しかしそこで諦めず、「IPO株の当選確率を上げる6つのポイント」などの方策を可能な限り試してみるといいでしょう。
もしIPO株を購入できたら、有望な株式を割安に手に入れたのですから、すぐに利益を確定してもいいですし、長期的に保有してより高いリターンを狙ってもいいでしょう。
IPO投資で成功するまでの道のりは長いですが、実現すれば資産形成のための新たなツールになるはずです。まだIPOを経験していないのであれば、この機会に是非IPO投資にトライしてみてください。