日本人にはあまり馴染みがないカクテルかも知れないが「ティ・ポンシュ」は、マルティニークやグアドループ、ハイチなどフランス語圏のカリブ海の島々で愛されるラム&ライムのカクテルだ。定番素材で古くから飲まれてきたこのカクテルは、どんな成り立ちだったのか。
目次
ラム&ライムが生んだシンプルなカクテル
「ティ・ポンシュ」は、フランス海外県でこよなく愛されているカクテルである。ポンシュ(Punch)を英語読みすると「パンチ」。その語源を辿れば、サンスクリット語の「5」にあたり、かつてはティ・ポンシュも現在のレシピと同じ材料に、紅茶とシナモンを加えた5つの要素で作られていたという説も残っている。
「ラム&ライム」という、ラムカクテルの定番スタイルで作られるティ・ポンシュだが、偶然と言えるラムとライムの出会いは、イギリスの海軍史にも登場する。17世紀中頃、ラムはイギリス海兵への支給品だった。それは、ラムが壊血病の特効薬と信じられていたためで、当時の支給量は生のラムで毎日0.5パイント(284ml)。この伝統は、規定を変えながら1970年まで続くのだが、その過程で、同じく壊血病予防に支給されるようになったのがライムジュースだった。
当時まだ荒々しい酒だったラムを飲みやすくするのにライムとのコンビは最適で、この黄金の組み合わせはゆるぎないものに。20世紀になり、壊血病予防に効果があるのは実際にはライムであり、ラムはなんら関係がないと判明するのだが、海兵が親しんだ味は、ティ・ポンシュやダイキリなど、後に様々なライムカクテルが生まれる基礎を築いたともいえる。
50度以上のブランをベースとするティ・ポンシュは、胃を活性化し、食欲を湧かせる食前酒である。いわば、ラム&ライムさながら“生きるための酒”であるとも言えるのだ。
「ティ・ポンシュ」ってどんなカクテル?
グラスにシロップを入れてライムを搾り、好みの量のラムを注いで作る。ポイントは、アグリコール製法のラム・ブラン(ホワイト)によるフレンチ・クレオール・ラムを用いること。フランス海外県のマルティニークやグアドループでは、食前酒として提供されているため、食事が始まってからオーダーしても提供してもらえないカクテルなのだ。
また、ティ・ポンシュに使用されるライムは、輪切りではなく面が大きいカットで提供される。これは果汁が出すぎず、ライムピールを振りかけたような効果があり、ティ・ポンシュならではのスタイルだ。
取材協力/海老沢忍(SCREW DRIVER) 文/沼由美子 写真/古末拓也
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