人間の脳は大きく、知性に溢れています。では、もっと大きな脳は更なる知性を生み出すのでしょうか?

南アフリカ・ウィットウォーターズランド大学解剖学部に所属するPaul Manger氏ら研究チームは、クジラとイルカの脳が特別製だったと発表しました。

クジラとイルカの脳が大きいのは、知能のためではなく熱生成のためだと判明したのです。

研究の詳細は、3月9日付の科学誌『Scientific Reports』に掲載されました。

目次

  1. クジラの脳が大きいのはどうして?
  2. クジラの脳には3つの熱生成システムが組み込まれている

クジラの脳が大きいのはどうして?

クジラとイルカは地球上で最も大きい脳を持っています。

脳の重さは8kgを越えることもあり、平均的な人間の脳の6倍以上もあるのです。

クジラの脳が大きいのは熱生成のためでした
(画像=マッコウクジラの脳 / Credit:Yohei Yamashita / wikimedia、『ナゾロジー』より 引用)

しかしこれまでの調査により、クジラやイルカの大きな脳には人間のような思考プロセスや多様性、柔軟性、適応性がないと分かっています。

つまり彼らの大きな脳は知能を増すものではなかったのです。

では、その大きさは何のためにあるのでしょうか?

新しい研究では、クジラやイルカの大きな脳が「熱生成」に特化していると判明。

Manger氏によると、「すべての哺乳類の脳は、体の熱生成メカニズムとは別に熱を生成しており、その熱は神経細胞の効率的な機能のために欠かせません」とのこと。

しかし「水中の哺乳類は、空気中と比べて90倍の速さで熱を奪われます」とも付け加えています。

冷たい海中で暮らすクジラやイルカにとって、通常の熱生成では対応しきれないのです。

ところが、彼らの脳は熱生成システムを装備した特注製であり、脳活動が大きく低下することはないと判明しました。

クジラの脳には3つの熱生成システムが組み込まれている

クジラの脳が大きいのは熱生成のためでした
(画像=クジラの脳には3つの熱生成システムがある / Credit:Depositphotos、『ナゾロジー』より 引用)

研究チームは、クジラやイルカの脳に3つの熱生成システムがあることを発見。

1つ目は、脳の神経細胞の90%に含まれる「脱共役タンパク質」です。

これは細胞内のエネルギー生成を非効率的にし、ATP(エネルギーの放出・貯蔵を行う物質)を生産する代わりに熱を生成します。

つまりクジラやイルカの大きい脳には、熱生成に特化した細胞がたくさんあるのです。

2つ目は、グリア細胞(神経機能をサポートする細胞)の30~70%に含まれる脱共役タンパク質です。

通常、グリア細胞には脱共役タンパク質は含まれません。しかしクジラやイルカの脳には特別に多く含まれているのです。

3つ目は、高密度な神経終末です。

神経終末には脱共役タンパク質の濃度と活性を制御する役割がありますが、クジラとイルカの場合は、近縁種と比較して30%も密度が高くなっていると分かっています。

このように、クジラやイルカの大きな脳は、3つの特徴によって知能ではなく熱生成に特化していました。

彼らの脳は、冷たい海中で生活するための特注製だったのです。

研究チームによると、この新しい発見はクジラやイルカの保護に繋がるとのこと。

今後、地球温暖化による海洋温度の上昇が、クジラやイルカにどんな影響を与えるのか解明するのに役立っていくでしょう。

参考文献
Whale and dolphin brains are special—for heat production, not for intelligence
元論文
Amplification of potential thermogenetic mechanisms in cetacean brains compared to artiodactyl brains

提供元・ナゾロジー

【関連記事】
ウミウシに「セルフ斬首と胴体再生」の新行動を発見 生首から心臓まで再生できる(日本)
人間に必要な「1日の水分量」は、他の霊長類の半分だと判明! 森からの脱出に成功した要因か
深海の微生物は「自然に起こる水分解」からエネルギーを得ていた?! エイリアン発見につながる研究結果
「生体工学網膜」が失明治療に革命を起こす?
人工培養脳を「乳児の脳」まで生育することに成功