昨年3月、ロシアの酪農家がウシにVRゴーグルを装着するという奇抜な実験を行いました。

目的は、VRを通して太陽の光が降り注ぐ雄大な牧草地を見せることでウシをリラックスさせ、質の高いミルクをより多く生産させることです。

そしてこのほど、この試みに関心を抱いたトルコの酪農家が同じ実験を開始しました。

さて、結果はどうなったでしょうか。

1日あたりのミルク量が5L増加

トルコの酪農家が「ウシにVRを装着」して1頭あたりミルク5Lの増産に成功
(画像=ウシにVRを装着するイゼット・コチャック氏 / Credit: Zekeriya Karadavut/AA(2022)、『ナゾロジー』より引用)

トルコ中央部・アクサライで牧畜業を営むイゼット・コチャック(Izzet Kocak)氏は、農場のウシの一部にVRヘッドセットを装着し、薄暗い搾乳室ではなく、日当たりの良い屋外にいると思い込ませ、ミルクの生産量が増えるかどうかを実験しました。

同国のニュースサイト「Anadolu Ajansi」の取材に対し、コチャック氏はこう話しています。

「トルコでは現在、飼料価格が高騰しているため、より多くのミルクを生産するための代替方法を探さなければなりません。

特に冬場はウシを室内に閉じ込める時間が長くなるので、VRを使って外にいると錯覚させれば、ウシが多幸感を抱き、より多くのミルクを生産してくれるだろうと考えました」

トルコの酪農家が「ウシにVRを装着」して1頭あたりミルク5Lの増産に成功
(画像=ウシに見せる屋外の風景をチェック / Credit: Zekeriya Karadavut/AA(2022)、『ナゾロジー』より引用)

コチャック氏は今回、2頭のウシにVRヘッドセットを装着し、屋外の牧草地の映像を見せる実験を10日間つづけました。

また、リラックス効果を高めるため、VRの装着前に心地よいクラシック音楽を聴かせたといいます。

その結果、VRを装着したウシでは、ミルクの質と量が大きく増加していることが観察されました。

VRなしではウシのミルク生産量は1日約22リットルなのに対し、VRありでは1日約27リットルとなっていました。

約5リットルも生産量が増えたことになります。

トルコの酪農家が「ウシにVRを装着」して1頭あたりミルク5Lの増産に成功
(画像=VRを装着したウシは1日の乳量が5L増加 / Credit: Zekeriya Karadavut/AA(2022)、『ナゾロジー』より引用)

使用されたウシ用のVRヘッドセットは、ロシアのモスクワでテストされ、獣医師と連携して開発されたものです。

実験の成功を受けて、コチャック氏は「ロシアからさらに10個のVRヘッドセットを取り寄せ、ウシに取り付ける予定」と話しています。

この成果は牧畜業にとってプラスである一方、倫理的な側面からは疑問の声も上がっています。

より多くのミルクを得るために、ウシを”偽りの世界”に閉じ込めても良いのかどうか。

今後、人の手によってマトリックスへと誘われるウシが増え続けるかもしれません。


参考文献

A Turkish Farmer Tests Out VR Goggles on Cows To Get More Milk

İneklere sanal gerçeklikle yeşil çayırları izleterek süt üretimini artırmayı hedefliyor(Anadolu Ajansi)


提供元・ナゾロジー

【関連記事】
ウミウシに「セルフ斬首と胴体再生」の新行動を発見 生首から心臓まで再生できる(日本)
人間に必要な「1日の水分量」は、他の霊長類の半分だと判明! 森からの脱出に成功した要因か
深海の微生物は「自然に起こる水分解」からエネルギーを得ていた?! エイリアン発見につながる研究結果
「生体工学網膜」が失明治療に革命を起こす?
人工培養脳を「乳児の脳」まで生育することに成功