写真はフランス大統領のオランドと、前大統領のサルコジが2人揃ってJMウェストンを履き、政府主催の行事に参加した様子です。その装いはお揃いではないかと思わせるほど。ネイビースーツを黒(ノワール)の紐靴(ホールカットのようです)で引き締めています。政策では対立する二人ですが、自国の製品を愛する気持ちは変わりないという表れでしょう。
フランス人の友人を見ていて感心するのは、黒の使い方のうまさです。フランス人というと、とかくシンプルなコーディネートが話題になりますが、カラフルなものやガラものを着ていても黒や濃いグレーなどで上手く引き締めているからではないかと感じます。特に靴がそうで、男女問わず黒い靴が多いようです。
ワードローブが少ないと言われる彼らですが、靴もそれほど所有していません。件の彼も靴は2足、黒の紐靴とローファーがあれば十分だと言います(スニーカーは除く)。しかしその着こなしは必要にして十分、ですから説得力があります。黒い靴の魅力を改めて勉強しようと思います。
名品ぞろいで迷います。JMウェストンと言えば?
ここでは特に支持者の多いチェルシー、ゴルフ、180シグニチャーをサンプルにJMウェストンの特徴や魅力を紹介します。
ビートルズとともに時代を駆け抜けた、チェルシー
音楽だけでなく、マッシュルームカットと言われ当時としては衝撃的なヘアスタイル、細くそして短いパンツ丈、軍服からインスパイアされたミリタリージャケット。彼らは単なるファッションアイコンだけに留まらず、その生き方自体にカリスマとしての要素、いや毒を抱いてました。
彼らの足元を飾っていたのが、サイドゴアブーツです。これはJMウェストンのチェルシーというモデル。漆黒とも言える奥ゆきと、上品な輝きを併せ持つ魔性のような佇まいです。つま先は細くセクシーなのですが、決して行き過ぎていません。そしてそこから足首のくびれに向かってなだらかに立ち上ります。
最大の特徴はサイドシームがない事です。通常は、左右にレイアウトされたゴム部分に沿って(または下で)革を継ぎ合わせています。しかしJMウェストンは、1枚革で仕上げています。素材の取り都合や、継ぎ合わせによって立体感を出すという手段はとっていません。1枚の革で仕上げるホールカットなのです。
足を履き入れると、1枚革のフィット感に驚きます。他モデルにも共通することですが、やや窮屈に感じる着用感が、時間とともに足に馴染んでくるのが分かります。凛とした立ち姿が、足入れすることで適度な丸みを帯びてきます。・・・・・・・・・・・・甘え上手な小悪魔。
緊張の瞬間に立ち会った、ロバート・キャパのゴルフ。
Uチップで丸みのあるトゥデザイン、用いられた素材感、そしてグリップの強いラバーソール。これらの要素からも、名品ゴルフには非常にアクティブな印象があります。実際多くの新聞記者などに愛用されてことから『ジャーナリストシューズ』というニックネームが残されるほどです。
なかでも銃弾に倒れる兵士の瞬間をとらえたショッキングな写真で有名な写真家、ロバート・キャパもゴルフの愛用者であったそうです。戦場へ同行することはなかったでしょうが、様々な取材現場やジャーナリストとして緊張の瞬間に多く立ち会ったのではないかと想像できます。
ゴルフはとてもタフな作りいなっています。それだけに履き慣らしには長い時間がかかります。革の硬さから、まるで万力に締め付けられているようだと言う感想を残す人もいるほどです。しかしその後のフィット感は格別で、堅牢であること手伝って『10年は履きたい』という感想に変わります。
そして何と言っても特筆したいのがソールです。タイヤメーカーのミシュランと共同開発したグリップ力の強いソールが、滑りやすいヨーロッパの石畳でも実力を発揮してくれます。多少の雪道ならゴルフで問題なしという意見さえあるほどです。汎用性に長けた、頼もしいおさな馴染みのような存在でしょうか。
多くの著名人のワードローブに加わった、180シグニチャー
JMウェストンと言えば、まずこれをイメージする方が多いのではないでしょうか。グッドイヤーウェルトで構築されたペニーローファーです。1900年初頭、創業者の息子ユージェーヌがアメリカ、マサチューセッツ州のウェストンへ靴作りの修行に行き、そこで最先端の技術グッドイヤー製法を学んできます。帰国後完成したのが、このローファーでした。
1930年代になると、ジーンズにペニーローファーというコーディネートが流行し、180モデルも市民権を得ることになります。さらに1960年代、学生運動が世界中に伝播すると当時のフランス人学生がジーンズにこの180ローファーを履いたことが改革のシンボルとして取り上げらる事になります。
サイズも豊富で、レングスだけでなく、足幅(ウィズ)の展開が揃っていることも有名です。ですから『合わない靴はない』『困ったらウェンストンに行け』というエピソードがあるほど。そんな理由からでしょうか、多くの著名人、特にフランスの政治家や芸術家などの愛用者が多いと聞きます。
明るいブラウン(フランスではマロンと呼びます)やスェード使いもいいのですが、まずは黒(ノワール)を手に入れましょう。デニムとの相性がいいので上品なフレンチカジュアルが完成します。素足で、というのはもちろんアリですが、今の気分なら白ソックスというのもよろしいかと。
JMウェストンの歴史 一徹な靴職人の歴史
1891年、エドゥアール・ブランシャールがフランス中部の街・リモージュの工房でフランスの伝統的な靴作りを始めます。間もなく息子・ユージェーヌが参加します。彼はより近代的な靴作りを目指し、靴作りが盛んであったアメリアマサチューセッツに渡り、そこでグッドイヤー製法に出会います。
3年後帰国したユージェーヌは企業名をジェイエムウエストンとし、現在に至る靴作りの基盤が築かれていきます。その後ショーや演奏会を愛し、都会の生活を楽しむ粋人であったジャン・ヴィアールという人物の存在がJMウェンストンに影響をもたらします。熱心な靴職人ユージェーヌと、パリの趣味人ジャンのニ人には、しっかりとした作りでありながら、気品あるエスプリを備えた個性を完成させていきます。
1922年、パリ・クルーセル大通りに一号店を、32年にはシャンゼリゼにニ号店をオープンさせるなど事業としても成功を収めていきます。30年代には定番の「180」口ーファーも発表され、現在クラシックラインとして展開される名作が次々と生まれていきます。
1980年代にはリモージュ近郊の名門タンナー「デュプイ」を買収し、皮革の生産からトータルで手がける世界でも数少ないシューメーカーとなります。1986年、ニューヨークにて海外初のお店をオープンさせ、1993年には東京にもオープンをさせます。
2001年からデザイナーのミッシェル ペリーをディレクターに迎えると、ファッションブランド「Maison Kitsune」とのコラボレーションを実施するなど、さらなる進化を続けています。