上の写真はYOLOというソーシャルロボットです。YOLOはyour own living object の頭文字です。
人間と何らかのコミュニケーションが可能な新世代ロボットをソーシャルロボットといい、YOLOは米ワシントン大学(University of Washington)のパトリシア・アルベス=オリヴェイラ氏によって、子どもの創造性を刺激する目的で開発されました。
YOLOは「ミラーリング」と「コントラスト」という2つの動作により、遊びながら思考力を発達させる工夫がなされています。
ユニークな見た目ですが、これは実際に142名の子どもたちが設計の過程に関わり、4年間にわたってデザインされたものです。
研究は、2021年3月8日に出版された『HRI ’21: Proceedings of the 2021 ACM/IEEE International Conference on Human-Robot Interaction』に掲載され、HRI ’21のデザイントラックにおいて最優秀論文賞を受賞しています。
YOLO開発への道
子ども主体のデザインに向けて
ロボットのデザインを子ども主体で行うことは非常に困難です。
本来、ロボットを人間の要望通りに設計することは、簡単なことではありません。
ロボットを設計する際には、想定される使用者から、開発段階で具体的なフィードバックを得ることが不可欠です。
しかし、ユーザーテストができる状態までロボットを仕上げてしまうと、すでに変更できるデザインや仕様が限られてしまいます。
そのため、デザインが固まる前の早い段階からをフィードバックを取り入れるためには、インタビューやアンケート、画像やアニメーションを見てもらうといった方法をとるしかないのです。
そして今回は子どもが相手なので、このアンケートすらも困難です。
研究者たちはそのなかで、どのように子どもたちと共同で設計を進められたのでしょうか。
ペーパーキューブの遊びを観察
研究のスタート地点は折り紙の立方体でした。
一般に子どものおもちゃには幾何学的なものが多い、という理由から研究者らは折り紙を参考にしたそう。
ペーパーキューブで遊んでいる子どもたちの様子を観察することにより、YOLOのデザインや振る舞いの改良を柔軟に進められたのです。
例えば、子どもたちがキューブをつかむ際、端を丸くして使っていたことから、角ばったものでなく丸みを帯びたデザインが採用されました。
また、観察をする中で子どもたちはペーパーキューブに様々な個性を持たせました。
キャラクターに見立て、物語を生み出していったのです。不機嫌な人、シャイな人…といった様子です。
個性をキューブに持たせて遊ぶ様子を参考に、YOLOにもパーソナリティをもった振る舞いをさせました。
不機嫌というパーソナリティなら、YOLOは素早く振幅の大きい動きをします。
シャイであれば、ゆっくり、振幅も小さく、こそこそと動きます。
そういった観察と反映を繰り返し、それに対する改良とテストが重ねられ、現在のYOLOがようやく完成するに至ったのです。
YOLOの遊び方と教育的な効果
「ミラーリング」と「コントラスト」によるYOLOと子どもの交流
生みの親であるオリヴェイラ氏はYOLOの価値について、米webサイト『IEEE spectrumorg』が行ったインタビューで以下のように述べています。
YOLOの価値は、子どもたちとのインタラクションにあります。
子どもとYOLOのインタラクションを通じて、子供の創造力が刺激されるという点です。
このロボットは、創造性を刺激する手法を用いながらも、子どもたちが普通のおもちゃとして遊べるようなシンプルなものになっています。
YOLOは、ソーシャルロボティクスの利点と、すでに知られている従来のおもちゃの利点の両方を兼ね備えているのです。
概して、YOLOで物語を作ると子どもたちはより独創的なアイデアを持つようになります。
オリヴェイラ氏が語るYOLOの交流の特徴は「ミラーリング」と「コントラスト」の2つです。
これらの動作によって、子どもたちは物語を作りながら、思考を豊かにしていきます。
ミラーリングは写真のように、子どもが動かしたとき、YOLOがそれを真似て同じ動きで反応する動作です。
「登校」という物語でおままごとのように遊んでいるとき、子どもが右に動くと、YOLOも同じ方向に進み続けることがあります。
すると子どもは「YOLOが一緒に学校のほうへ向かっている」と解釈することができるでしょう。
一方で、コントラストでは次の写真のように、子どもによる操作とは異なる動作で応えます。
先程同様「登校」という物語で遊んでいた時、YOLOが子どもとは異なる動きを急にすることがあります。
このことから子どもは「YOLOは学校を嫌がっている」と解釈するかもしれません。
そして子どもはYOLOの斬新な行動を物語に取り入れて、思考とストーリーをクリエイティブに発展させていきます。
もしかしたら登校を拒否したYOLOとともに、日常とはかけ離れた大冒険に出かけるのかもしれませんね。
オリヴェイラ氏は、米webサイト『IEEE spectrumorg』が行ったインタビューの最後に以下のように述べています。
YOLOの開発は、創造性といった人間の本質的な能力を育むにはロボットをどのように活用できるのかを、様々な角度から探ることができた4年間の旅でした。
YOLOの設計・製作では多くの疑問に直面しました。
創造性のためのロボットを作るとはどういうことなのか。
子どもたちをロボットの設計に参加させるためには、どういった方法が必要なのか。
創造性喚起の成功については、どのように評価すればよいのか。YOLOのようなロボットでこれらの問いに答えることは、心理学、デザイン、工学など、他の多くの分野にも広く貢献することになると感じています。
あらゆる点にこだわりが散りばめられたYOLO。
使用感は子どもに最大限フィットするよう追求しつつ、機能面では子どもの意表を突く動作を取り入れたことで、子どもに長く愛用されながら、いつでも刺激を与えられるという役割が果たせるのでしょう。
将来、様々な分野で活躍する若者たちのなかに、「子どもの頃YOLOを使ってた!」という層も少しずつ現れるかもしれませんね。
私たちが昔お人形遊びをした幼少期のことを思い出すように、新世代がいずれYOLOの思い出話をすることを想像すると、今からワクワクしてきませんか?
参考文献
Children as Social Robot Designers What happens when you let kids design their own social robot from scratch
YOLO – Your Own Living Object
[HRI 2021] Children as Robot Designers
[HRI 2020] YOLO – Your Own Living Object
元論文
Children as Robot Designers
提供元・ナゾロジー
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